目覚めの朝と疑い

「———ここは‥‥‥どこだ」


深い眠りに入ったかのように重い瞼を開くと、目の前には白い天井が広がっていた。少し頭がズキっと痛むけど、体の方は軽い。


だけど、どうして私はここに‥‥‥?



「———ロゼっ!?」



目を開けて間も無く、私の顔を覗き込んできた友達のアシュリー

その顔はとても赤く、涙を流していた。それに、アシュリーの綺麗な白髪の髪が

乱れていて、何日も溶かしていないよう‥‥‥



「———よかった‥‥‥!本当によかったわっ‥‥‥1人で全部抱え込んじゃってバカなんだからっ!」



私の手を包み込みアシュリーが泣きながら、私に怒っている。

アシュリーのこんな表情を見るのは初めて。いいや、同年代で私にこんなにも

心を開いてくれている事が初めて‥‥‥


とても優しく、お淑やかで私とは正反対の性格なのに、私は彼女に救われている。


そんなアシュリーの姿をベッドに仰向けになりながら見つめていると、記憶が少しずつ蘇ってくる‥‥‥




————そう、私は1人で、みんなを助ける為に戦おうとしていたのだった‥‥‥

けれど、結局全部ただの無駄で‥‥‥カッコつけて1人で背負いこんで‥‥‥



「———すまないアシュリー‥‥‥‥私が馬鹿だった。ケジメをつけるとカッコつけたのに‥‥‥結局この様だった‥‥‥」



忘れもしない‥‥‥あの男達の視線‥‥‥あのガブリオレの力強い腕‥‥‥

私は何も抗えなかった‥‥‥男達の前でただのか弱い女になっていた‥‥‥


虎族としての誇りも本能も全て、踏み潰された‥‥‥



「———ロゼ‥‥‥大丈夫よ私達がいるわ」



あの記憶を思い出すと‥‥‥私は唯の女に成り下り、男達に弄ばれる情景に襲われる。感情を抑えても‥‥‥あの時の記憶はしっかりとこの瞳に刻まれている‥‥‥そう考えると、両目から涙が溢れてしまう‥‥‥



「———こわかぁったっ‥‥‥」



酷い表情になっているに違いないし、舌がうまく回らない‥‥‥

でも、私はこうして無事でいられている‥‥‥


そのことを考えても余計に嬉しくて‥‥‥体から重荷がなくなって‥‥‥



「———全て聞いたわ‥‥‥レオン君達が助けてくれたのよね。今、学園中で大騒ぎになっているわよ。1年生が2年生をボコボコにしたってね。ふふっ‥‥‥レオン君達に感謝しないとねロゼっ!」



「そう‥‥‥だな。レオンに感謝しないと‥‥‥あの時レオンがいなかったら私は今頃‥‥‥」



そうだ‥‥‥あの時レオンが助けてくれなかったら私はもう心が壊れていたかもしれない。鮮明に思い出すあの衝撃は‥‥‥それにこの胸の高鳴りは‥‥‥


突如として現れて、敵をたった1人で薙ぎ倒していくレオンの姿‥‥‥

あの姿を見て興奮しない者が何処にいるだろう‥‥‥危険を犯して私と皆を助けてくれた



一体どう感謝すればいいんだ‥‥‥




「———それでロゼ、レオン君はたった1人でどうやってあの人数の2年生を相手してたの?私が知っているのは、大勢の2年生が血を流して意識を失っていたらしいけど、流石のレオン君でも1人で相手するのは無理があるんじゃないかしら‥‥‥」



そうふとした時、アシュリーは私にレオンの戦いの様子を訪ねてきた。確かに、いくらレオンだけでは無理だと思っていた‥‥‥けれど違かった



「———レオンの冷たい視線、凍りつくような殺気、圧倒的強者の威圧どれもレオン本人なのかと疑うくらいだった。本能で察した、あれは異常だ‥‥‥いつものレオンが仮の姿で、あれがレオンの本性なのかと‥‥‥少し怖かった。けど、私は興奮し高ぶった‥‥‥

