第4話 異変 (アリーシャ・ロキ視点)

【アリーシャ視点】


 ……ヤバいわ!これじゃあ、謝るどころか、また雰囲気悪くなっちゃう!ロキが帰ってくる前に、急いで帰らないと!


 そう焦りながら走り続けていると、突然、背後から、全身がゾワッと総毛立つ様な、嫌な気配を感じ、足に急ブレーキをかけて振り返る。


 すると、森のある方角が、黒い靄の様なもので、覆われているのが見えた。


「……アレは……、黒いマナ?」


 4年前に戦った、黒魔女のラビーから発していた、黒いマナと似ている気がする──けど、少し違う気もする。


「……ッ!アルが危ない!」


 何が起こっているのかは分からないけど、今は、考えるよりも先に、アルを助けないと!


 急いで踵を返し、私は森へと走り出した。



【ロキ視点】


 日が沈みかけた頃に、ようやく孤児院へと戻れましたが、アリーシャさんの姿は、何処にもありませんでした。


 子供達に聞いてみたところ、買い出しに出かけたきり、戻っていないとの事でした。


 ……恐らくまた、町の外に出かけてしまったのでしょう。


 帰ったら、すぐにでも、アリーシャさんと昨日の事について、お話ししたかったのですが……、もしかしたら、私とお話しするのは、嫌なのかもしれませんね。


 ……今のアリーシャさんぐらいの年頃は、子供から大人へと成長する為に、心境が一番複雑になる時期です。それは、私にも覚えがありますので、よく理解しているつもりです。


 それに、アリーシャさんは、十分にお強いですし、一人で何でも出来てしまう器用な方なので、世話を焼かずに、そっとしておくのが、一番良いとは思っているのですが……、未だに、心配する癖が抜けきれず、結果的に、アリーシャさんを傷つけてしまいました。


 ……もしかしたら、もう、帰って来ないのかもしれません。


 私は、日が暮れた後も、ドランヘルツの入り口に立ち、アリーシャさんの帰りを待ち続けていましたが、不意に、そんな考えが頭をぎってしまい、思わず溜息が漏れてしまいました。


 冷え始めた空気の中、右側に暑苦しい気配を感じた次の瞬間には、やはり予想通り、バーン様が現れました。


『ロキ、珍しいな!お主が溜息を吐くとは!明日あすの天気は大荒れか!?』


 おどけるバーン様に、私は容赦なく睨みつけました。


「……ふざけていないで、白状して下さい。バーン様は、本当はご存知なのでしょう?……アリーシャさんの行方を。」


 バーン様は、この街だけではなく、砂漠の周辺まで見渡せる他、音も拾い上げる事が可能な方なので、アリーシャさんが毎日向かっている先を、知らないはずがありません。


 バーン様は、暑苦しい笑みを止め、険しい表情で顔を捻りながら、何かを考え始めました。


『う〜む……。だが、アリーシャは、少年と約束をしておるから……、我の口からは、言えぬッ!』


 ブツブツと考え事を口にし、最後には、目をカッと見開き、強い眼差しで私を睨み返しました。


 ……虚勢を張っていますが、相変わらず、隠し事が下手ですね。


「……少年と約束?アリーシャさんは、誰かと会っているのですね?」


『………………いや?』


「嘘をおっしゃい!一体!どこで!誰と!会っているのですかッ!?」


『おい!落ち着けロキ!と、とりあえず、その神器を納めろ!…………まあ心配せずとも、アリーシャは、その内、お主にも話してくれるであろう。』


「…………本当に、話してくれるのでしょうか。……そもそも、帰ってきてくれるのでしょうか。」


 抜いた光の神器を、再び背に納め、俯きがちに呟いた私を、バーン様は、しばらく黙って見つめた後に、私の両肩を握り潰しそうな勢いで、ガッと強く掴みました。


「……普通に痛いです。」


『ロキよ!お主が信じてあげないで、どうする!!……アリーシャは、何があっても必ず、お主の元へと帰るさ!』


「……ですが私は、嫌われてしまったと思います。」


『いいや!それはあり得ないさ!!アリーシャが、お主に対して冷たい態度を取りがちなのは、寧ろお主の事が────』


 バーン様が、何かを言い掛けた、その時でした。


 ドランヘルツの北東の方角から、邪悪なマナの気配を感じ、二人でハッとして、その方角を睨みつけました。


「何ですか、このマナの気配は……?」


『…………まさか、アルという少年は……。』


「……アルという少年?まさか、アリーシャさんが会っている人ですか?」


『……そうだ。そして恐らく、アルは、あの森で生まれた、精霊の可能性がある!今まで、人間と変わらぬ程に、微弱な気配であったから、この様な事態になるまで、全く気が付かなかった……。我ながら、何と情けないッ!!』


「……アリーシャさんも、その精霊の元にいるのですね?」


『……ああ。今、向かっているところの様だ!』


「────ッ!バーン様は、万が一に備えて、この街を守って下さい!」


『ロキ!!』


 バーン様の呼び止める声を、背中で聞き流し、私はドランヘルツを飛び出しました。


 ──もし、アリーシャさんに何かあったら、私は……!


 そう思い、私は抜いた光の神器を、長剣に変化させると、剣から流れる光のマナの力を借りて、夜の砂漠を光速で駆け出しました。

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