#挿話 ~神々の小噺Ⅴ~

「むぅ……」


 神々の円卓の中央に浮かぶ半透明の球体を見つめ、大地神メーテルは唸っていた。


 そこに入ってきたのは昼寝から目を覚ました水神ミズハノメ。クシクシと目をこすり、水で形作られたぬいぐるみを抱きかかえている。


「メーテル、どうしたの」

「おお、ミズハ起きたか。ちょうどええ、これを見てみんしゃい」


 ミズハノメは眠た眼でメーテルが指した半透明の球体に目をやる。


 彼女もまた、メーテルと同様に星の管理者の役割を担っている。


 大地神メーテル、水神ミズハノメ。


 彼女ら二つの神は、創造神ゼウスが作り出した魂を内包する『今世の糧』が生を営む環境を創造、管理する神として、他の神とは異なる役割を持っている。


「ハーバーンのおじゃまむし」


 ミズハノメは少しムッとしながら半透明の球体をにらんだ。


「やつの役割とはいえ、このままじゃとあっという間に海からあふれ出してしまうぞぃ」

「わたしがきれいにする」


 そう言いながらミズハノメが球体に手をかざそうとするが、メーテルが慌てて制する。


「こ、これっ! 待つのじゃ! やみくもに手を出してはならん。糧らは繊細なのじゃ、大きな力で干渉すると余波で滅んでしまいかねん」


「……そうだった。じゃあ、見てるだけ?」


 寸ででミズハノメの暴挙を諫めたメーテルは胸をなでおろし、解決策の一つを提案する。


「いんや。ちと考えとったんじゃが、これをやるにはミズハの許可がいるからのぅ」

「?」

「糧らの不可侵海に新たな地を創るのじゃ。そうすれば魔もその地で形を成しおって、ある程度は押し留められるじゃろう」


 海に新たな大地を創り出すという事は、海を創造したミズハノメの領域に踏み込むという事であり、メーテルの意志だけでは成せない。


「……いいよ。メーテルにならたくさんあげる」

「すまんのぅ、ちょいと拝借する程度じゃから安心せい」


 フルフルとかぶりを振るミズハノメの頭をメーテルは優しくなでた。


「ハーバーンがわるい」

「やつも役目じゃて。そう嫌ってやったら可哀そうじゃぞ?」

「じゃあ……ちょっとわるい」


 ニコリと笑ったメーテルが半透明の球体に手をかざし、慎重に力を送っていると、今度は獣神であるパーンが鼻歌を唄いながら円卓の間に入ってきた。








――――――――――――

■近況ノート

よいお年を!

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