剣術の授業
———週末の休日が明け、再開する学園の朝
程よい涼しさを肌で感じながら俺たちAクラスの生徒は全員、第二練習場に集まっていた。何故、講堂ではなく第二練習場なのかと言うと、先週に知らされていた剣術の授業をするためだ。
「———は〜い!それでは先週から知らせていた剣術の授業を始めますよ!皆さんご自身の刀剣は持参していると思いますので早速、先生にご登場してもらいましょう‥‥っ」
と、今日も綺麗なドレスを身に纏うウルティア先生が横に腕を伸ばす。
先生の伸ばした腕の先には大柄な男性が立ち、先生に指名されるとこちらに向かって歩いてくる。まるで岩のような体格と服の上から盛り上がる凄まじい筋肉は日々、尋常ならざる鍛錬を積んでいるのだと誰もが理解出来るほどだ
そんな筋肉巨漢の男はAクラスの前に位置着くと、目を細めて品定めするような瞳で睨んできた。
「「「——ヒ‥‥っ!」」」
髪のないスキンヘッドの眼光は凄まじく、その瞳に睨まれた者は怯え震えて腰を抜かしていく。
「がっはっはっは!すまん、少し貴様らを試してみた。怯えるのが悪いとは言わん、それは本能からの警告だからな!命優先で結構!あ、俺の名はブルーノだ!宜しくAクラスの諸君!」
その大きな口で高らかに笑い上げたブルーノ先生は心底楽しんでいる様子。
スキンヘッドなのだが犬のような耳を二つ頭にピクピクさせているので‥‥‥おそらく獣人なのだろう‥‥よく見れば腕や足腰にもふもふの毛並みが‥‥筋肉で見落としていたようだ。
なんともまあ、ギャップというよりも筋肉を優先した結果の見た目なのだろう
隣にいるファシーノを見れば明らかに『え、うそ‥‥』と言った表情で驚いている
Aクラスの大半がさまざまな思考で驚いている中、ブルーノ先生は何も触れずにそのままの勢いでまた話し始める。
「さて、剣術の授業を始める前に基礎知識を叩き込もう。なーに座学のようなもので聞いているだけでいい。———まずは刀剣についてだ。一般の刀剣は魂を宿さないのが普通であり、あらゆる種族の手に馴染んできた。しかし、稀に刀剣本体に魂の宿る代物が現れる。人を殺した怨念の魂か、魔獣の魂か、または大昔から存在している希少な物かだ。その刀剣に自身の魔力を馴染ませると刀剣を媒体して様々な魔法を引き出せる。刀剣の本質によってその種類は千差万別。また、より強力な魔力を引き出してくれる役割も担う。まあ、色々とあるが人為的に造られた物ではないと理解できればいい。そして、刀剣には“解放”と呼ばれる真髄が存在する。この”解放”というのは刀剣の魂に呼びかけ、刀に宿る魂を引き出す行為だ。解放を会得するためには自身の刀剣を心から信頼し、共に過ごしてきた期間が長ければ長いほどに引き出しやすくなる。このようにな‥‥‥」
するとブルーノ先生は長い話を一旦区切り、腰に据えていた剣を手に持つ。
先生の腕と同じ太さの大剣を片手に持つと、先生は剣に向けて言葉をこのように掛けた
「———
その時、先生の大剣から氷のように冷たく青白い狼が姿を現した。鋭く尖った長い牙を持ち、獰猛さを露わにする眼光は獲物を見るよう。俺たちAクラスの生徒を獲物にしか見ていないこの狼は只管に唸っている。
「「「おおお!!!」」」
と目をギラギラと輝かす男子諸君と
「「「キャー!カワイイ!!」」」
と甘い声を漏らす女子生徒。
「
合図と共に騒めいていたAクラスの皆は自身の刀剣を準備し始める。
まあ、俺も準備するのだが‥‥俺のこの刀には魂は宿っているのだろうか?
先生の話からしてなんの変哲もない刀剣でもそのうち魂が宿るということだが‥‥
まあ、俺も先生の大剣から現れた
「——おい、レオン」
‥‥‥??なんとレオナルド君について考えていたらまさに当の本人が話しかけてきた。医務室に運ばれてから会っていなかったが見るからに体調は大丈夫なようだ。
しかし、なぜ俺に話しかけてくるのか少々謎だな。二度も負けた相手に話しかける度胸は称賛に値するだろう、うん。しかもこの庶民である俺にどう言った風の吹き回しだ?
「そっちから話しかけてくなんてどういう事だ?まさか、更生して謝罪しにきたんじゃないよな?まさかあの三大貴族様がそんなこと‥‥‥」
「———そうだ」
「‥‥‥え?」
「この前のことを詫びに来た。ファシーノさん迷惑を掛けてすまない。今まで俺は貴族という箔に縋り、他者を貶めて来た。力ある事を自覚し、欲望のままに生きてきたがそれも歯止めが付かず暴走していった‥‥そんな俺の暴走を止めてくれたのがレオン、お前だ。初対面は最悪だったが、俺を止めてくれたことに変わりはない。だから感謝する。そして今までの非礼をお詫びする」
というとレオナルドは俺とファシーノに頭を下げてきた。深く頭を下げるレオナルドを見て以前の面影をまるで感じない。本当に別人のような振る舞いに戸惑いを見せるのはファシーノも同様だった。
「おいおい、頭をあげてくれ。別にもう気にしていない」
「ええ、そうね。私をレオンから無理やり引き離そうとしたことなんてちっとも気にしてい・な・い・わっ」
‥‥‥めちゃくちゃ気にしている様子のファシーノさん。少し雰囲気がいつもより怖いが大丈夫だろう‥‥きっと冗談に違いない
それよりも本当に謝罪してくるなんて流石に驚いた。
あのプライドの塊のような男がこうも易々と頭を下げるものなのだろうか‥‥
彼の中で何かが変わったのかもしれないが、不気味だな‥‥
「そうか、ありがとう。こんな俺からの謝罪は不気味だろう。俺も驚いているんだ。たった数日で、たった一瞬の出来事をきっかけに変われるのだと。貴族の取り巻きももういない。二度と庶民を下に見ることはしない。これは貴族として身に誓う」
剣士のように胸に手を当てて軽くお辞儀をするレオナルド君‥‥
そうか‥‥そうか‥‥君はいい男だな。イケメンが更生して更にイケメンになっているじゃないか。ほんと母さんのような気持ちだよ‥‥
一体君の過去に何があったのかは知らないが、人が変わることはそう簡単なことじゃない。レオナルド君は自らの過ちを認め、考えを変えた数少ない存在だろう‥‥
そしていつの間にかレオンと名前で呼んでくれている。
俺はそのことに何故か感激している‥‥
「ああ、レオナルド君の気持ちは十分に伝わった。昔のことは気にするな。今は授業に集中しよう!」
「レオンがそういうなら。ありがとう。ところで、レオンは解放を会得しているだろう?」
「‥‥え?」
「‥‥え?」
2人揃ってキョトンとした顔を作ってしまった
なんだろう‥‥これが学園の友情というものだろうか?
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