キメラ


「———なっ何あれ‥‥?」


「———わからないわ‥‥なんて気味悪いの」


「———え、え?」


アザレア達は目を白黒させ、森の一点を見つめる

森の中から姿を現した異質な存在はアザレア達、最前線組の方へと徐々に近づいていく


「おいおい‥‥‥あれはなんだ?!」


「知るか!あれは明かにやばいっ」


「ああ、身震いするぜっ」


ワルドス達もその異質な存在に気付き、直ちにアザレア達と合流し体制を立て直す。そして最前線で戦う軍人や冒険者は声を出すのを抑え唾を飲み込む。深い森の影から現れる異質な存在に警戒心を最大限引き上げ、魔力を練りその時を備えるが‥‥‥



————グゥオオオォォッ!!



突如、地鳴りのような唸り声が森の中から響く。その唸り声は異質な存在であるとすぐに理解したアザレア達は一歩前へと歩み出す。そして森を掻き分けながら出てきた異質な存在


それは誰もが一度は聞いた事のある最悪の魔獣



「「「———キメラっ!?」」」



最前線に立つ全員が何かに取り憑かれたように声を漏らし、その場で石のように固まってしまう


キメラというこの存在は一つの個体に異なった個体が部分的に入り混ざる魔獣

獅子の頭部、山羊の胴体、蛇の尻尾、さらに翼を生やすこのキメラは体長20mある巨大な魔獣であり、その体は腐敗し臭気を漂わせる。皮膚が溶け、骨が至る所から見える所謂ゾンビの魔獣


そしてこのキメラはSランク魔獣ではなく、異例のSSランク


Sランク魔獣とは一国家20万人いる軍の内‥‥‥5万人程を動員して討伐できる強さを示す


しかし、魔獣ランクの最高値が現在Sランクと定められているが、一国家の軍を半数を動員しても討伐できず、他国に協力を得なければ討伐できない例外も存在した。それ等をSSランクと定め、今までに確認されたSSランクは5体


その内の一体であるキメラをアザレア達、軍人、冒険者で討伐できるはずがない。ましてやSSSランク、SSランクが不在の状況ではあまりにも絶望的であった



「———後ろには怪我人が大勢いると言うのに、こんな時に現れるなんて‥‥ううん、ここで諦めては目標になんて届かないわ!キメラだろうと全力で此処を死守する!」


キメラが現れたことにより皆が絶望し逃げ惑う中、アザレアだけはキメラに怯まず剣を構えた。その勇姿を見ている同級生の5人も同じく剣を構えて、アザレアの横に並ぶ


「悪いがアザレアだけに良い所を持ってかれて黙ってはいられないな」


「ああ、俺たちが引き下がっては後ろに被害が出ちまう」


「何より、俺たち6人1組だからな」


「‥‥‥みんなっ」


5人ともアザレアと戦う事を選び、表情を強張らせキメラを睨む。そんな同級生5人を横で見ているアザレアは思わず涙ぐんでしまう。溢れそうな涙を押し殺し、再度キメラと対峙する———



「———私も共に戦おう」



その時、背後から女性の声が聞こえ一斉に振り返るアザレア達。そこにいたのは

三年前、厄災の片鱗を調査するべくマルゲリータ町に派遣されたディア・ロンバル本人だった



「「「な、何故司令が最前線に?!」」」


「「「本部はどうしたのですか?!」」」



一斉に驚くアザレア達とディア・ロンバルと同じ階級である軍人達


Sランクの中でも非常に優秀であるディア・ロンバルは総司令やSSランク不在の中、本部で司令代理に就き作戦を練っているはずだった

しかし、キメラの情報をいち早く聞き付けたディアは直ぐに行動しこの最前線まで飛んできたのだ。司令が自ら最前線に足を運ぶなど異例であるが、キメラとなると話は別であった‥‥‥


「———話は良い。どの道、私は司令失格だろう。しかし、ここで全戦力を用いてこの化け物を止めねば我々の国は滅ぶ!上層部が不在の中この国を守れるのは我々しかいない!全力を持って死守するぞ!!同胞達!!」


ディア・ロンバルが突如戦場に足を踏み込んだことにより動揺していた軍人達。しかし、彼女の呼び掛けが絶望していた戦士の心に響き、再び目を覚ましていく


「そっそうだ、俺たちしかいねえ‥‥‥!」


「此処で立たなきゃ男じゃねーなっ!」


「死んでも死にきれねえ!やってやろーじゃねーか!化け物!!俺等の意地を見せてやるぜ!」


「「「————おおおぉぉぉ!!!」」」


徐々に意識を駆り立てながら雄叫びを上げキメラを睨む戦士達。その瞳は猛獣の如く見開き、針の様に鋭く‥‥‥



「———行くぞ!!!」



ディア・ロンバルが号令すると一直線にキメラへと向かう戦士達。その足取りは凄まじく早く、先ほどまで恐怖していた者とは別人であった。何百何千とキメラへと駆ける戦士の中には当然アザレア達もいる

その体は魔獣の返り血を浴び、擦り傷だらけだろうと構わずキメラへと向かう6人。共に雄叫びをあげ突き進んでゆく


しかし、キメラは一向に動かずただ佇むのみ。まるで何かを待っているかのようにただじっとその腐敗した瞳で向かってくる戦士達を見つめていた


その間、突撃しながらその異様な雰囲気を感じ取ったアザレアは違和感を覚えている‥‥‥


(———普通なら何か攻撃をしてくるはず。それなのに何もせず明らかにおかしな行動。まるで私たちが近づくのを待っているかのよう‥‥‥っもしかして!!)



「———今すぐ射線から避けてっ!!!」

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