#挿話 ~神々の小噺Ⅶ~

 黒いを纏い、視線の先に浮かぶ球体をじっと見つめる魔神ハーバーン。


 突如波打った地表にカップを傾ける手が止まり、自身の影響ではないと分かるや眉間にシワを寄せる。


 突然浮かび上がった大地が大津波を引き起こし、大陸を覆うかと思いきや、寸でのところで回避された。


 事が起こった瞬間に無かった事にされたのだ。


 今のは水神ミズハノメが事に他ならない。


「ゼムルヤ……いや、今はメーテルだったか。彼奴め、余が弄る前に星を壊す気か」


 星に魔素が満ち満ち、まさにこれからという状況下で起こった事態に一抹の不安はぬぐえないが、先の事はなので分からない。


 それこそ、運命を司る神でもない限り。


「チッ……」


 それぞれがそれぞれの思惑で星に影響を及ぼす力があるだけに、他の神が成す事に口を出すのは主義に反する。


 想定外ではあったが、なんとか影響は最小限に留まりそうだと判断したところで、ハーバーンはカップを虚空へと還してパチリと指を鳴らした。


 乾いた音と共に自身の神域が歪み、八の神々がズラリと居並ぶ概念へと変わる。


「皆を集めたという事は、そういう事じゃな?」


 創造神ゼウスの言葉にハーバーンは頷き、自身にとって不確定要素である星そのものを司る二神、メーテルとミズハノメをギロリと睨みつけた。


「……フォルトゥナがいきなり出てくるから悪いんじゃ」

「ごべんなざい」


 こってり絞られたフォルトゥナが涙目で謝罪し、同じく視線を受けるミズハノメは黙ったまま、隣に居るパーンは目の前に座る妖女のせいもあって口笛に活路を求めざるを得ないでいる。


「あへ……あへへ……あの一瞬襲い来ただけの絶望でこの味……た、たまらない……っ! もう少しミズハの介入が遅れていたら……んっ! 愛と憎しみに満ちた、美しい世界になっていた……あぁんっ!! ざぁんねぇん♪」


 人の感情を糧に存在する愛と美の女神、情動を司る神ディーナが視点を定めず身をよじって打ち震える。


 それは人の言葉を借りるなら狂気というほか無い有様だが、それを根本から否定する者はここにいない。


「うぉい! そんなは許さねぇぞディーナ! 人は魂をぶつけ合ってこそ、戦ってこそだ!」


 ドンと机を叩いて熱弁をふるう戦神マルス。最近一部地域でシュラとも呼ばれ崇められている影響もあり、姿形が変わって来ている事には誰も触れない。


「時に、フォルトゥナ」

「ん~?」

「奴は原初の大陸に向かっておるな」

「ん~、そだねぇ」


 ハーバーンの問いにフォルトゥナは相槌を打ち、質問の意図を早々に察してもなお、茶を濁す。


 一方は先を教えろとも言わないし、一方は先を話すつもりもない。ただの確認作業である。


 そしてハーバーンは視線をメーテルに移した。


「どこまで痕跡を残している。また反物質爆弾とやらで自滅されては台無しだ」

「ひょっひょっひょ。心配せんでもあの頃のは跡形もなく消えとるよ。精々前の前までじゃ」

「……ならばよい。パーン」

「はいはい。子供たちには言っておくよ。そっちはどうなの?」

「呼び水は糧共の仕事よ」

「あ、そうなんだ。まぁ……あんまり無茶な子、創らないでよね」

「それも糧共次第よ」


 神のみぞ知る。


「うむうむ。宴は近いの」


 人類に課された過酷な運命が今、動き出す。


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戦国武将異世界転生冒険記・続 詩雪 @shi_yuki

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