#0 Sランクへの軌跡 第一部 六章~最終章
コハクを仲間に加えたジンら一行が向かう先は南である。
ジオルディーネ王国王都イシュドルに女王が囚われていると確信したジンは、ジオルディーネ王国軍とアルバート帝国軍の決戦予定地と目される、ラプラタ川を横切る最短距離を選択した。
ラプラタ川にはジンの予想通り、川を挟んで帝国軍とジオルディーネ軍が対峙していた。未だ軍同士の衝突は起こっていなかったものの、不穏な戦いの気配を感じ取る。
気配の元へ駆け付けたジンは、複数の冒険者と八体の魔人が衝突している事を確認。さらに、冒険者達の劣勢を見る。
マーナにアイレを守るよう頼み、二人は魔人の元へ急ぎ空を駆けた。
アイレに相対するは、魔人の中でも特に残虐なニーナ。二振りの短剣と圧倒的な強化魔法を操り、隙の無い戦いをする
ニーナは魔人となって得た強大な力と毒を用い、帝国の軍神とも言われているコーデリア・レイムヘイトに膝を突かせていた。
アイレは風魔法を存分に駆使しニーナと互角の戦いを繰り広げるが、相性の良い相手にも関わらず、その力の前についに屈する事となる。
だが、ニーナの止めの一撃を防いだのは聖獣マーナガルムの魔法、『
その隙を突き、アイレはニーナとの戦いに勝利した。
同時に戦っていたのはジンだけではない。三体の魔人と、残り三人となっていた冒険者たちとの戦いの場に迷いこんだコハクもそうだった。
敵味方の区別のつかない彼女は、魔人の木属性魔法により捕まったり脱出したりをくり返す内、とうとう魔人の一人から『攻撃されたのかもしれない』と認識できる一撃を受ける。
困ったコハクは力を用い、頭の中でジンに問いかけるが返事がない。そこでマーナに問いかけたところ、なんとそれは敵だという。
敵を認識し、コハクがその力を一切の躊躇なく振るった数秒後。
三体の魔人は音も無く消えていた。
最後まで魔人と戦っていたのはジンである。
相手は
現Aランク冒険者パーティーである『
戦いを引き継いだジンは一人、
切り込み役で
ソルムら
人間に吸収魔法陣の効果は発現しないという事を差し置いても、この必殺とも言える戦術の攻略は難しい。
ジンは大いに苦戦しつつも、何とか霧を晴らす事に成功するが、これこそがソルムの仕掛けた最大の罠だった。
霧散した霧は魔素に還ることなくソルムの掌に集まり、輝く球体を作り出す。魔素から魔力への変換を経ずに集められた魔力の塊である輝く球体は、ソルム自身の、魔人の生命線である魔力をも貪り尽くしていた。
ソルムの、命を対価に放つ魔法に対しジンは距離を取り、夜桜の切先を向ける。
繰り出すは、
「―――
「―――
日輪の如き超巨大火球の核を、黒炎の一閃が食い破る。
残ったのは敵味方問わず、沈黙だった。
死闘を制したジンら一行は目的地である王都イシュドルへ急行すべく、ラプラタ川を後にする。
イシュドルへの道中、帝国の諜報員からラプラタ川決戦は帝国軍の勝利に終わった事、途中にあるリージュという街にはバーの店主をしている、ジョズという帝国諜報員がいるという情報を得た。
イシュドルと女王ルイの情報を得るため、ジンはリージュの街に向かう事を決め、休むことなく進み続けた。
リージュに到着したジンらは街へと赴く。
リージュは王都イシュドルからほど近いジオルディーネ王国の重要都市だったが、ラプラタ川決戦前から帝国の調略にあっており、ラプラタ川決戦後、即時帝国に恭順の意を示したユリエフ伯爵が治める都市である。
ひとまず休息を取るべく街を行くが、リージュには領主であるユリエフ卿と、ジオルディーネ王国三大奴隷商の一角、ムバチェフ商会の軋轢がくすぶっていた。
アイレの怒りの風魔法により力ずくでこの問題を解決した格好となったが、一行は
王都イシュドル。
ジン、アイレ、コハク、マーナの三人と一匹は大量の魔物に蹂躙されている王都外壁の上に立っていた。
「これが
魔物の攻撃により燃え盛る街、殺されてゆく民。
抗いようのない地獄の光景を前に、彼らは前に進むしかない。覚悟を決め、コハクの指し示す王城を見定め、魔物の
たどり着いた王城、玉座へと至る扉前。
とてつもない圧力をビリビリと感じながら開けた再会の扉の奥、広間には大勢の死体と、玉座に座る女王ルイの姿があった。
懐かしみ、声を上げるルイを目の当たりにし、駆け寄ろうとするコハクをジンは手で制した。アイレの様子からも目の前の人物は女王ルイに見える。
