第9話 融合
フワフワと舞い降りるルナを、受け止めようとしたが、それよりも先に、ラビーが手を伸ばして受け止め、モフモフの体を顔に押し当てながら嬉しそうにしている。
「あったかい……。」
「え!ら、ラビーさん!?あ、あはは!くすぐったいのです〜!」
「こら、ラビー。ぬいぐるみが困っているぞ。」
「ぬ、ぬいぐるみじゃないのです……って、リアンさんも居るのです!?」
びっくり仰天するルナに、私はこれまでの経緯を説明した。
ルナは何度も瞬きをすると、「ほえ〜。」と可愛い声を出しながら頷き、理解したみたいだ。
「……そ、そうなのですね。だから、二人も居るのですね。そして、この世界は、ルカさんという人が創ったのですね。」
「なあ、ルナ。また会えたのは嬉しいが……、ここに来たのは、何か理由があるんだろ?」
ルナは、ノアの言葉にハッとし、耳をピンッと立てると、
「そ、そうなのです!大変なのです!」
と、ラビーの腕に抱かれたまま、身を乗り出し、ここに来た理由を、私達に話し始めた。
ルナは、オリジン様の元で、仲間と共に世界中のマナを循環させていたのだけど、それが突然、何かによって阻害されてしまったらしい。
その原因は、ルカの創った世界に穴が空けられた事により、外の世界のマナが、ルカの世界へと流れ込み、世界中のマナのバランスが、再び不安定になりつつあるらしい。
「……まさか、また僕達のせいで、世界のバランスが狂わされているとはな。」
「ごめんなさい。そういうつもりではなかったの。凛花を助けたかったから……。」
「二人とも、分かっているから、大丈夫だよ。……ルナ、この世界から出て行って、外から穴を塞げば良いんだよね?」
ルカの事は気掛かりだけど、日を改めて、今度は別の方法で、もう一度ルカに会いに行かなくては。
……と、思ったのだが、ルナは首をブンブンと横に振っている。
「そ、それだけじゃダメなのです!この世界に、精霊様が生まれようとしているのです!それも、悪い精霊なのです!」
「悪い精霊?」
「そうなのです!オリジン様が言ってたのです!ニセモノの世界でも、そこにマナが存在していれば、精霊様は生まれるのです!」
それを聞いたラビーが、ハッとした後、納得する様に何度も頷いた。
「……なるほどね。精霊の命の源は、マナ。この世界もマナで創られているから、精霊が生まれてもおかしくはないのね。」
「そうなのです!そして、その精霊は、“タマシイ”の状態だろうと、オリジン様は言ってたのです。だから、成長して悪さをする前に、浄化しないといけないのです!」
私とノアが首を傾げていると、再びラビーが、分かりやすく説明してくれる。
「生まれたての精霊は、最初は体が無い状態で、魂から生まれるの。そこから長い年月を懸けて、実体化していくの。四大精霊も、そうやって生まれたのよ。」
「そうだったんだ……!全然、知らなかった!」
「……でも、長い年月を懸けなくても、体を手に入れる方法は、一つだけある。それは、強いマナを宿す“依代”に、魂を移す事。」
「……依代?例えば……どんな?」
私は、そう聞きながらも、何となく答えが分かった様な気がして、段々と嫌な予感がしてきた。
「……強いマナを持つ魔女とか。」
予感が的中し、背筋がゾッとした瞬間、遠くから、ドンッ!と爆発の様な音が聞こえた!
「ッ!まさか!!」
ハッとし、音の方角へ急いで振り返ると、ここから少し離れた森の中から、ドス黒い煙が龍の様に立ち昇っており、そこから強い邪気を感じた。
「ルカ!!」
「おい!凛花!」
ノアの制止を聞かずに、私は森へと全速力で走り出した。
……が、その時。
立ち昇った煙の中から、何かが私に目掛けて、素早く飛んできた!
「ッ!危ない!!」
背後でラビーが叫ぶのと同時に、目の前に巨大なシャボン玉がパッと現れ、飛んできた何かを、ポヨンと優しく受け止めてくれた。
「平気か!?凛花!!」
「う、うん。」
「……間に合って良かったわ。」
「ありがとう、ラビー。」
振り返って、ラビーにお礼を言った途端、
「……う……」
シャボン玉の中から、うめき声がした。
「──ッ!マオ!?」
うめき声──そして、飛んできた何かの正体は、全身が傷だらけの、マオだった!
「今すぐ治すから!」
と、急いで回復魔法を掛けようとしたが、マオは、ゆるゆると首を横に振り、手で制した。
「……早く……、ルカを……止め……て、くれ……!」
「──まだ生きていたの?裏切り者。」
その時、頭上から聞き覚えのある声が降ってきたので、ハッとして見上げたが──
「る、ルカ!?」
明らかに、その見た目と雰囲気、そして全身に纏っている禍々しい邪気は、さっきまでの彼女とは、まるで別人の様だった。
まず、絹の様な美しい長髪は、桜色でも白銀色でもなく、闇の様に真っ黒な色へと染まっている。真っ白なワンピースまで、同様に変色している。
そして、ゴツゴツとした骨が剥き出しの、大きな翼が、背中から生えている。
腹部や、腕や足のあちこちに、骨の装甲の様なものを身につけており、それが大きな手の骨の様にも見え、まるでルカの身体をガッシリと掴んでいる様だ。
様変わりしたルカは、ニタリと笑いながら、私達を見下ろしている。
「あら、まだ居たのね。諦めが悪すぎるわよ。死にたいのかしら?」
「ル……ルカ!あなたが、マオを傷つけたの!?……まさか、精霊に乗っ取られたから!」
「……確かに、何かが私の中に入り込んだけど、私の意識は消えていない。これは、私が自分の意思でやった事よ。」
……ルカが……自分の意思でやった?
「う、嘘よ!だって、マオは、ルカの事を一番心配してくれた!大切な仲間なんじゃないの!?」
「……そうよ。でも、マオは、最後の最後には、私を裏切る。私が一番望んでいない選択を選ぶの。
それに、この体になった途端に、外の世界から、マナを吸い上げる事が可能になったの。外の世界が滅ぶ代わりに、私の世界は救われる。だから、邪魔する奴らは、皆、死んでしまえば良いのよ。」
ルカは、そう言うと、片手を私達へと向けてきた。
「待って!!」
「よせ!凛花!」
ルカへと手を伸ばした私を、ノアが抱き抱えようとした次の瞬間、ルカの手から放たれた、黒い光線に巻き込まれ、視界が真っ暗になった。
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