異世界・エルラージュと、宝珠・アルマ編

旅立ち

第3話 見知らぬ場所

「う……ん?」


 目を覚ますと、眩しい太陽と、澄んだような青空が見えた。


 私は、眩しげに手を翳し、ゆっくりと起き上がった。


「……ん?」


 そして、周りの異変に気づき、キョトンとした。


 私が眠っていた、この場所は、どこまでも広がる、大きな草原で、白いタンポポの綿毛の様なものが、フワフワと舞い上がっている。


 そして、空を見上げ、よくよく見てみると、太陽の他に、2つの月が薄らと浮かび上がっていた。


 少し現実離れしている風景を見て、呆然とした。


 ……ここは、天国か?


 頭を押さえながら考えていると、先程、トラックに轢かれそうになった時の事を、思い出した。


「はっ!!てことは、やっぱり天国!?」


 私は、天を仰ぎ見て、泣きそうになった。


 ……ああ。もう、ゆうと、真希とも一緒に居られないんだ……!


 そして、ゆうの、泣きながらも怒りを露わにしていた、あの表情を思い出し、胸が痛む。


「ゆうに、ちゃんと謝れなかったな……。」


 私が、俯き、ボソッと呟いた、その時だった。


 ザッ……、ザッ……、ザッ……。


 背後から、ゆっくりと、草原を踏み締める音が聞こえ、私は涙目のまま、振り返った。


 グルルルルル……!


「え……!?」


 私は、驚愕して、一瞬思考が停止した。


 何故ならそこには、見た事も無い様な獣が、ヨダレを垂らしながら、私に威嚇していたからだ。


 大型犬ぐらいの大きさで、逆立つ長い毛は、毛先が真っ黒で、根元の方は、グレーだった。

 目は血の様に真っ赤で、光っている。私に向けられている牙は、鋭くとがっており、少し触れただけでも、穴が空いてしまいそうな程だ。


 私は、気がつくと、震えながら尻餅をついていた。


「な、何、あれ……!」


 すると、獣は容赦なく、大きな口を開けると、私に飛びかかって来た。


「いやあああああああああっ!!!」


 私は、反射的に両手を突き出し、目を固く瞑った。


 すると───────。


 ドンッ!!


「え……?」


 突然、目の前で爆発音が聞こえ、私は、恐る恐る目を開けた。


 すると、私の目の前には、あの獣が、全身黒焦げになって、死んでいた。


「ど、どういう事?…………あれ?」


 その時私は、自身の両手が、白い光に包まれているのに気が付いた。


「な、何?これ……。」


「ほう。この時代に、白魔女とは。珍しい。しかも、その光属性の魔法を使えるのか。その若さで、珍しいのう。」


 戸惑う私の横から、しわがれた声が聞こえ、私は、見上げた。


 そこには、青い水晶玉の様な物を乗せた、おばあさんが腰を曲げながら立っていて、青い目で私を見下ろしていた。


「ま、魔女……?魔法…………?」


 混乱する私を見て、おばあさんは、驚いた顔をしていた。


「まさか、自分で放ったというのに、魔法の事を知らないのかい?」


 さっきから、何を言っているのか分からない。そもそも、魔法って何?ここは、天国じゃないの!?


 言葉が出ずに、口をパクパクしている私。


 おばあさんは、そんな私に手を差し伸べた。


「とにかく、立ちなさい。わしの名前は、リースじゃ。この近くの、リリー村に住んでおる。とりあえず、わしの家で休んで行きなさいな。」


 村の名前も聞いたことがないが、右も左も分からない私は、とりあえず渋々頷くと、リースさんの手をとり、何とか立ち上がった。

 さっきまで、私の手を覆っていた白い光は、いつの間にか消えていた。



       ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



 しばらく草原を歩いていると、村らしき場所が見えた。


 草原の上にある、質素で小さな村で、ログハウスの様な、一階建の家が、6軒程、立ち並んでいる。

 村の端には、小さな畑と、井戸の様な物があった。


「エルラージュの中では、一番小さな村じゃ。若いもんには、ちと窮屈じゃがな。」


 またまた聞いたことのない単語が出てきた。


 本当に、ここは何処なのかと、益々不思議に思う。


 周りを見ると、シンプルなチロリアンドレスを着た、女の老人や、すすけたツナギを着た、男の老人達が歩いていた。

 まるで、西洋の童話に出てくる、村人の様だった。


 私は、少し珍しそうに、その人達の事を、じっと見ていたが、逆に老人方も、私の服装を見て、珍しそうな顔をしていた。


 水色の花柄のワンピースに、黄色のカーディガン。

 特に、変な服装ではないはずだが、あそこまで物珍しそうに見つめられると、何だか恥ずかしい。

 私は、もじもじしながら、俯いた。


「ほら、着いたよ。」


 リースさんの声にハッとし、顔を上げた。


 6軒程の、同じようなログハウスの内の、一軒がリースさんの家だった。


 よく、家を間違えないな……。


 私は、そう少し感心しながら、リースさんの家に上がった。



 中は、外観と同じく、質素な造りだった。


 狭い部屋には、木で出来た、少し大きめの机と、椅子が2つ。


 小さなキッチンと、古い暖炉、そして窓際にベッドが置かれているだけの、シンプルな家だったが、どこか落ち着く。


「とりあえず、ハーブティーを出すから、そこに座ってなさい。」


 私は、頷くと、椅子に座り、待つ事にした。


 しばらくして、リースさんは、ハーブティーを持ってきてくれた。


「いただきます。」


 喉がカラカラだった私は、ハーブティーを口にした。


 すると、口いっぱいに、爽やかなハーブの香りが広がり、混乱気味だった頭が、少し落ち着いてきた。


 リースさんは、私の向かい側の椅子に座ると、私の顔をじっと見つめた。


「さて、まずは、お主の名前を聞こう。名は?」


「凛花と言います。」


 リースさんは、少し怪訝そうな顔をした。


「りんか?もしや、サクラの民の者か?」


 サクラ?桜?


 よく分からないが、私は首を横に振った。


「いえ、日本にいたはずなんですけど……。」


「ニホン?」


 何だか、会話が噛み合わず、しばらく無言が続いた。


 リースさんは、少し考えた後、再び口を開いた。


「お主、魔法は使えるのに、魔法を知らないと言っておったな。」


「は、はい……。何が何だか、さっぱり……。」


「とゆうことは、お主は、伝説のから来たのか?」


 い、異世界!?


 私は、驚きのあまり、口をあんぐりと開けていた。


 

 

 

 

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