だが、ジオルディーネ王国国王、エンス・ハーン・ジオルディーネの遺体をこちらに蹴飛ばして終戦を宣言したルイは、黒く染まった眼球に、赤い瞳を宿す最強最悪の魔人となっていた。
「人間を世界から消す。一人残らずや」
人間への宣戦布告を行ったルイに対し、ジンはアイレとコハクを魔人の創造者であるメフィストの元へと向かわせ、一人魔人ルイに対峙した。
死闘が幕を開ける。
開幕先制打を見事決めたジンは、早々にカタをつけるべく、ラプラタ川にて日輪の如き超巨大火球を食い破った、
だが、ジンの
追撃の手を緩めないジンの猛攻によりルイは地に墜ちるが、ここでルイは真の力を解放する。
途方もない雷の中から顕現したのは、古代種『九尾大狐』だった。
九尾大狐の猛攻の前に防戦一方のジン。何とか光明を見出そうと必死の抵抗を試みるが、たったの一撃で戦闘不能となってしまう。
九尾大狐のジンへの止めの一撃を防いだのは、またもマーナの
「おたくの出る幕でっか」
九尾大狐ルイは聖獣マーナガルムに問う。
『がるるるる! (カンケーねぇ!)』
吠えるマーナ。
ジンを守るべく牙を剥いた聖王狼と、古代種九尾大狐の戦いは長らく互角だった。守る事に特化したマーナの力を破ろうと、九尾大狐は無限とも思える程の雷を繰り出し続ける。
ドドドドドドドッ!
王城周辺で巻き起こる戦いの衝撃が王都全域に広がりを見せる中、マーナは徐々に不利な戦況に陥ってゆく。
そして防壁も限界と思われたその時、今度は氷の壁がマーナの窮地を救う。
《 あとはよろしくー… 》
フラフラと、眠ったままのジンの元へ戻っていくマーナの背中で頷いたのはコハクだった。
人間の味方をしたコハクに九尾大狐ことルイは驚きを隠せない中、コハクは魔人ルイを敵と認識。その姿を古代種白虎へと変え、九尾大狐に襲いかかった。
メフィストを倒し、崩壊した王城へと向かうアイレ。
深手を負いながらも、風人の秘薬の効果で何とか歩みを進めていた。目が潰されているので視界は無いが、風魔法による空間把握と新たに手にした
ルイとコハクの戦いは激しさを増し、彼女の傷にひびく。痛みをこらえながら、ジンの頭を膝に置き、ジンの胸の上で眠るマーナと共に戦いの行く末を案じる事しかできないでいた。
白虎へと姿を変えたコハクは、命を懸けて九尾大狐と戦っている。
そんな中、アイレはジンとマーナ、コハクをルイとの戦いに巻き込んだのは自分だと、後悔にも似た懺悔を心の内に秘めながらも、この感情を抑える事ができないでいた。眠るジンの顔を見つめ、言葉にする。
「ここまで本当にありがとう。こんなこと言える資格ないのはわかってる。でもね……愛しています。心から」
その唇に、そっと自身の唇を重ねた。
その様子をジンの胸の上でチラリと見ていたマーナは、何も言わずにアイレを
数刻後、目を覚ましたジンは、奮戦する白虎へと姿を変えたコハクと共に九尾大狐への再戦へと身を投じた。
戦いも終盤、ジンと白虎は満身創痍。とうとう白虎が倒れた最中、九尾大狐の頭上に強大な風魔法が出現する。
風魔法の正体は、『アイレシア』の真名を持つアイレがその身に宿す聖霊だった。
聖霊により痛恨のダメージを負った九尾大狐ルイは、自らに切先を向けるジンに赤い瞳を向ける。
「幕でっか」
「すまない」
「かまへんよ…」
ジンが魔人の弱点である魔力核を貫き、戦いに終止符が打たれた。
魔人が魔力核を失えば、その存在は消える。
これは魔人、魔物に共通する逃れる事ができない摂理だ。ルイは魔人として核を失い、今まさに消えようとしていた。
アイレ、コハクが悲しみ涙を流す中、ジンは止めを刺した者として言葉をかける事はできない。
するとその時、唐突にマーナが別れを告げる。
反対するジンだったが、マーナは聖獣としての自らの使命である事を伝え、その命と力をルイへ渡した。
再び獣人として生を再開したルイに並び立ったジン、アイレ、コハク。
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次ページより本編
なお、本編は前作エピローグからの続きとなっており、エピローグの内容はここまでの#0には含まれておりません。気になる方はこちらからどうぞ。
■前作エピローグ
https://kakuyomu.jp/works/1177354055051412956/episodes/16816452220387272203
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