第3話 嫌な予感は的中するもの (ライラ・カルド視点)

【ライラ視点】


「はあ……。」


 お祖父様によって自室に強制送還された後も、モヤモヤが募るばかりで、机の上で頬杖をつき、ハンカチをヒラヒラさせながら、ずっと蓮桜の事を考えていた。


 お祖父様は、蓮桜は浮気をする男ではないから、大丈夫だと仰っていた。確かに、冷静になって考えてみれば、その通りですわ。


 …………それなら、蓮桜の事を信じて、待ってみるしかないのかしら。


 ……いや、もう1ヶ月以上も待っているのよ!?


 ──待てるはずないわ!!!


「やっぱり、私から言わなくては!!!」


 机を思いっきり叩き、勢い良く立ち上がりながら、そう決意した。


 その時に、正面にある本棚が目に入ると、私はハッとし、その中の一冊を手にし、バラバラバラと、ページを捲りまくった!


「確か…………、ああ!ありましたわ!!」


 最後の方のページに、お目当ての内容が記載されていたわ!


 この世界では、婚姻の契りを交わす時に、その相手に相応しい宝石を贈り合う風習があるわ。


 昔、お母様は結婚式の時に、お父様に希少な宝石を贈ったらしいのだけれど、その宝石の説明を聞かされた時に、ビビッときたのを覚えていますわ!


 私も未来の旦那様に、この宝石を贈りたいと!


 その宝石の名は──、


「……“フレリア”。宝石言葉は……、永久不滅の愛!!!」


 開いたページには、深い深い愛を示す様な、ディープレッドの、掌サイズの宝石の絵が描かれていた。


 濁りのない紅色が、純情で熱く、そして宝石言葉通りの愛の深さを示している様ですわ!!


「ええっと……、採掘場所は…………、アースベルから北の方角の、小さな洞窟の様ですわね。」


 同じ大陸なので、一先ず安心したけれど、距離は、そんなに近くはなさそうだわ。きっと、丸一日は掛かりそうですわ。


 う〜〜ん……、蓮桜には内緒にしたいから、一人で行きたいのだけれど……、お祖父様が、お許しにならないと思うのよね。


 ……かと言って、もう待つのには飽き飽きですわ!!

 愛の証は、自分自身の手で掴んでみせたいわ!!


「…………フンす!!」


 両手の拳を、胸の前でギュッと握り締め、鼻息を思いっきり鳴らし、決意を固めた私は、ササっと旅支度を始めた。



【カルド視点】


「……全く。ライラックには困ったものじゃ……。」


 わしは、ライラックを部屋まで送り届けた後、ドッと疲れが押し寄せてしまい、業務どころではなくなってしまったわい。


 このままでは、残り少ない毛根が、絶滅してしまうわい。完全に干からびてしまう前に、蓮桜には早く帰って来てもらいたいところじゃ。


 ……それに、わしも、蓮桜に頼みたい案件がある。


 最近、希少な宝石、フレリアの採掘場所である洞窟が、ある日突然、丸ごと消えてしまった様なのじゃ。


 洞窟が破壊された様な形跡はなく、まるで神隠しの様に、洞窟ごと消えてしまったらしいのじゃ。


 もしかすると、マナ関係の事件かもしれぬ。神器を持つ蓮桜には、一刻も早く、調査してもらいたいと思っておる。


「……それにしても、フレリアか……。」


 あれは何年前じゃろうか……。わしの娘で、ライラックの母親──ヒメラが、未来の旦那様の為に、フレリアを手にしたいと言って、わしに内緒で、丸一日、屋敷を抜け出した時があったのう。


 好きな相手には一途で、一度決めた事は、最後まで一人でやり遂げようとする姿勢は、間違いなく、ライラックへと受け継がれたのう。


 ……そう考えると、突然、背筋が寒くなってきたわい。


「……まさか、ライラックも、愛の証を一人で取りに行こうとは……しないじゃろうな?」


 ………………何故じゃろうか。




 ──とてつもなく、嫌な予感がする。


 そう感じ、居ても立っても居られなくなり、再びライラックの部屋へと、足早で向かった。


 ────が、


「ライラック!」


 部屋の扉を開けると、そこには、誰も居らず、机の上に、書き置きが残されておった。


 慌てて読むと、そこには──、


『拝啓お祖父様。私は、愛の証を取りに行きます。どうしても、蓮桜には内緒で、一人で取りに行きたいのですわ!私は旅を経て、神器を、かなり使いこなせる様になりましたわ!ですので、どうか心配せずに、いつも通り、業務と育毛に励んで下さいな!』


 最後に小さく、ライラックの似顔絵が描かれており、ウインクして、舌を斜めに出しておる…………。


 …………嫌な予感が、的中してしまった……!


 わしは、その場で頭を抱えながら、ライラックの無事と、蓮桜の早々の帰還を祈る事しか出来なかった……。

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