第29話 熱い漢・バーン様

 光が消えると、そこにはバーン様の姿があった。


 20代後半ぐらいの青年で、上半身は、逞しい筋肉を露わにしており、その肌の色は深紅に染まっている。焔色の力強い瞳と、逆立つ髪は、まるで炎の様に、ゆらゆらと揺らめいている。


 バーン様は、私達を見下ろすと、ニッと白い歯を見せ、豪快に笑い出した。


『フハハハ!久々の娑婆の空気は美味いな!!燃えてくるぜ!!!』


「きゃっ!!」


 ゴオッと、バーン様の炎の髪が、天井に空いた穴から夜空まで燃え上がった。まるで火山が噴火したみたいで、私は思わず飛び上がった。


 おまけに、涼しくなっていた部屋も、再び灼熱地獄と化している。またクラクラしてきた……。ノアとルナも慌てふためいている。


「あちっ!あちっ!あちちちっ!!」

「お、お毛けが燃えてしまうですの!」


「ちょっと!部屋が熱くなったじゃない!」


 アリーシャも精霊様を相手とはいえ、さすがにブチギレた。


『おっと!すまん!興奮しすぎたか。』


 バーン様は、ガハハと笑いながら謝罪すると、炎を収めた。


 エアル様の時も思ったけど、精霊様って、皆、個性が豊かなのかもしれない。


「……昔と変わらず、安心しました。」


 ロキさんは、そう呟いた後、大剣を自身の左側に置き、片膝をつくと頭を下げた。


「お久しぶりです、バーン様。ずっと、ずっと……、あなたが目覚めるのを信じておりました……!」


 震えながら顔を上げたロキさんの目からは、涙がこぼれ落ち、潤んだ瞳で、しっかりとバーン様を見上げていた。


『……もしや、ロキか!?あの坊主が、随分と立派になったな!!』


 バーン様は、久々の旧友との再会の様に、ロキさんの肩に腕を回し、嬉しそうに笑った。ロキさんも、泣きながら笑っている。


 私も、その光景を見て、涙が溢れてきた。


 ロキさん、良かったね……。


『お!その神器、使ってくれているんだな!』


「はい!この大剣にふさわしい男になろうと、日々精進しております!」


『そうか!ロキは相変わらず生真面目だな!ガハハ!』




       ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



 ひとしきり語り合い、ロキさんもすっかり涙が乾いたみたい。


 バーン様は、今度は私と向き合い、じっと見つめる。力強く熱い視線に、私は緊張のあまり、自然と背筋をピンと伸ばし、固まる。


『……そうか、お主が凛花か!なるほど、エアルの言う通り、どことなく聖女様に似ておる!』


「え!?エアル様!?」


『そうだ!我らは、封印されている間も、会話をしていたのだ!先日、一足先に目覚めたエアルから、お主達の事を聞いたのだ!』


 精霊様は、そんなことも出来るのだと、私達は驚いた。


『鍵の事も聞いている。……しかし、不思議な事もあるものだな。凛花の世界に鍵があったとは!他の精霊も天地がひっくり返ったかの様に驚いておったな!』


 そういえば、エアル様もかなり取り乱していたけど、他の精霊様も、同じ反応をしているんだ。


 でも、確かに、私もずっと不思議に思っている。何で私はこの鍵を持っていたんだろう。


 私は首を捻りながらも、今はバーン様にマナを注いでもらおうと、鍵を差し出そうとした。


「あ、あの!!その前に、バーン様に聞きたいことがあるのです!」


 その時、突然ルナが私の肩に飛び乗り、バーン様に真剣な眼差しを向けた。


 どうしたんだろう、急に……。


『む?何だ、モフモフおチビさん。』


 ルナは、一瞬ためらったが、意を決すると口を開いた。


「あの!私と会った事はありませんか!?」


 そういえば、エアル様にも会った事がある気がするって言っていたけど、まさか、バーン様にも?


 しかし、バーン様は、難しい顔をしながら、首を捻っている。


『……ぬぬぬ?我は、お主の様な妖精に、一度も会った事はないぞ?人違いではないのか?』


 こんな見た目の人、他にいないと思うけど……。でも、バーン様は、本当に分からない様子だ。


 ルナは、少し残念そうにしながらも、

「そ、そうですよね。」

 と、渋々頷くと、私の肩から飛び降りた。


 少ししょんぼりしているルナに、ノアが優しく頭を撫でて、励ましてくれている。


『ぬぬ。力になれず、すまぬ!……だが、鍵にマナを注ぐのは任せてくれ!』


 バーン様は、ニカッと白い歯を見せて笑顔になると、私の手にある鍵に手を翳す。


 すると、鍵が光り輝き、4つのクリスタルの内の1つが燃える様な紅に染まっていった。


「すごい……!」

「こうして鍵が完成していくのですね!」


 アリーシャとロキさんは、初めて見る光景に、目をキラキラと輝かせている。こうして見ると、やっぱり兄妹みたいで微笑ましい。


「これで、あと2つの宝石にマナを注げばいいのか!」


 ノアの言葉に、バーン様は力強く頷く。


『そうだ!あとは、水の精霊アクアと、地の精霊グランを目覚めさせてくれ!』


 あと2体……!


 私は、希望と同時に、不安も渦巻いているのを感じた。


 今後も、あの白魔と黒魔女の手先も襲ってくるかもしれないし、さっきの様に命の危険に晒されるかもしれない。


 …………それでも、真希とゆうに、もう一度会いたい。


 私は、鍵をギュッと握りしめると、バーン様を真っ直ぐと見上げる。


「……はい!必ず!」


 そう言った途端、ノアが私の肩をポンと叩いてきた。


「よく言った、凛花!オレたちも、最後まで付き合うからな!」


 そう言い、ニッと笑うノアの横で、アリーシャとルナも笑顔で私に頷いた。


 それを見て、不安の渦が、段々と小さくなっていくのを感じた。


「……ありがとう。」


 そうだ。私は、一人じゃないんだ。


 そう改めて感じ、私は笑顔でお礼を言った。


 


 


 


 





 


 


     

 




 


 


 


 


 




 


 


 


 


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