彼女の心


————私はエルフ———


だけど皆とは違うエルフ‥‥なぜなら”髪の色”が違うから‥‥


他のエルフ達は純白の髪色をしている。エルフにとって髪は命の次に大事な物

けど私の髪は蒼色‥‥‥‥‥純白には程遠い深い蒼


生まれつきこの蒼髪でいた為に周りからは侮辱され、貶され、無視され、軽蔑されてきた。


私のお父さんは私が生まれる前に死んでしまった‥‥

私はお母さんと小さな家で二人暮らしをしていた。私を産んでくれた大好きなお母さん。とっても綺麗で優しくて私がこの蒼髪で生まれても大事に育ててくれたたった一人の家族 


———でも私が大きくなるにつれて周りからの視線や差別、軽蔑の眼差しが更に増えてきた。

そんな3歳のある日の夜、家が何者かに放火された。放火したのは大体察しが付いている。私を好ましく思わない人たちの犯行だと思う。私は母と共に家を出てその日から宿無しの日々を過ごした。


それからスラム街でなんとか食止めていたけど、それも日に日に限界が近づいていた。そして私の人生が大きく変わる事件が起きる。今でも脳裏にしっかりと記憶されている‥‥‥


———それは昼のスラム街での出来事


お母さんと一緒に路地裏で会話をしていた時


「お母さん、なんで私は蒼髪で産まれてきたの?」


私が生まれてきたせいで大好きなお母さんにこんなスラム街での生活を余儀なくさせているんだ。当時、幼かった私でもそのことはわかっていた。 


しかしお母さんは絶対に蒼髪を嫌わなかった


「ダメよ?そんな風に言ってしまっては、あなたの魅力が落ちてしまうわ。それに蒼髪はとても綺麗よ?お母さんの大好きな色。とても深くてどこまでも飛んで行けるお空みたいだわ」 


お母さんはこの蒼髪を好きだと言うけど‥‥


私のせいで家は放火され、スラム街での生活に落ちてしまった。何よりお母さんが日を追う毎に痩せてきている。私はそんなお母さんを見ていられなかった  

食べ物があると私にばかり食べさせお母さんは一切口にしない


「ふふふ。私は良いからお食べなさい」


お母さんは優しい。ついその優しさに甘えてしまう私が許せなかった


「‥‥いい?いつか‥‥‥必ずね?貴方のその蒼髪をお母さんの様に好きだと言ってくれる人が必ず現れるわ。だからね、絶対に諦めたらダメよ?諦めたらお母さんが許さないんだから」


お母さんはそう笑って言ってくれた。そんな人が一体いつになったら現れるのだろう?


何日、何ヶ月、何年?


そんなことを考えていたら、急に三人組の男が物陰から姿を現してきた


「おお!こんなとこに美人な奴がいるじゃねーか?」


「ヒュー!おいおい上玉だな」


「それに子持ちかぁ!」


男達はお母さんを舐め回す様に見ている。そして一人の男がお母さんの腕を無理やり掴んだ。


「は、話してくださいッ!!」


「おいおい、抵抗すんじゃねーぞ?このガキがどうなっても良いのか?あ?」


残りの男が私を人質に取るとお母さんはあっさり抵抗をやめる


「おい!その娘を縛っておけ」


「オーケーブロー」


男達は私を縛りお母さんの方へと足を動かした。


「む、娘の前で!?や、やめて‥‥おねがい‥‥‥」


「ハハハッサイコーだな!!」


その忌まわしい声と共にお母さんは私の目の前で弄ばれたっ‥‥‥


小さな頃の私にとっては地獄の時間が続き、何時間経ったかわからない頃


「おかあさん‥‥?いや‥‥いや!!お母さん!!お母さんッ!!」


飽きた男達は首を跳ねてお母さんを殺した‥‥‥‥っ!