心臓が跳ね上がるほどに魅了されていた‥‥‥そして最後にレオンは‥‥‥‥。最後に‥‥‥‥さ‥‥い‥‥ご?」



あれ、おかしい‥‥‥どうして‥‥‥



「———ロゼ?大丈夫?最後にどうしたの?レオン君が何をしたの?」



混乱する私にアシュリーが頬に触れてくれる。けど、おかしい‥‥‥最後レオンがガブリオレを倒したのを見ている‥‥‥なのに、全然思い出せない‥‥‥記憶にモヤがかかったかのようだ‥‥‥なぜ‥‥‥



「———おもい‥‥出せない。なぜだか、記憶にモヤがかかってレオンが最後に何をしたのか‥‥‥そしてそれを見て私は驚愕したんだ!あれは、あれは‥‥‥くそ!なぜ、思い出せない!」



だめだ‥‥‥思い出そうとすると頭も痛くなるっ。あまりの混乱に記憶が整理できていないのだろうか‥‥‥?

1番肝心なところが何も覚えていないなんて



「———ロゼ、きっと混乱しているのね。今日は私がいるわ。明日一緒に登校しましょう?レオン君達が待っているわ」


笑みを浮かべて優しくしてくれるアシュリー。目の下が赤くなっているのはさっきまで泣いていたせい‥‥‥そんなアシュリーも見て私も頷いた。



「———ああ、レオン達に感謝しないと」







◊◊◊







「———それであなた達2人はレオン様の方に向かわれたのに、何者かに襲われて目を覚ますと寮の自室にいましたと?私が回復魔法をしていたのに何があったと言うんです?私が向かった時には誰もいなくて上級生達が倒れていただけでしたわ」


現在、私カメリアはジルと一緒にエリザから事情聴取を受けている最中。

前日の学生同士の紛争があって、対抗戦で恨みを買った1年と嫉妬した2年の暴走。


それに気づいた私達3人は手助けに向かい、一方はエリザがそしてもう一方は私とジルが駆けつけようとしていた。


だけど、駆けつけた時の衝撃は今でも覚えている‥‥‥



「———レオンが全員倒していたところだった。そこに最後のガブリオレとかいう上級生と睨み合っていた時に私達は到着した」


ジルは腕を組みながら淡々と答える。そして私もジルに便乗するようにあの時の衝撃をエリザに話した。信じてもらえるかわからないけれど、これは私達3人‥‥‥いいえ、Sクラス、そして軍に報告せざる得ない内容‥‥‥



「———そしてそこで信じられない事に、私とジルはあることに気づいてしまった」



「———?そのある事とは一体?」



エリザは不思議そうに私とジルの顔を見ている。これから話す内容はエリザも衝撃を受けることになるわ‥‥‥きっと




私は覚悟を持って、その内容をエリザに全て話した‥‥‥




「————なっなんですって?!レオン様があの覇王五剣の一本を所持していた?!あり得ませんわ!あの刀剣は各国に封印されているはず!」


エリザの驚きようは半信半疑と言ったところ‥‥‥損じてもらえるとは思っていない‥‥‥けれど、あの時にジルの精霊イフリートが話した内容は嘘とは思えなかった‥‥‥私の刀も怯えていたもの‥‥‥



「———けれど、数十年前に獣族国の宝剣にして、世界最強の桜月流の至宝、“紅月”が盗まれたのは知っているな?もしかするとそれがレオンの持っている刀だろう。だが、数十年前というとレオンも私達も生まれてはいない‥‥‥どうやって入手したのか謎だが、あれは本物だぞ?鞘によって力を隠しているのだろう‥‥‥全くレオンは何処からきたんだ」



ジルは捨て台詞のように話していた。感情は見えなくても、きっとレオンのことを疑おうして、けれど疑いきれなくて‥‥‥エリザも同様に狭間で葛藤が見え隠れしている



そんな私は2人にレオンの過去を話す事にした。これを言った所で何か変わるわけでもないけれど、2人には聞いて置いて欲しいと思った。



「———レオンは私達と同じ町出身で同級生‥‥‥けれど、レオンの両親の死後、彼は変わったわ。毎日森に出ては傷だらけで帰ってきて、それを見て当時のアザレアはレオンの傷を治して、毎日毎日彼の帰りを待っていたり、時にはお弁当まで作ってね。今思えば死にたがっていたのかとも思ってしまう‥‥‥けれど、私達も年齢が上がるごとにレオンお不気味さと冷たさと、全てどうでもいいと思っているような性格に気味悪くなって結局レオンは1人になってしまった‥‥‥それでも毎日森を行き来して、血だらけで帰ってくる彼を見てアザレアは心配そうにしていたわ」



