第58話 白き悪魔と、黒き天使 (ノア視点)

 オレは、迅速に飛んできた槍を、素早く横へ避けると、右足を振り上げ、通り過ぎたカロスの後頭部を、思いっきり蹴り落とそうとした。


 しかし、カロスが瞬時に旋回し、両目を斬り裂こうとしたので、オレは慌てて頭を反り返り、何とか避けた。


 あっぶねえ……と、ヒヤリとしつつも、楽しんでいる自分がいる事に気が付き、自然と笑みがこぼれた。


「わわっ!」


「チッ。ちょこまかと……!」


 その時、背後で、バチバチッと音がしたから振り返ると、そこには、爺さんの放つ雷を、何とか避け続ける凛花がいた。


「凛花!」


 凛花の元へ行こうとしたが、凛花は首を横に振った。


「わ、私は大丈夫だから、ノアはカロスを何とかして!!」


 すると、返事をする暇もなく、上空から黒い刃が降ってきたので、避けながら上空を見上げると、そこには宙を浮くカロスが、素早く連続的に、槍を突いていた。


 反撃しようにも、槍のせいで、リーチが長く、ここからだと拳が届かない。


「っ……!」


 そしてついに、黒い刃が、オレの右肩を貫いた。


 身動きが取れないオレに、カロスは、槍を持たない左手を突き出し、容赦なく黒い光線を放とうとした。


 ピンチか……と、思ったが、これは逆にチャンスだ。


 オレは、ニヤリと笑うと、槍の柄を掴み、カロスを引き寄せた。

 

 槍が、さらにオレの身体をズブズブと貫いてきて、かなり痛いが、構いやしないさ!


 一気に近付いたカロスの顔面に、オレは思いっきり拳を喰らわせると、さらに息つく暇を与えずに、全身に殴打と蹴りを何度も繰り返した。


「おらあっ!!!」


 最後に、渾身の拳を、やつの鳩尾にめり込ませ、吹っ飛ばした。


 そして、槍を自ら引っこ抜くと、天を仰ぎながら倒れた、カロスに向かってジャンプし、腹へとブッ刺した。


 カロスは、血反吐を吐きながら、苦しそうに両腕で、宙を掻き抱いた。


 だが、それも束の間。掻き抱いていた両手を広げるや否や、オレに光線を放った。


「おっと!」


 オレは間一髪、後ろへ反り返って避けると、そのままクルリと後方回転し、間合いをとった。


「はははっ……!」


 やっぱり、こいつ、侮れないな。面白えわ……!


 久々に、血が湧き上がる様な気持ちだ!こんな状況なのに、笑いが止まんねえ。多分、オレ今、悪魔みたいな笑顔をしているんだろうなあ。凛花が後ろにいて、良かったぜ。


 グオオオオオオオオッ!!!


 カロスは、槍を引っこ抜き、雄叫びをあげると、再び上空へと舞い上がり、翼を大きく広げた。


 すると、次の瞬間、翼から、刃の様に鋭く尖った黒い羽が、次々と飛んできた。


 走って避けるも、羽の雨が止む気配がない。ジャンプして襲撃する暇もないし、どうするか……。


「ノア!!」


 振り返ると、そこにはカロスに向かって、炎の矢を構えている、凛花がいた。


 しかし、その背後では、爺さんが凛花の背中に目掛けて、雷を放とうとしていた。


「凛花!!」


 凛花が炎の不死鳥と化した矢を放つのと、オレが飛び出し、凛花とすれ違ったのが、ほぼ同時だった。


 その瞬間のオレたちは、互いに背中を預け、それぞれの敵へと見据えていた。


「くらいなさい!」

『プスプスになるのです!!』


「おらあっ!!」

「ぐぬっ!?」


 爺さんの手から、雷牙を蹴り落としたのと、カロスの雄叫びが聞こえたのも、同時だった。


 二振りの雷牙は、遥か下方へと落ち、背後では、両翼が焼け落ちたカロスが、黒煙をあげながら膝をついていた。


「か、雷の神器が……!」


 憎々しげに睨む爺さんに、オレも睨み返した。


「……もう、終いだ。」


 そう静かに告げたが、爺さんは、突然フッと笑った。


「……まだじゃ。」

「ノア!!」


 凛花の声で、振り返った瞬間、オレの腹に黒い槍が、ブッ刺さった。


「ぐっ……!」


 それと同時に、カロスがオレの顔を掴み、そのまま一緒に屋上から飛び降りた。


「ノア!!」


『ノアさん!!』


 凛花とルナの叫び声が、足早に遠ざかっていく。


「…………っ!おらあっ!!」


 オレは、痛みに堪えながら、槍を引き抜き捨てると、カロスと迅速に落ちながら殴り合った。


 何とかして、こいつだけは倒さないと……!


 すると、その時、両足が温かい風に包まれ、軽くなった様な気がした。


 凛花が、遥か屋上から、風のマナを与えてくれた様だ。


 そして、オレたちが落ちる先────、さっきの儀式の間から、2つの光が見えた瞬間、オレは勝利を確信し、ニッと笑った。


「じゃあな!久々に楽しかったぜ!」


 カロスに、そう礼を言うと、カロスの拳を、ヒラリと躱して回転をかけ、旋風と化した両足で、思いっきりカロスを蹴り落とした。


「頼んだぜ!!」


 そして、2つの光の正体────、光翼の剣を構えるロキと、閃電の双剣を構えるアリーシャに向かって、笑顔で叫んだ。


「はあっ!!」


「おりゃああああっ!!」


 2人は、それぞれの刃で、神速に落ちてきたカロスの背中を貫き、そのまま心臓を突き破った。


 グオオオオオオオオオオオオ…………ッ!!!


 カロスは、断末魔をあげると、黒い塵となり、暗雲の彼方へと消え去った。


 

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