縛られながらも何度も読んで叫び続けた。でもお母さんは返事をしない 

胸の中で何かが崩壊する様な音が響いた。


それが大粒の涙になって頬を伝う



———大好きだったお母さんが‥‥


もう、もう‥‥


悲しさで呼吸が重くなる。胸に悲しみが満ちていく‥‥


「おい、このガキはどうするよ?珍しい蒼髪だぜ?売れば高くつくんじゃねーか?」


「そうだなブロー、こいつは珍しい蒼髪だ。高くなるに決まっている」


「早速売りに行きやしょうぜ」


悲しみに暮れている私を関係なしに強引に連れ去る男達


その後すぐに私は奴隷になり、地下深くの檻に閉じ込められた。


それからは毎日が地獄だった。オークションでは見世物にされ、オークションが終われば暴力をふるわれる。逃げ出したい程の恐怖が毎日続いた 一度逃げ出そうとオークションの隙を付いたけどすぐに捕まってしまった


罰としてその日、足の腱を斬られ2度と立つ事ができなくなった‥‥


———それから何年経っただろう? 


お母さんの言葉を今でも信じている私が哀れで仕方なかった。 

耐え難い苦痛。いつまで経ってもそんな人は現れなかった。 


いつまでも続く地獄 


二度と日の光を浴びる事ができない地下


ここまでくるとお母さんの言葉が忌々しく感じてきた。けど、今の私はお母さんの言葉に縋ることでしかこの地獄を耐えられそうになかった。


そして何年何ヶ月何日たったかは知る由もないけど、ピピストと言う男が檻の前にきてこう言った‥‥


「君には良く働いてもらった感謝しているよ?良い道化だったから金が溜まる。それとね、今日のオークションで最後だ。軍が突入してくる事がわかったんだ、多分君は軍に確保される。でも殺されるだろうね?その“蒼髪なら当然の事」


私はその話を聞き心臓が跳ねるほどに‥‥喜んだ。やっとこの地獄が終わる、やっと‥‥死ねる。お母さんが言っていた人物には出会う事ができないけれど、この地獄が終わるのなら良いよね?


私はもう疲れた 


もう、早く終わらせて


悲しみと喜びが混ざり合いながらその時を待った。地下から移動され会場に運ばれる。会場が騒がしくなり、ようやく私の番だと悟る


カーテンが開き、檻が引っ張られ壇上に移動させられる。

もうこの光景も見慣れてしまった。私を軽蔑し罵倒し汚物を見る目で見てくる観客。物を投げてくる観客。 


「———この光景が最後か、やっと自由になれる‥‥」


私は観客一人一人を憎悪のこもった瞳で睨む


でも、観客の中にある一人の人物だけが私に向かって指を刺して何かを言っている‥‥‥いいや、多分気のせい。きっと指を刺し嘲笑っているに違いない

肩を落とし俯いているとある声が聞こえてきた。エルフは耳がとても良く1キロ先のコインを落とした音でさえ微かに聞こえると言われている。


でも、片方の耳は切り落とされ聞こえないけどもう片耳に聞こえてきたある言葉。この耳に絶対にこの場では発しないある言葉が聞こえてきた。


『——見つけたぞ——』


ハッと顔を上げ、声の聞こえる人物を探す。その言葉の主は指を刺してきた人物だと分かった。


———なぜ?私を探していたの? 


意味がわからなかった。こんな容姿で生きてきたため、私を探す様な人はいるはずもない。心の中で何度もその言葉を踏みつぶす。でも、本当に探していたとしたら? じゃあ、貴方は誰なの?


———ううん


誰でもいい‥‥この地獄がもうすぐ終わるの、だからもう私に構わないで‥‥‥

でも‥‥もし、もしもお母さんの言っていた事が本当だったら少しだけ‥‥ほんの少しだけ信じても良いかな‥‥どうせこの後死んでしまうのなら少しだけ夢を観ても良いかな‥‥


小さな、遠い燈の様な希望


そんな彼女は眼に期待を潤ませながら願った


——お願い——


——たすけて——

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