第64話 サクラの国と、竜堂美桜
「わあ!まるで、タイムスリップしたみたい!」
大きな鳥居を潜り抜けた先は、昔の城下町の様な景色が広がっていて、さらに上空では、いくつもの花模様の提灯が、色とりどりに輝いていたので、思わず歓喜の声をあげた。
街行く人は皆、私の様な着物をアレンジした服装をしていて、どこもかしこも活気で満ち溢れている。
それに、何処からか、太鼓や笛の音が町中に響き渡っているので、お祭りにやって来たみたいで、何だかワクワクしてきた。
「お!ライラと蓮桜が、あそこにいるぞ。」
ノアが指差した先には、ライラが、赤い和風の長椅子に座りながら、美味しそうに、桃色の饅頭を食べていた。その横では、蓮桜が疲れた様子で立っている。
ライラは、私達に気が付くと、ニッコリと笑いながら、桃色饅頭を差し出した。
「ねえねえ、この饅頭、超絶美味なのよ!皆も食べなよ〜。」
「ったく、遠足に来たわけじゃないのよ?」
「まあまあ。かなり歩いて来ましたし、ここいらで少し休憩にしましょうか。」
「お!そうしようぜ!腹減ったーー!」
ロキさんの言う通り、私も少し疲れたかも。それに、和スイーツを食べてみたい!
「ったく、しょうがないわね。」
アリーシャも、ムスッとしながらも、饅頭を受け取り、パクパクと頬張っている。本当は食べてみたかったんだ。
そう思い、クスッと笑うと、私も一口食べてみる。
すると、口の中に、ほわっと桜の香りが広がり、それと同時に優しい甘美で、幸せな気持ちに包まれ、思わずほっぺたに手を当てる。
「ん〜!おいひい!」
「お口の中が、とろけるのです!」
「サクラの国って、美味いもんばっかで良いな!」
ノアを見ると、みたらし団子や、栗きんとんや、あんころ餅など、和スイーツを次々と注文し、目に見えない速さで食べまくっている。
「ノア!今お金、そんなに持って来ていないんだから、程々にして!」
「だって、美味いから、食べなきゃ損だろ?ほら、凛花も食うか?」
「わ、私は後で食べるから、良いもん!今持ち合わせ少ないって言ったでしょ!」
ギャアギャアと騒いでいると、目の前に、いつの間にか人だかりが出来ていた事に気がついて、途端に恥ずかしくなってしまった。
「おい。あまり騒ぐな。」
「そうよ!後でお金持って来て、仲良く食べなさいよ!」
「……はーい。」
蓮桜とアリーシャに怒られ、しばらくシュンと俯いていると、誰かの足がスッと視界に入って来て、立ち止まったので、驚いて顔を上げた。
すると、そこには、純白の着物に、ミニスカートの様な、短めの赤い袴を履いた、巫女の様な見た目の少女が立っていた。
くりんとした大きな瞳、腰と黒いショートカットの頭には、大きめの赤いリボンがついていて、まるでお人形さんの様で、思わず見惚れてしまった。
その少女は、私ではなく、何故か蓮桜の事をじーっと凝視していて、蓮桜も眉をひそめながら、少女を見つめている。
「……お兄……ちゃん?」
「……美桜、か?」
お互い同時に、そう言うと、ハッとして、しばらく顔を見合わせたかと思いきや、少女はパアッと笑顔になり、蓮桜に抱きついた。
「やっぱり、お兄ちゃんだ!!久しぶり!」
「ああ。知らない間に、随分と背が伸びたな。」
「えへへ!食べ盛りだからね!」
その時、ライラが椅子から、勢いよく立ち上がり、手を震わせながら蓮桜と少女を、凝視していた。
「あああああああ…………。れ、蓮桜が!他の女の子と!抱き合っている!!」
「…………お嬢。こいつは、オレの妹の美桜だ。」
「蓮桜が、そんな人だったなんて…………、ん?いもうと?」
「あ、初めまして!
美桜ちゃんは、ペコっとお辞儀をし、ニッコリと笑いながら、挨拶したので、私たちも順番に笑顔で挨拶した。
そして、私達を見回すと、嬉しそうに笑った。
「お兄ちゃんに、お友達が出来ていたなんてね〜!……ところで、これからお家に帰るんでしょう?私も一緒に行くよ!」
「そうか。なら、一緒に帰るか。」
私達は、会計を済ませると、蓮桜と、美桜ちゃんを先頭に、人だかりの道を歩き出す。
「にしても、昔に比べると、随分と人が多いな。」
「明日、黄燐桜が咲くからね!」
そういえば、この前、エヴァさんが言ってたっけ。サクラの国に、黄金の桜があるって。もしかしたら、エヴァさんも、この街に居るのかもしれない。
「そうか。もう、そんな時期か。」
「うん!今回は久しぶりに、一緒に観に行こうね!」
美桜ちゃんが、そう言い、蓮桜の腕に甘える様に頬を擦り寄せながら、抱きついた。
よっぽど、蓮桜の事が大好きなんだなと思い、自然と微笑ましくなる。
……一方で、ライラは恨めしそうな目で、二人の後ろ姿を、ぎろぎろと睨みつけている。
それに気付いたアリーシャが、やれやれと、首を振る。
「ったく、妹相手に、何ライバル心抱いてるのよ。」
「うう……。だって、羨ましいんだもん!」
フンッと、そっぽを向いてしまった。そんなライラの様子を、鈍い蓮桜は、首を傾げながら見ていた。
そうして、しばらく歩いているうちに、鳥居がいくつもの並んでいる、細い石畳の道が見えてきた。まるで、修学旅行の時に行った、京都にある稲荷神社みたい!
そして、そこを潜り抜けた先には、とぐろを巻いた、大きくて立派な龍の像があった。
思わず見惚れていると、蓮桜が説明をしてくれた。
「遥か昔に、この世界にやって来たサクラの民の先祖が、初めて見るドラゴンに感銘を受けたらしい。それ以来、竜堂大社には、龍神が祀られる様になったらしい。」
なるほど!だから、大社の前に、龍の像が置いてあるんだ。
私は、そう納得すると、龍神様の像に手合わせし、一礼をすると、その向こう側にある、お城の様な大きさの、立派な大社を見上げた。
「ここが、蓮桜の実家?」
「ああ。そうだ。」
蓮桜は、涼しい顔で頷いたけど、豪華すぎる大社に、私達は呆然と見上げ、まるで言葉が出なかった。
「ほらほら!お父さんとお母さんが、待ってるよ!早く行こうよ!」
「おい、あまり引っ張るな。」
ポカンとしている間に、蓮桜が、美桜ちゃんに手を引かれ、大社の中へと向かって行ったので、私達もハッと我に返ると、慌てて後を追いかけた。
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