後日談 アリーシャと荊棘の精霊
第1話 小さな森と小さな盗賊
──凛花達との旅を終えてから、4年。
私は14才になって、ロキは26才になった。
背はかなり伸びて、ロキの肩ぐらいの身長になったし、胸だって、少しは大きくなった(それでもライラには負けるけど……)。
おさげのツインテールから、ショートカットに変えて、少しは見た目も、大人っぽくなった。
だから、もう少し、大人として見てくれたって良いというのに、4年前から、全然進展がないのよね。
……まあ、身長差は縮まっても、年齢差は変わらない。
やっぱり、ロキにとって私は、いつまでも年下の子供なのかしら。
「……はあ〜〜。」
思わず吐いた、暗いため息が、穏やかで閑静な空気中に溶け込んでいく。
今、私がいる場所は、ドランヘルツから北東へと、砂漠を抜けた先にある、小さな森の中。
小さな泉と、木々が立ち並ぶだけの、シンプルな森だけど、泉を照らす陽だまりは温かく、反射された泉は、まるで、細かくあしらわれた宝石の様に、キラキラと煌めく。
私は最近、この森を見つけたのだけれど、すぐに、この光景が気に入ったの。
一人で落ち着きたい時とかに、うってつけの場所だわ。
今日も、小休憩に立ち寄ったのだけど……。
「……ねえ。」
私は、背後を振り返り、木々の奥を睨みつけながら、声をかける。
「そこに、誰か居るんでしょ?さっさと出てきなさいよ!」
すると、ガサガサッ!──という音と共に、木々の間から素早く抜け出し、こっちへと向かってくる人影が現れたので、私は雷牙で受け止めた。
閑静な森の中で、金属のぶつかり合う音が響き渡った。
「────ッ!!」
相手の男の子は、攻撃を受け止められたからか、驚いて目を見開いていたが、すぐに私から距離を取り、じっと睨みつけてくる。
見た感じ、10才ぐらいの男の子だ。
ギザギザ刃の、二振りの短刀を両手に持ち、ボサボサの黒い短髪に、汚れたシャツに短パン。それに、この子以外の気配は、周囲には感じられない。
何となく、昔の自分と重ねた私は、まさかと思い、その子に尋ねる。
「……ねえ、あなた、もしかして……、盗賊なの?」
「……だから何だ!オレを捕まえるのか!?」
「別に、捕まえないわ。もし身寄りがないんだったら、良い環境に連れて行ってあげるわよ。」
「は?そんな話、信じられるか!オレを舐めやがって!」
……ったく、小さい体しているのに、威勢は良いのね。本当に、昔の自分を見ているかの様だわ。
キッと睨みつけながら、再び向けられた刃を、私は半身で躱し、雷牙を振り上げて、彼の短刀を空中へと薙ぎ払った。
「なっ……!」
男の子は、泉の傍へと落ちた短刀と、私を見て、悔しそうに睨みつけるも、やがて不貞腐れた様に、胡座をかいて座り込んだ。
もう暴れる気はないんだと確信すると、私も雷牙を納めて、彼の横に座った。
そして、口を開こうとするよりも先に、意外にも彼の方から話しかけてきた。
「……お前、女のくせに強いんだな。どうせ勝てないから、警備隊に突き出すなり何なり、してくれても構わない。」
意外と潔いのね、この子。
そう感心しつつ、私は首を横に振った。
「だから、捕まえないって言ったでしょう?私も、あんたぐらいの歳まで、ずっと盗賊として生きてきたし。」
そう言うと、彼は、目をまん丸にして、私の事を見つめてきた。
こういうところは、子供っぽくて可愛いわね。
……って、凛花もロキも、きっと、私の事をそんな風に思って、よく微笑んでいたのね。
「……けど、あんたは、身なりは良さそうだ。もしかして、盗賊として一攫千金を手にして、億万長者になったのか!?」
「ち、違うわよ!10才の時に色々あって、今は孤児院で住み込みで働いているのよ!」
彼のキラキラとした目は一転し、再び鋭い目つきへと戻ってしまった。
「……何だ。さっき、良い環境に連れて行ってやるって言ってたのは、孤児院の事かよ。オレは、他人と馴れ初め合う気はない。ここで一生、一人で生きていた方が、よっぽと気楽で良い。」
「ここで?あなた、この森に住んでいるの?ずっと一人で?」
「そうだ。物心ついた頃から、この森にいた。ここ一週間は、出稼ぎに出ていたんだが、帰ってきたらアンタが居たから、驚いたよ。」
「そうなのね。でも、盗賊なんて危ないし、いつか本当に捕まるかもしれないわよ?私と一緒に、孤児院に来ない?」
そう手を差し伸べたが、彼はスッと立ち上がると、素早く後退りし、動物のように威嚇の表情を見せ、吠えたてた。
「嫌だ!さっさと帰れ!!」
……まあ、今日は、これ以上の進展は無理かもね。
「……分かったわ。けど私ね、この森、すごく気に入っているから、また会いにいくわ。もちろん、アンタのことは、誰にも言わないであげるわ。」
そう言い、踵を返そうとしたところで、そういえばと思い出し、最後に彼に尋ねる。
「……そういえば、あんた、名前は?私はアリーシャって言うの。」
彼は、しばらく睨み続けた後、やがてポツリと声を出した。
「……名前は、ない。だから、好きに呼んでくれて良い。」
……そっか。物心ついた頃から、一人で生きてきたんだっけ。
「……う〜ん。好きに呼んでって言われても……。」
そう考えつつ、ふと泉のそばに生えている、一輪の白い花が目に入ると、パッと思いついた。
「じゃあ、アルは?あそこの花と同じ名前なのよ。花言葉はね、友達よ!」
「……と、友達……。」
聞き慣れない言葉に、目を見開いているけれど、別に嫌ではなさそう。
「じゃあ、決まりね!またね、アル!」
手を振ると、アルは手を振り返さずに、相変わらずムスッとしていたけど、森を出るまで、私の事を見送ってくれた。
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