私の話を真剣に聞いてくれている2人、面白くも何もないけれど、昔話というものは結構悲しくなるものなのね、



「———そして年月が経って13歳の全階級制定協会の日。レオンだけが受けずに、そのまま彼は旅に出てしまった‥‥‥きっと強くなる為に出て行ったのでしょうけれど、アザレは酷く落ち込んでいたわね。そして私達は運よくも6人が若くして軍に入隊出来て、力を、知識を養って行った。そして、5年後の今年にレオンと再会した。この間の5年間は世界中で混乱と争いが起きたわね。生死をかけた戦闘もしたし、伝説の厄災の魔獣は現れるし、虚無の統括者とか言う異端者が現れるし‥‥‥世界は確実に何かに進んでいるのよね‥‥‥と話はここなでかしら、長くなってごめんなさい」



話を終えると、2人は静かにその瞳を開けて、悲しむように言葉を話した。



「———いいえ、とても有意義な内容でしたわ。レオン様にそんな過去がお有りなんて、

 苦労していたのですね。もっとレオン様の事が知りたくなりましたわ」



「———そうだな、アザレアがレオンに好意向けるのも頷ける。危なっかしい男は見ていて心配になる。だが、あの刀とレオンが一体どう関係するんだ‥‥‥」



そう、問題はそこにある。なぜ、レオンがあの刀を持っているのか‥‥‥

そしてもう一つの問題‥‥‥



「———それもありますが、なぜ2人は最後にレオン様がガブリオレに行った粛清を覚えていないのですか?まるで、その部分だけ抜かれたかのように局所的ですわ」



エリザの言っている問題。私とジルの2人は何故か覚えていない。レオンが最後にしたあることを‥‥‥だけど、あまりの衝撃に言葉を失ったのを覚えている‥‥‥


なのに、記憶にモヤが入ってその場面が思い出せない‥‥‥見れない



「———あまりに不自然だ‥‥‥私とカメリアが気絶させられたのは同感覚。きっと何者かがその一部の記憶を消したのだろう」



「———なっ!そうなるとレオン様の裏で何者かが動いていると?!」



エリザは声を荒上げてジルに組みかかろうとする。何言っているのかとエリザはジルに対して思っている‥‥‥私も気になることが沢山ありすぎる‥‥‥



「私達が助けにはいった最初のガイとレオナルドは私達を見た時、不可解なことを言っていました。私達が援護したくれたのかと、この事から私達とは別の者達が彼らを監視していたと思います。そして、私達を気絶させたのも恐らく同じ人、あるいは組織的な動き」



「だな、私とカメリアに気付かれず背後をとるとは相当のやり手‥‥‥私達と同等かそれ以上の存在。そのような奴らがレオンの後ろにいるとして、見られては不味い事があったから私達の記憶の一部を消した」



腕を組んで壁に背もたれながら、ジルは歯を食いしばって床を睨みつける。



「———レオンに直接聞いても答えるわけがない。それに今回の事はSクラスにそして軍

に報告しないといけない。覇王五剣が絡んでは私達では余りにも内容が大きすぎる。アザレア達にも話さないといけない、例え想い人でも」



「———ジル、」



そうするしかないわよね‥‥‥‥今回の内容は私たちだけの判断は難しい。

レオンがどこであれを手に入れたのか、そしてレオンの後ろにいる者達は何者なのか‥‥‥慎重に探りを入れないといけない‥‥‥レオンは力を隠しているに違いないわ


じゃないと今回の事は説明が付かない




———レオン



あなたは一体何者、それに貴方の後ろにいる者達は‥‥‥


アザレアが悲しむ事はダメよ

私も悲しむわ‥‥‥

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る