第11話 干渉

 デャーラルクは、ルカの唇を引き攣らせ、歪んだ笑みを向けたまま、骨の翼を広げた。


「まあ、せめて、この体の持ち主の最後の願いぐらい、叶えてやろうかしら。

 ここにいる全員、皆殺しにするってね。」


 すると、骨の一本一本が、まるで蔓のようにしなかやに伸び、この場にいる全員に向かって、四方八方から差し迫ってきた!


 ノアは、私を抱えてジャンプしながら避け、ラビーは倒れているマオと、リアンを囲む様に円形の結界を張り、攻撃を凌いでいる。


「凛花とルナを頼む!!」


 ノアは、結界の近くまで接近すると、そう叫び、私を結界内へと放り投げた。


「ノア!」


 リアンに受け止められながら叫んだ私に対して、ノアは一瞬、こちらを振り返り、大丈夫だと言うように、笑っていた気がした。


 そして、ルカに刺された傷を回復しておらず、まだ傷口も塞がっていないというのに、ノアは目にも止まらないスピードで、攻撃を避けながら急接近していく。


「……ルカの最後の願いは、そんなんじゃねーよ!!」


 ノアはそう叫び、両足に破浄魂を纏いながら高くジャンプすると、力強く地面を踏み砕いた。


 すると、ノアを中心とした複数の地面から、光の柱が立ち昇り、骨の翼を巻き込み、消し去った。


「ルカは、オレ達に“たすけて”って言ったんだ!」


 そう怒り叫び、そのままデャーラルクに向かって一気に跳躍し、その顔面に殴り掛かろうとしていた!


「待っ──ッ!」


 私は制止の声を張り上げようとしたが、ノアの動きが、デャーラルクの手前で鈍くなっている事に気が付いた。


 ノアも、このままデャーラルク──ルカの体を傷つけて良いのか、迷っているみたいだ。


「……バカね。」


 デャーラルクは、鼻で笑うと、右手を上空へと掲げた。


 すると、──ドンッ!と大地が巨大な鉄槌で叩きつけられた様な音がし、それと同時に、ノアが見えない力によって、地面に叩きつけられた!


「ぐっ……!」


「ノア!!」


 よく見ると、ノアを中心とした空間は、黒いマナが覆っている。重力系の魔法を使っている様だわ!


 そして、上空に巨大な黒い槍が現れ、漆黒に光る刃が、身動き出来ないノアを容赦なく刺し貫こうと迫りつつある!


「──ッ。」


 その時、リアンが漆黒の翼で上空へと舞い上がり、そこからデャーラルクに向かって、翼を大きくはためかせ、翼の刃を幾つか放った。


 けれど翼の刃は、デャーラルクには当たらず、彼女の周りを囲む様に地面に突き刺さると、黒いマナを放出させ、デャーラルクを覆った。


 すると、デャーラルクが膝をつき、同時に重力も弱まり、巨大な槍も消えた。ノアはその隙に立ち上がり、その場からジャンプして離れた。


 リアンが放った翼の刃は、リアンの深化の力──相手を無気力にするマナを放出していたみたいだ。


 けれどデャーラルクは、余裕の笑みを絶やさないまま、リアンを見上げている。


 リアンがその様子に、訝しんだその時。


 ──シュッ。


 一瞬、乾いた音が響いたと思った後、リアンが左脇腹の辺りをおさえ、空中で少しよろめいていた。


「リアン!!」


 ラビーが、ハッとし、手で口を押さえた。


 目を凝らして、リアンを見てみると、左脇腹に手の平サイズ程の、小さな槍が突き刺さっている!


 無気力状態に陥りながらも、巨大な槍を極小の槍へと変化させ、力の消費を最低限のものにし、刺したみたいだ!


「マナのコントロールが凄まじいわね……。凛花もこんな調子だし、埒があかないわ。」


「……本当に、ごめん。」


 ラビーに、そう謝りつつも、未だに弓矢を構えられない。

 ルカの体を傷つけてしまうし、そもそも、ダメージを与え続ける事で、デャーラルクをルカの体から引き剥がせるのかも確信がない。


 そんな私の心中を察し、ラビーは少し考えた後、ハッとすると、


「……ノア、来なさい!」


 と、ノアに手招きをすると、ノアは速やかに結界内へと入ってきた。


「何だ?何か思いついたのか?」


「ええ。うまくいけば、デャーラルクを、ルカの身体から引き剥がせるかも。……ノアと凛花次第だけど。」


「え?どういうことなの?」


「私は他人の心に干渉できる。以前、凛花の心に干渉して、私の記憶を見せた事があるでしょう?その力を使って、凛花とノアとルナを、ルカの心に干渉させる。

 そして、ルカの心の中を巣食っている、デャーラルクの精神体を追い出して。」


「……よく分かんねえけど、心の世界で、ぶっ飛ばせば良いんだな?」


「そうよ。私とリアンで、この場は持ち堪えておくから。頑張って。」


 ラビーは、そう言うや否や、私とノアに向かって、両掌を突き出し、青紫のマナを放出した。


 そのマナを浴びた次の瞬間、フッと意識が途切れた。


 


       ****



「────ッ!!」


 ハッとして目を覚まし、上体を起こして辺りを見回すと、そこは、真っ暗な光景しかなかった。

 そのうえ、紫色の靄が辺りを覆い尽くしていて、余計に何も見えない。唯一分かるのは、自分が立っている場所が、乾ききって痩せこけた死の大地だという事ぐらいだった。


「……こ、ここは、ルカさんの世界なのです?すごく、怖いのです……。」


 私の足元に、くっついているルナが、小刻みに震え、泣きそうに大きな目を潤ませていた。


「……大丈夫だよ、私もいるから。ノアも──」


 ルナの頭をそっと撫でながら、そう言っている途中で、ノアがすぐ近くに居ないことに気が付き、思わず言葉を止めてしまった。


 ……きっと、ノアもこの世界の何処かにいるはずだと、怖気付きそうになった自身にそう言い聞かせ、ルナを抱き上げて立ち上がった。


 一度、大きく深呼吸し、前方を見据えると、ゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと慎重に、一歩を踏み出し歩みを始めた。

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