対峙
————両者構えるがどちらも動かない。
呼吸を忘れたかのように身動き一つない
両者は出方を伺っている。互いの視線が交差するほんのわずか、眼が警戒するように細められた。
先に一歩を踏み出したのは“彼”だ
「いくぞッ!————」
ファルコは怒声と共に一瞬で間合いを詰めてきた
(‥‥早い!ク‥‥っ!)
懐に飛び込んでくるファルコは軍が使用するナイフ使い、一方俺は鍛冶屋で買った普通の剣。素早く鋭い連撃が続く彼のスタイルと俺のスタイルでは全く異なる
彼のナイフは一振りで大きなダメージを与える剣ではなく、何度も素早く斬り裂く剣。一度のダメージは大きくないが、何度も斬られやがて蓄積されるダメージ
名の通り“隼だな‥‥
俺はなんとかその連撃を受け流していた。一撃一撃が重く全身に衝撃が走る
———こんな連撃でなんて威力だ!
「どうした!あんちゃん!?守ってばっかじゃつまんねーぞ!」
ファルコはまだまだ全力を出していない様子で心から戦いを楽しんでいる
俺は剣に強化魔法を瞬時に施し、対峙する。さっきまで自分が立っていた場所から随分と距離があり————
「———オラァッ!」
絶叫と共にファルコに突進する。防戦一方だった戦いが何とか攻撃に転じてきた。だがまだ擦り傷一つ相手に付けていない。ようやく攻撃に転じてきたと言うのに剣が当たらないのだ
俺は悟った。これが格上の相手なのだと。技術も経験も全てがこの男には通用しない。隼の如く身を交わし、一瞬で責める戦闘スタイルは初めての経験
俺の“あの剣を出してしまえばまだ可能性はあるが‥‥‥
いいや‥‥‥ここで、この場で目の前の男の剣術を学ぶこの上無い絶好の機会
ここで限界を超えなければこの先の戦いもきっと苦戦を強いられるだろう
「うぉぉぉおお!!!」
俺は雄叫びを挙げてファルコに剣を振り下ろす
しかし————
「はっはっは!いいぞ!あんちゃん!楽しくなってきやがったなあ!」
己の立場が有利であることを知っている余裕の声。ファルコは唖然と涼しい表情をしている。振り下ろした剣とナイフが火花を散りつかせる
握る剣に相手の重さが‥‥感情が伝わってくる。相手の経験に技量、努力そして守るべき者。あらゆる情景が剣から腕に、そして身体に流れ込んでくきた
‥‥‥‥これは?!一体なんなんだ?
俺は身を引き一度距離を取った
「なんだ今のは‥‥‥」
俺の脳に先ほどの情景が視える
ファルコの感情に生い立ち。それに幸福に喪失感そして‥‥
いや、これ以上は考えたくも無い
ファルコも俺のように何か流れ込んでいるかと視線を送るがそうでは無いらしい
俺だけが視えていた‥‥‥‥?
首を振り俺は一度考えるのをやめる
目の前の男を凝視するが付け入る隙が無い。俺はただ圧倒されていただけだ。体は擦り傷だらけ全ての攻撃を防ぐことは不可能に近い。そんな圧倒的な差を魅せられているはずなのに俺はなぜか笑っていた。湧き上がる喜びに身体が震える
まだ‥‥まだ先は遥か遠くに存在し、上には上がいると言う現実
まだ俺は成長できると言う歓喜。失敗と経験をこの身に痛感して俺は一人で笑っていた
「がっはっは!あんちゃんも戦いが好きなんだなあ!そんなになってまで笑っている奴なんて見た事がねーぞ!」
そんな俺の様子を見てファルコはとても嬉しそうに笑う。
ファルコもまた感じていたのだろう。自分と同じ人種は滅多にいないが目の前の男は自分と似ているという感覚。
そしてそんな男とは全力で殺りあいたいという葛藤
ファルコはナイフを力強く握り決心したような表情をする
「あんちゃん。これは経験の差と技量だけじゃねー。あんちゃんは見た目からしてまだ若い。これから軍が無視出来ない存在になることは俺が保証するぜ」
ファルコはナイフをもう一本懐から取り出し‥‥
「今までは遊び‥‥‥あんちゃん?今から講義をつけてやる。世界は広いと知るいい機会だ。しっかりと学べ———」
そう俺に告げるとファルコは二刀流の構えを取る
「これこそ世界最高峰の剣速にして我が魔法」
ファルコが握る二本のナイフに魔力が集まり、緑色に輝き出した
‥‥なんだあれは?可視化ではなく輝きか‥‥また新しい知識か増えたな
そして珍しそうにみていたが、輝きが最大限に達するとファルコが口を開けた
「‥‥あんちゃん死んだら‥‥‥ごめんな?」
「———!!」
俺は身体中の血が凍るような悪寒に襲われ震え上がった
そしてファルコの口から初めて聞く魔法の名が響き、放たれる
『斬れ——
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