第10話 愛の入刀!

 ──体が吸い寄せられる様な、この程良い筋肉の感触は!

 この優しい温もりは!!この爽やかな汗の匂いは!!!


 そして、この端正な美顔は!!!


 間違いないわ!!!


「夢じゃないわ!蓮桜ーーーーーーーー!!!」


 もう離さまいと、蓮桜を全力で抱きしめた!


「ぐっ……!?ら、ライラック……!も、物凄い力だ……!」


「だって!ずっと寂しかったのよ!お屋敷では“お嬢”呼びだったし、それどころか、一ヶ月ぶりの再会なのよ!!これぐらい、我慢するべきだわ!!」


 わたくしが、そう言うと、蓮桜は呻き声をあげるのを止め、暫しの沈黙の後、


「…………そう、だな。」


 そう呟くと、両手を私の背中へと回してくれた。


「……すまなかったな、ライラック。」


 そして……、ギュッと抱きしめてくれた!!!


「────────ッ!!!」


 その瞬間、私の全身に、枯渇していた愛の力が、無限の様に湧き上がってくるのを感じた!


 ──今なら、何だって出来る気がする!!!


 そう直感した途端、福音の神器から、眩い虹色の輝きが解き放たれ、私と蓮桜を包み込んだ。


 その虹色の光の中で、そっと目を開くと、私と蓮桜の横に、ある者が佇んでいた。


「これは……、ライラックの使役している……鬼嫁と言ったか。」


「ええ。この子は、私の心の一部ですわ。」


 私が蓮桜と、運命の再会を果たせたからなのか、鬼嫁の表情は、まるで福をもたらす天女の様に、優しく微笑んでいる。


 今の彼女は、鬼嫁ならぬ──“福嫁”と呼んだ方が相応しいかもしれないわ。


 福嫁は、私と蓮桜を交互に見て、ニッコリと微笑むと、虹色の光に包まれ、その姿形を変えた。


 変化した姿は──、真っ赤な薔薇のブーケだった。純白の布で包まれていて、赤いリボンで結ばれている。

 ……そして、よく見てみると、薔薇の花束の中心には、包丁の切先が見える。


「……これは、何だ?花束の中に、鬼嫁の包丁の様な物があるが……。」


「……蓮桜。これは、きっと私と蓮桜にしか扱えない、愛の兵器ですわ!」


「……え?」


 蓮桜は、キョトンとしているけど、福嫁の主である私には、何となく分かるわ。

 

 私が、花束を手にすると、私達を覆っていた虹色の光は消え、辺りには再び、ピンク一色の世界が見えた。


 ……そして、私はようやく、この世界の崩壊の危機が迫っている事に、気が付いた。


「蓮桜!一緒に、このブーケを握って!!私と蓮桜じゃないと、力が発揮しないのよ!」


 蓮桜は最初、驚いた顔をしていたけど、私の真剣な瞳を見ると、すぐに頷いてくれた。


「……分かった。」


 そして、私の左手に重ねる様にして、右手で一緒にブーケを握ってくれた。


 すると、私の福音の神器と、蓮桜の闇の神器が、同時に光を放った。


「──ッ!マナの力が戻った!?」


「……ゲホッ!バ、バカな……!な、んで……、使えるのよ……!!」


 蓮桜が驚くのと同時に、近くで仰向けに倒れている、全裸のアレクシアも驚き、ギリギリと悔しそうに歯を食いしばっているのが見えた。


 けど、体が動かず、邪魔する力も無いようだわ。今のうちだわ!


 私と蓮桜は、ありったけのマナの力を、ブーケへと注いでいく!


「うおりゃああああああああああッ!!!」

「はあああああああああああああッ!!!」


 そして、薔薇の花が、虹色の光と、暗紫色の光に包まれ、混ざり合い……、包丁の鋒へと、その力を集結させていった!


「愛の入刀ですわ!!!」


 私が合図すると、包丁の鋒から放たれた鋭い光が、ピンクの空へと突き刺さり、この世界に風穴を開けた。


 そして、その穴から、金色の光が差し込み、この世界を優しく包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る