#挿話 ~神々の小噺Ⅵ~

「あれ? イジってるの?」


 円卓の間に入ってきた獣神パーンは、半透明の球体に手をかざす大地神メーテルと、その傍にいる水神ミズハノメの様子を見て声を上ずらせた。


 この二神が揃って手を加えるとなると、星は物理的に大きな変容を遂げる。星で神獣と呼ばれる彼の子、いわば使い魔たちにもある程度の影響が出るので事は見逃せない。


「しーっ」


「あ」


 だが、ミズハノメは唇に人差し指を当てて無邪気に声を上げたパーンをたしなめ、無言で力を送っているメーテルの手の先を見やる。


「新しい地上創るなんて珍しいね」


「ハーバーンがおじゃまむしするから」


「ん~、どれどれ……」


 小声でやり取りしつつ、パーンが半透明の球体をそっと覗き込むと、海の上にムクムクと出来てゆく大地へ黒い霧のようなモヤが吸い寄せられていっている。


 ミズハノメの言葉とこの状況を見て大体の経緯を理解したパーンは、未だ無言のメーテルの背に向かって静かに手を合わせた。


(ここでチョンって背中押したらどうなるかなぁ~? ボン!ってなるかな~?)


「こら」


「え?」


「ゼウスさまに言いつける」


「……なんでわかったの?」


「パーンはわかりやすい」


 じっ、とパーンの目を見るミズハノメ。


 神にとってはただの悪戯も、その星に住む生命からすればたまったものではない。原始星ならいざ知らず、仮にこの星にパーンが悪だくみを実行し、メーテルが大地の創造に失敗しようものなら大陸に超巨大津波が押し寄せ、百万単位の生命が失われる未曽有の事態となってしまう。


「や、やらないってば……」


 ミズハノメの冷たい視線に頭を掻くパーン。


 その時、円卓の間に勢いよく現れた神によって風が起こり、ほんの小さなそよ風がメーテルの鼻を撫でた。


「ミッズハ―――」


「ぶぇぇっくしょいっ!」


「「「あ」」」


「え?」


 固まる三神と、突然現れた運命神フォルトゥナ。


「やってしもたわい。ミズハや、助けておくれ」


「フォルトゥナの馬鹿」


 パーンはその場でうずくまって笑いを必死にこらえ、ミズハノメがジト目で半透明の球体に力を及ぼす中、半泣きのフォルトゥナはメーテルに連れられてどこかに行ってしまった。


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