三章 降臨

覚醒


———時は少し遡り、魔族帝国にて会談が行われている最中、ここ魔族帝国領の森深くでは脈々とその存在が蘇ろうとしていた。その存在は森の奥深くの洞窟にて骨に細胞が付き、肉が形成され皮膚が纏ってゆく


そのそばにはある人物が佇みその存在をじっと見守っていた‥‥‥


「———ようやく、ようやくこの時が訪れた。このオリュンポス十二神(ディオ・クレアートが一人“セレス”の名において必ずやあのお方の期待を‥‥フハハハハっ!!!さあ!甦れ!そしてもう一度この世界を破滅へと導くのだ!! 無知な王どもを、哀れな選ばれし者セレツィオナートをこの世から消し去るのだ!!厄災の魔獣‥‥‥‥ディザストロ!!」


セレスと名乗る男が叫んだ瞬間、洞窟の一室に閉じ込められ魔法陣で囲われていた巨大な骸だった存在が突然動き出す。2本の腕に2本の足が細長い胴体から生え、その皮膚は異質な鱗に覆われている。頭部は細長く、鋭い牙が無数に生えた紅い相貌の存在が今まさに覚醒しようとしていた


セレスが骸に呼んだディザストロという魔獣の名。それは5000年前の大戦においてこの世界を、地上を100年間にも渡り蹂躙し破滅へと導いた魔獣の一匹


神が創り上げ、地上に住まう生物を恐怖と絶望に貶めた存在


その魔獣の名の真の意味とは、現在でも語り継がれる”伝説の龍”であった


そしてディザストロが完全に覚醒すると同時に、世界各国に潜めく魔獣が共鳴し、一斉に動き出す。魔獣が一心不乱に暴走し目指す先は街や国の首都。魔獣の大群ではなく魔獣の大行進が起こり、地上が揺れ始め大きな地震へと徐々に変わり始めていた


洞窟の中で覚醒した厄災の魔獣ディザストロは地下の洞窟から地上へ羽ばたく態勢になると‥‥‥



————ドゴオオオオンンンンッ



翼を羽ばたかせ勢いよく地上目掛けて飛び、地下深くの洞窟を崩壊させながら空を目指した。ディザストロが勢いよく飛び出したことで大地が振動し、より一層強い地震が地上を襲った


「フハハハハハ!!!ゆけ!この世界を壊滅させてこい!」


そしてこの巨大な洞窟も崩れ始めていき、セレス達は厄災の魔獣と同じく洞窟から抜け出す


「———我々も魔族帝国へ向かうぞ神の従者ディオ・バレット!!ついてこい!!」


「「「———はっ!!」」」


洞窟が崩壊していく最中セレスは神の従者ディオ・バレットを連れて魔族帝国の首都モデナートへと足を進めする


外では魔獣が暴走し、森が騒めき、大地が悲鳴を上げ、世界の終焉を迎える音が地上全土に鳴り響いていた———



◊◊◊



———そして場面はアザレア達に変わる。現在アザレア達は砂浜の訓練を終え、人族国首都チリエージョの本部に帰還していた


厄災の魔獣ディザストロが覚醒した頃、人族国首都チリエージョでは大地震が起こりはじめた‥‥‥


人々が突如発生した大地震に混乱する最中、追い討ちを駆ける如く襲いかかる魔獣の大行進。首都チリエージョの城壁を魔獣の群れが破壊しようと猛攻するが、それをなんとしても阻止する人族軍。その中には訓練生であるはずのアザレア達も魔獣の猛攻を阻止するべく戦場へと赴いたいて



「———なんて数の魔獣?!しかも全てがBランク以上の魔獣ばかり!!ベラ!カメリア!そっちは任せたわ!!」


「「了解!」」


城壁の外側で魔獣達を次々に倒し、迫り来る数多の魔獣と対峙するアザレア達


訓練生であるはずの彼女等が出動する事は滅多にない。しかし、今回は訳が違った。Bランク以上の数多の魔獣が国の首都へと攻め込んできている異常性。今までに経験しない事が起き、軍も切羽詰まり国民を守るため大事な訓練生を駆り出していた‥‥‥


現在、五種族会談で軍の総司令官にSSランクが不在のなかで起きた魔獣の大行進。数多の魔獣が攻め込み、軍と冒険者ギルドに属す冒険者の戦力では持ち堪えるのがやっとの状況


倒しても、倒しても次々に襲い掛かってくる魔獣。肢体が斬り飛ばされようとも襲いかかる魔獣はまるで、痛みを感じていないかのように見え、冒険者並びに軍は怖気付いていた‥‥‥


「———くそ!!こいつ等どうかしてやがる!何体いやがるんだ?!」


「ワルドス!こっちは俺とテルでなんとかする!訓練生達の方へ行ってくれ!」


「コキン‥‥!了解!」


アザレア達と同じく男3人組のワルドス達も狂乱する魔獣に悪戦苦闘していた


六幻楼の6人は後ろに控える訓練生を守る為、最前線に立ち魔獣を食い止めるが、6人が戦闘する背後では正規軍の兵士が負傷し医療班が手当てしていた


何としてでも背後に魔獣を通さないよう必死に戦う姿は訓練生や他の兵士から見ても英雄そのもの


共に戦っているSランクやAランクの軍人、冒険者達でさえアザレア達の激闘は度肝を抜かされていた


しかし、13歳にして合格した逸材達を良く思わない軍人も多々存在し、アザレア達を軽視してきた。死に物狂いで訓練し、生死を彷徨う経験を超えてきたのになぜ、彼らだけが特別なのか?


なぜ彼らだけがそれ程までに強いのか? 


歳を重ねた軍人や歳の近い軍人達は今までそう強く思ってきた。アザレア達のどの部分に上層部は引っ掛かったのか


軍人達のその謎は今、目の前で解明されようとしていた


激闘を繰り広げる6人の少年少女は国民を、仲間を、部下を守るためにその命を掛けて迫り来る魔獣に立ち向かう


魔獣の返り血を浴びようと、体に傷を負おうと、痛みを感じない魔獣と同じく唯無心で倒し続ける姿を見ていた軍人と冒険者は畏怖を覚える‥‥‥



「な、なんて子達だ‥‥」


「我ら大人が畏怖するなんて、彼らは本当に16歳なのか‥‥?子供の闘い方じゃないっ」


「訓練生であるはずが、負傷者を守る為に最前線に立つとは‥‥その心、決して錆び付かせるな!」


「我らも彼らに続くぞ!!この国を、民を守るのが我らの使命だ!!」


アザレア達の奮闘を見て、闘志を掻き立てられ我先に駆ける軍人達。雄叫びをあげながら魔獣に突き進む彼らの瞳に写るのは6人の姿。少年少女の背中を追い、共に戦う軍人達。彼ら6人に主役を譲らぬと、一心不乱に魔獣を倒す軍人達もまた国を愛し、民を守る事を胸に刻んだ本物の軍人である


「このまま突き進め!」


「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」


無数の魔獣の骸を踏み付けて新たに迫り来る魔獣を撃退し続ける。アザレア達の猛攻で魔獣の数が徐々に減少し最後の一体に差し掛かったとき、森の奥から一際目立つ異様な存在が姿を現した‥‥‥

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