第7話 解かれた心の荊棘 (ロキ・アリーシャ視点)
【ロキ視点】
光のマナを体に纏いながら、水中へと飛び込み、既に遥か水深へと引き摺り込まれてしまったアリーシャさんを見つけると、光速で、アルの前へと先回りし、剣を構えました。
「────ッ!」
手負のアルが反応するよりも先に、強い光を放出させ、怯んだ隙に、二人の体を抱え、一瞬で地上へと脱出しました。
アルは、ほとんどの力を使い果たしてしまったのか、人間の姿へと戻っており、地面に倒れた後、何度も咳き込みながらも、私を鋭く睨みつけました。
「な、何故……、オレを……、助け、たんだ……!」
「……あなたは、アリーシャさんの良き友でいてくれたのでしょう。だからこそ、あなたを死なせる訳にはいきません。
私は、もうこれ以上、アリーシャさんを悲しませたくありません。それは、あなたも同じ想いでしょう?」
アルは目を見開きながら、私をジッと見つめた後、泣きそうな表情になり、やがて項垂れました。
もう、彼に戦意がない事を確認した私は、腕の中にいるアリーシャさんを起こそうとしました。
「アリーシャさん、アリーシャさん!!…………アリーシャさん?」
アリーシャさんに呼びかけてもピクリとも反応がなく、まさかと思い、私は慌てて、口元に耳を当て、呼吸をしていない事を確信すると、そのまま迷う事なく、
──アリーシャさんの唇に、私の唇を重ね、息を送りました。
*****
【アリーシャ視点】
「──ゲホッ!ゴホッ!!」
胸の奥から、むせ返る様な強い咳をしながら、私の意識は唐突に覚醒した。
「──ッ!アリーシャさん!」
最初は視界がぼやけていて、頭もボーッとしていた。
けど段々と、ロキが心配そうな表情で見下ろしている事に気が付き、ハッとすると、ゆっくりと身体を起こし、
「……ロキ……?」
と、キョトンとしながら声をかけると、ロキは、肺の空気を一気に吐き、
「良かった……!アリーシャさん、大量の水を飲んで、気を失っていたのですよ?」
と、今までに見た事のないぐらい、ホッと安堵していた。
……私、そんなにヤバかったの?……確か、気絶する前──。
私は、水中での出来事を思い出し、ハッとすると、慌てて周りを見渡し、仰向けで倒れているアルを見つけて、すぐに駆け寄った。
「アル!」
「……アリー……シャ。」
アルは、涙で濡れた瞳で、私を真っ直ぐに捉えると、申し訳なさそうに目を伏せ、震えながら口を開いた。
「……ごめん。怪我……させちまった……。本当は……、こんな、つもりじゃ……、なかった……!アリーシャを、泣かせたく、なかったのに……、逆に、傷つけちまった……!」
堰を切る様に、泣きながらそう言ったアルを見て、私は堪らなくなり、涙で濡れたアルの頬を、そっと撫でて、笑った。
「アル……。私は大丈夫よ。……言ったでしょ?アンタとは、場数を踏んできた数が違うって。」
「……さっき、アリーシャの心を、覗いた時に、正直、驚いたんだ。
アリーシャの心は、確かに、悲しみと怒りで、グチャグチャになっていた。……だけど、それ以上に、ロキに対する、あったかい気持ちで、いっぱいだった。
一番大切な人だと言っていたのが、よく分かる。
……人間の感情って、難しいんだな。……アリーシャは、ロキに対して、怒りや悲しみを抱いているのに、それでも、嫌いじゃないんだな。」
「……そうよ。確かにロキは、思っていたよりも鈍感すぎるし、いつまでも親心が抜けない、お節介者だけど……。
でも、それでも、ロキは私の事を、いつも一番に考えてくれて、いざという時に駆け付けて、危険を顧みずに護ってくれる。だから私も……、ロキを護りたい。ロキは、私にとって一番、かけがえのない大切な人よ。だから死んでほしくないわ。」
「…………そう、なんだなぁ……。……何だか、悔しい……な……。」
アルの声が、段々と萎む様に小さくなっていったと思ったら、アルの体が半透明になり、消えかけていく!
「アル!?」
「……平気だ。死ぬ訳じゃない……。暴走した影響で、マナが大量に消費されたから、それを回復させる為に、しばらく眠るだけだ。どれぐらい掛かるか分からないけど……。」
「……そんな……。」
泣きそうになる私の手を、アルが、ギュッと優しく握り、そして微笑んだ。
「……そんな顔を、しないでくれ……。オレは、オレのことを友達と呼んで、『アル』と名付けてくれた時の、アリーシャの笑顔が、好きだった。
それに、これで、お別れじゃない。いつか、オレが目覚めたら、また会いにきてよ……。」
そんなアルに私は、震える唇を引き結び、溢れそうになる涙を堪えると、口角をあげ、アルに優しく微笑んだ。
「…………ええ!眠っている間も、何度だって会いにいくわよ!……それに、私だけじゃない。ロキや、孤児院の子供達も一緒に、会いに行くわ!きっと、アルと仲良くしてくれるわ!そうしたら、もう寂しくないわ!」
「……ありがとう、アリーシャ。」
最後は子供らしく、無邪気な笑顔を見せて、アルは、そのまま長い眠りへとついた。
アルが消えた場所には、いつの間にか、一輪のアルの花が咲いていた。
私は、その花を両手で包む様に、そっと触れ、
「……おやすみ、アル。」
と、優しく撫でた。
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