#0 Sランクへの軌跡 第一部 零章~五章
相良甚之助は戦国乱世の武将だった。
齢三十を迎えた甚之助は、隣国との戦によりその生涯を終える事となる。
その壮絶な生涯を観察していた創造神、大地神、運命神、水神、魔神、戦神、愛と美の神、そして獣神。
八の神々は、死した甚之助の魂を自らが住まう神界へと
運命神フォルトゥナは、甚之助の魂の行く先を自ら選ぶよう告げた。
『浄土』『地獄』『虚無』―――『転生』
四つの選択肢を与えられた甚之助は悩んだ末、神々の加護を拒否した上での転生を願う。
かくして相良甚之助は、閉ざされたままの前世の記憶をその魂に刻み、剣と魔法の世界へと転生を果たす事となる。
剣と魔法の世界。
その唯一大陸に名は無かった。
八の神々の一神である獣神パーンには、『神獣』と呼ばれる子が唯一大陸にいる。この世界において神獣は伝説上の魔獣として認識されおり、そこに住まう人々にとってはお伽噺の存在だった。
ある日、大陸最大の版図を有し、西大陸の覇権を握るアルバート帝国で国を揺るがす大事件が勃発する。
一山を優に超えるその巨体は青い炎を纏い、遥か天から降り立った小さな光と共に、棲家とされるオルロワス大火山から飛び立った。
帝国歴285年。
帝国北部にある寒村、スルト村に突如として神獣ロードフェニクスが飛来したのである。
怯える住民に神獣は告げる。
『この小さな光を産み育てて欲しい』
神獣の願いは、住民たちに恐怖と沈黙をもたらした。
だが、不治の病に侵された一人の娘が、その身をかえりみずに声を上げる。
「私が産み育てます!」
娘の名はジェシカ・リカルド。
夫であるロン・リカルドと村人たちは、ジェシカの想いに応える決断を下した。
――――十五年後。
『ジン』と名付けられた小さな光は、父ロンと母ジェシカ、そして幼馴染である貴族の娘、アリア・ティズウェルに見送られ、冒険者となるべく故郷スルト村を後にする。
アリアの母、コーデリア・レイムヘイト・ティズウェルの紹介状を手に、ジンが最初に訪れたのは交易都市マイルズ。
コーデリアの紹介状は、ジンの剣の師匠の一人である元マイルズ騎士団長ボルツ・ガットラムとの一年ぶりの再会をもたらす。そのボルツの計らいにより、ジンは現マイルズ騎士団長エドワード・ギムルと図らずも懇意となる。
エドワードはジンの実力と心力にほれ込み、マイルズ騎士団への入団を勧めるが、ジンはこれを拒否。諦めきれないエドワードは、代案として騎士団員と同じ権限を有する『アジェンテ』となるよう提案する。
冒険者としての活動に支障がない事を確認したジンはこれを承諾。
アジェンテ推挙の手紙を携え、マイルズ冒険者ギルドを訪れたジンに対し、ギルドマスターであるレイモンドは冒険者登録とアジェンテの同時登録は前代未聞だと、アジェンテの登録にある条件を出した。
条件とは、マイルズ近郊にある『川底のダンジョン』にAランクパーティーと共に挑戦し、彼らに認められるというもの。
ジンは故郷スルト村周辺で魔獣とは長年戦ってきたが、川底のダンジョンで初めて魔物と対峙した。
だが、ジンは臆することなく魔物に向かい、危険度D級指定の魔物であるゴレムスの単独撃破に成功する。
同行したAランク冒険者であるアーバイン、ガンツ、デイトリヒ、シズルの四人は、冒険者となったばかりのジンがD級の魔物をたった一人で、いとも容易く倒した事に戦慄した。
この世界では人に危害を加える魔獣、魔物には危険度の目安としてGからSまでの位階が定められている。S級の魔獣、魔物は『王種』とも呼ばれ、別格の危険度を誇っており、討伐は不可能との認識が世界共通である。
魔物、魔獣の位階は冒険者のランクと合わせられており、冒険者にもGからSのランクが存在する。そような中において、Aランク冒険者は世界中に点在するギルドにおいてエース格の存在であり、上位ランカーを目指す冒険者全員がAランクを目標としているといっても過言ではない。
ジンの実力と人となりを見定め、五人はマイルズ冒険者ギルドに帰還する。パーティーリーダーであるアーバインはジンを即座にFランクへ昇格させ、さらにDランクまでの昇格を可能とするだけのポイントの付与を提案。
ギルドマスターのレイモンドはこの提案を承認し、ジンは晴れて単独で依頼を受ける事が可能となるFランクへの昇格を果たし、さらにアジェンテとして登録されることが決定した。
マイルズを後にしたジンは道中冒険者として依頼を受けつつ、アルバート帝国十五代皇帝ウィンザルフ・ディオス・アルバートの座す、帝都アルバニアに到着した。
アルバニア冒険者ギルドの受付嬢であるノーラは、ジンの登録可能な職の数に驚きつつ、『剣闘士(グラディエーター)』『斥候士(サーチャー)』の上位職二つ、および『弓術士(アルクス)』『魔法術師(ソーサラー)』の基本職二つを登録する事を提案し、当のジンは規格外である事実に興味を持つ事も無く、ノーラの提案を受け入れた。
ジンがDランク冒険者として、アルバニアを拠点に活動する事三月の月日が流れた。
その日、ジンはギルドの紹介でパーティーを組むことになったGランク冒険者のユーリを伴い、森で依頼を遂行していた。
その最中、南西グレイ山脈から帝都アルバニアに向け、一頭の黒竜が飛び立つ。
