#11 語らう
「アロウロたおひたのかっ! やふぢゃねーか! ふぁっふぁっふぁっ!」
「クロード。汚い。食べながら喋らないで」
肉を片手に口いっぱいに頬張りながら、クロードさんは俺とシリュウが倒した人型の魔物についてあれこれ聞いている。
テーブルを叩き話すたびに口から色々飛び出してくるので、食事に同席するサクヤさんは眉間にシワをよせている。
あの人型の魔物は『アロウロ』と呼ばれているらしく、この一年に発見された新種だったらしい。サントル大樹海で最初に遭遇、討伐したのがクロードさんとソアラさんで、遭遇時に『アロウロ』と声を出したのでそのまま名付けたのだという。
そういえばそんな音を発していた気がしなくもない。魔物の名なんざどうでもいいので、その適当な命名はクロードさんに賛成だ。
「これで五体目じゃのう。前回からそんなに経っとらんはずじゃが、どうなんじゃ、イェール」
ソアラさんが同じくテーブルを囲むイェールさんに問いかける。その横にはドーザさんもいるので、このハンタース四階広間に、というかクロードさんの部屋に
「はい。大体三月間隔で現れていたのですが、今回ジンさんが討伐した五体目は前回から約一月です。イレギュラーだったのかもしれませんが、よくない兆候ですね」
「そうか……これは色々見直さなければなるまいのぉ」
二人が神妙に話し、サクヤさんが聞き逃すまいと聞き耳を立てている。確かにアロウロに感じた不吉な気配は危険そのもの。あんな魔物がしょっちゅう出現しては、さすがにこの街も危なくなるだろう。
食事をしながらも真面目に対策を考えているこの三人、俺を含めると四人に対し、クロードさんは能天気に笑っている。そしてクロードさんより我関せずなのが、大食い対決をしているドーザさんと我が弟子、シリュウだ。
「おかわりっ!」
「俺もだ!」
「ぶぁっはっは! おまえらどんだけ食うんだよ!」
ハンタースには専属の料理人がいるらしく、同じく専属の給仕が怒涛の勢いで皿を空けていく二人のあいだをいそいそと動き回っている。
「で、ジンよぉ。アロウロのどこに魔法陣あった? 腕か? 脚か?」
二人を見て笑いつつ、クロードさんの関心はまだ魔物にある。
「頭です」
「頭……そいつは初めてだな」
「腕と脚の場合もあるんですね」
「右腕が火属性、左腕が水、右脚が地で左脚が……なんだっけか?」
「木ですよ。因みに、左右の脚の属性は逆かもしれません。二体目は両脚に魔法陣を持っていましたから」
ここでイェールさんが参戦。急に魔法属性が出てきたことに困惑していた俺に助け舟を出してくれたようだ。
俺とシリュウが遭遇したアロウロには頭に魔法陣があった。イェールさん曰く、アロウロは相当程度のダメージを与えると、第二形態とも言える状態になるらしい。第二形態は魔法陣がアロウロの魔力核へと形を変え、属性魔法を放つようになるのだという。
クロードさんとソアラさんが最初に遭遇したアロウロには右腕に魔法陣があり、止めと言うタイミングで子供の姿から大人の姿に変形。さらに両腕を斧の形に変え、それまでの魔物らしい大雑把で力任せの攻撃から一変、緻密な武器攻撃を繰り出し、人間の戦い方に近づいたのだという。
驚いたことに、そのアロウロは火属性魔法まで操ったのだ。
「ということは、私とシリュウが戦ったやつは氷か風、もしくは雷だったということですね」
「おそらくの。全く、形態を変える前に倒すとはお主も容赦ないの」
ソアラさんが茶を飲みながら相槌を打ちつつ、ある意味では新種だったアロウロの能力を図る機会を失ったと苦笑う。
だがここで、クロードさんが不穏なことを口にした。
「無属性だったら最高なのになぁ」
「どこがじゃ馬鹿モンが。最悪じゃ!」
この一言にソアラさんが一喝する。
たしかに魔物が無属性魔法を操るとなると、その魔物は世の理から外れた存在となる。無属性魔法を発現できるのは人間だけなのだ。
だが、その存在に心当たりがある。ここにいる
俺はアロウロに遭遇した時によぎった、最悪の相手を小さく口にした。
「魔人」
「っ!?」
「……やはりお主、先の戦乱で戦こうておったか」
俺はイェールさんとソアラさんの空気が一変したのを感じ取り、なるべくとりなすように続けた。
「―――だったら、本当に最悪ですね」
脅威なのは間違いないが、推測を重ねてこの場で突っ込んだ話をする必要も無いだろうと話題を変える。
「時にクロードさんとソアラさんは、大樹海に行ってらしたと伺いましたが」
「ん? おお、周期の実態を見にいってたんだ」
「じゃの。特にこれといった収穫は無かったがの」
二人はいつも通り危ない場所だったよと、事も無げに言った。今回は大して深く潜らずにいたらしく、ドレイク近辺で巨大な爆発を感じ取ったので慌てて戻ってきたのだと言った。
つまり、シリュウの火球の衝撃は大樹海にまで届いていたということだ。
「私はてっきりソアラさんの
話に自分の名が上がってもシリュウは無我夢中で食べ続けている。この食事代は全てハンタースが持ってくれるというので、ありがたく
イェールさんはそんなシリュウを見ながら、一度戦い勝利したが、それこそあんな火球をぶつけられたらたまったもんじゃ無いと苦笑いを浮かべた。
その後、料理長が部屋に来て『これ以上は食堂客に影響が出る』と、止めに来るまで食べ続けたシリュウとドーザさん。大食い勝負の途中だったとはいえ、十分に腹を満たした二人は腹ごなしのついでに決着をつけようと部屋を出ていってしまった。
頑なに子供扱いを嫌うシリュウだ。付き添う必要も無いだろうと、彼女はドーザさんに任せ、皆が食事を終えたタイミングで俺たちがドレイクの街に来た本来の目的を話した。
◇
「……どこでそれを?」
俺の口から出た『世界の守護者』という言葉に、クロードさんが杯の手を止める。
何も隠すことは無い。俺はピクリアで遭遇した幻王馬スレイプニルに告げられた事、その傍らに聖獣マーナガルムがいた事、そしてその後マーナガルムと同化した獣人国女王ルーナと行動を共にしていたことを話した。
「いろいろぶっ飛んでるわ……」
サクヤさんが大きく溜息をつく中、イェールさんとソアラさんは目を瞑り、先の大戦の終幕であるジオルディーネ王国王都イシュドル崩壊の原因となった出来事、そしてその当事者が目の前にいる事を噛みしめていた。
「なるほどなぁ。そりゃ知って当然か」
「じゃのう」
「幻王馬もそうですが……かの九尾大狐を鎮めるなんて、グランドマスターでもできなかったことですよ」
イェールさんは大昔に起こった伝説の一騎打ち、『狂獣ルイ対拳聖ヨル』の話を引き合いに出す。実際は俺とコハク、そしてアイレが加わった三対一だったので、俺がルーナに勝利したとは到底言えないのだが、今その事はどうでもいいだろう。
「サクヤや。いい機会じゃ。お主も聞いておけ」
「その『世界の守護者』ってやつ?」
「うむ」
確かに知った所で何も変わらないし、変えられない。
「で、どこまで知ってんだ? わざわざこの街まで俺に会いに来たんだ。イェールの手伝いもしてくれたし、話してやらねぇ事もねぇ。だがイチからってのもなぁ」
では、と、俺はルーナとの帰路に話した、ある一夜を思い出す。
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