ジンは帝都の危険を察知し、頭上を行こうとする黒竜の足止めを試みる。そしてそのまま激しい戦闘に突入し、死と隣り合わせの戦いを繰り広げた。
アルバニア冒険者ギルドマスターのアイザックは、黒竜を迎撃している冒険者を救うため、他の冒険者をつれて現場に急行。燃え盛る炎の中、たった一人で黒竜を相手に戦う少年の姿を目の当たりにし、息を呑んだ。
黒竜の撃破をその目で見たアイザックは、果てる黒竜のかたわらで気を失っているジンを連れ、アルバニアへと帰還する。
後日、この黒竜はS級の魔獣、黒王竜ティアマットの幼体だったことが正式に確認され、ジンは帝都から莫大な報酬と、称号『
数ヶ月の時をアルバニアで過ごしたジンの次なる目的地は、帝国西部イザーク地方の領都であるドッキア。
ドッキアはグレイ山脈の山々を背後に帝国有数の鉱山を抱える街で、人間と、亜人である
ドッキアまでの道中、深森で温泉を満喫していたジンの元に現れたのは、D級指定の魔獣であるアッシュスコーピオンに追われるレオ、ミコト、オルガナと名乗る三人の冒険者。
入浴の邪魔をされ、怒ったジンが威圧だけでアッシュスコーピオンを退かせたことに驚いた三人は、その後ジンと共に旅がしたいと願う。当初ジンはこれを拒否したものの、三人はジンが渋々ながら出した条件を果たす事に成功。
覚悟を示した三人と、ジンは道中を共にすることを承諾した。
目的地であるドッキアの道中で三人の故郷、かつ拠点としているシス村に立ち寄り、村で静養していたもう一人の仲間であるディケンズも加わる事となった。
紆余曲折ありながらも無事ドッキアに到着したジン、レオ、ミコト、オルガナ、ディケンズの五人はパーティーとして多くの依頼をこなし、それぞれが冒険者としての経験を積んでいく。
そしてジンがドッキアを目的地とした最大の理由。
それは、まだ見ぬ『刀』の入手の為である。
帝都アルバニアで討伐した黒王竜の鱗を手に、ジンは帝国随一の武具工房と噂のウォルター工房の扉を叩く。
当初は未熟な冒険者への武具の提供はまっぴらだと、断る工房主で
さらに、ジンが持ち込んだ黒王竜の鱗と、刀という未知の武器の存在を知らされ、グリンデルはジンの依頼を受ける決断を下した。
ジンがグリンデルに差し出した素材は黒王竜の鱗と、もう一つある。
「これは、星刻石です」
石の名を告げられたグリンデルとその娘カミラはその場で気絶。
ジンはほどなく目を覚ました二人に、星刻石は十五年前、神獣が村に授け、村が母ジェシカに託し、その母ジェシカが自分に渡したものだと告げた。
神獣の力を纏い、
そんな折、亜人の国で構成されるミトレス連邦へ、蛮王として悪名高いエンス・ハーン・ジオルディーネが治めるジオルディーネ王国が宣戦布告するという知らせが世界中に流れる。
宣戦布告を受けたミトレス連邦盟主国、獣人国ラクリの女王ルイは侵攻してきたジオルディーネ王国軍二万に対し、亜人各種族の戦士千二百をともないこれと激突。
圧倒的兵数差をものともせず、個々が突出した戦力をもつ亜人軍の優勢は確固たるものだと思われたが、そんな亜人の戦士たちの前に立ちふさがったのは、魔物の力を備えた『魔人』だった。
突如現れた十体の魔人の力はルイの予想をはるかに超えており、魔人の危険を即座に見抜いたルイは自らを囮とし、全戦士へ退却を命令。共に囮となる事を選んだ竜人族の大戦士、ガリュウと共に魔人の足止めを図った。
だが、圧倒的な魔人の力の前に、ルイとガリュウの二人は力尽きる事となる。
二人の敗北をきっかけに、退却する亜人の戦士たちは果ての無い追撃にあい、ことごとく殺されてしまうという結果に。これにより、ミトレス連邦はジオルディーネ王国に歴史的大敗北を喫する事となった。
後の史実はこの日を『
ミトレス連邦の陥落、とりわけ魔人の存在を特に危険視した冒険者ギルドは魔人の調査、討伐を決定。
その情報はドッキアに滞在するジンの元へ、依頼という形で舞い込むこととなった。
ジンは
レオ、ミコト、オルガナ、ディケンズの四人との別れ際。
ミコトはジンに想いを伝える。その想いに応えられないジンは、故郷を出てから使い続けていた二振りの
その腰には、ウォルター工房の傑作刀、号『
ミトレス連邦に入ったジンは、
アイレは『
絶望の中、強気に振舞っていたアイレの涙と助けを請う言葉は、ジンの心に強烈に突き刺さる事となる。
一旦アイレと別れ、アイレの故郷であるリュディアに駐屯する二体の魔人の討伐に成功したジンは、ジオルディーネ軍よりリュディア、およびエーデルタクトの解放に成功した。
その後再会したアイレと共に向かうは、
そこには山神様と恐れ
ホワイトリム、フクジュ村の村長であるギンジと妻ツクヨの世話になりつつ、山神様の元へ向かうジンとアイレ。
共にするマーナの嗅覚で偶然発見した雪山温泉を堪能するジンの隣に、まるで陽炎のように気配なく現れたのは一人の真っ白な少女だった。
「コ、コハク!? どうしてここに!!」
アイレにコハクと呼ばれた少女は、山神様だった。
コハクはルイが生きている事を告げ、ジンに『るい あいたい おねがい』と言った。前髪に隠れたその瞳はどこか寂し気。この時コハクは、涙を流さずに泣いていた。
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