数年越しの宿敵


「———ネロ様。ここは私たちが引き受けます。先にお進みくださいっ」


「‥‥あ、ああ頼んだっ!」


とファシーノにいきなりネロ様と言われた事で少々戸惑ってしまった

いつもはレオンと言っているのにいきなり口調も雰囲気も変わるんだな


まあ、とても優秀なのは間違いないしとてもありがたい


メリハリ出来ていいけど驚くよ。うん‥‥これは慣れるしかないな



と言う事で数百人の雑兵はファシーノ達に任せて先へと進もう


進む途中で数人襲ってきたが全て返り討ちにしてやった


「———ん?いい剣じゃないか、よし貰っておこう」


屋敷の中で高そうな剣があったので頂戴しておく

無論、泥棒ではないぞ。ああ、拾っただけだ



剣を持ちルンルン気分で屋敷の中を進むと、ある広間にあたった。

中央には階段が両サイドに伸びている造りをしているが、ここはどうやら社交会などの広間だろう


そう思い先へとすすみ広間の中央付近に差し掛かったとき、登って行く階段の上段に人影が現れた———



「———やはり少年か。彼女を助けに来たのですかな?」


「当たり前だ。彼女はどこだ?」


白髪の老人は影から姿を現し、俺と同じ階まで降りてくる

暗く顔がはっきりしないが窓から入る月明かりが老人の横顔を照らし出していた


その面持ちは目が細くシワがあり、全てを見透している不気味な表情


「———ほっほっほ。あのときワシに奪われた男は誰だったかのぅ?その程度で助けるなど夢物語よ。まあ教えてやらん事もない。彼女は裏庭の小さな小屋にいっ———」


「————っ助けに行きたくばこのワシを倒して行け、と?」


「‥‥‥左様っ」


俺は老人の言葉に被せてその先の言葉を言ったが、やはりそうこなくてはな‥‥


———俺は怒りを込めて老人を睨み付ける


「彼女をどうする気だ?何を企んでいる」


「ほっほっほ怖い目じゃの。何を企んでいるのか‥‥と、それは”彼女の血”だ。少しばかし貰うだけだ。なに死にはしない」



(血‥‥だと。一体なにを考えてやがるこいつらはっ)


「そうか。で、お前達は一体何者だ?」


そう聞くと老人はニヤリと笑い、その顔とは一致しない声を響かせる


「ほっほっほっ!そう、我らは”バラトロ”。そしてワシはオリュンポス十二神ディオ・クレアートが一人、バッコスの名を与えられた者っ!」


バラトロのバッコス‥‥‥


なるほどこいつらとはあの時以来、数年ぶりの再会だっ。このような出会いとは神は案外存在するのかもしれないな‥‥!


「そうか‥‥そうか、やっと出会えたぞっ丁度お前達を探していたんだよ。バラトロっ!」


「はっはっは!我らを探していたと?それは笑止っ!そんな貴様は何者だ!」


声を荒上げるバッコス。その瞳は先ほどの表情からは想像も出来ないほどに血が激っている


「俺は月下香トゥべローザのネロだっ!貴様らバラトロを冥土へ送る者の名だ。しっかりと覚えておけっ」


俺は先程拾った剣をバッコスに向けて構える


そのバッコスはなんの変哲もない杖を持っている。すると杖から刀が姿を現す


隠れ刀と言うものだろうか‥‥‥



———その刀を構え、互いに睨み合う。もう言葉は不必要


残るは剣での対話のみ‥‥‥


二人を照らし出していた月が雲に隠れ、俺たちの影を生む


そして再び影が俺たちを呑み込んだ瞬間‥‥‥


———動く


——————キイイィィイン!!


二人の剣がぶつかり合い、バチバチと激しく火花を散らす


両者の剣戟は常人に到底目視できぬほどの速度


空気を斬り裂き、一振り一振りが衝撃波を産み、窓ガラスを花のように散らす


一分の無駄もない研ぎ澄まされた体捌き



———目の前のバッコスの武器は刀。両刃ではなく片刃の刀は反っており引き斬る事で凄まじい切れ味を出す


一方の俺の武器はロングソード。両刃の剣で刀の様に引き切るのではなく、叩き切ることに重点を置いている。


技量か腕力か‥‥互いに鎬を削る


俺が打ち込んだ剣をバッコスは刀で受け流し、体を90度曲げると刀を俺に向け刀を突く


「———っ!」


俺は上半身を捻じ曲げるがバッコスの神速の突きは俺の頬をかすった


一瞬の隙で後背に下がり距離をとる。俺のかすった頬からは血が下に伸び地面に垂れていた


「———ほっほっほ。間一髪で避けたな」


「はは、危ないな爺さん」


頬の血を腕で拭き、バッコスにもう一度挑んでいくっ‥‥‥



—————キィンッキィン!



刃を幾度となく打ち付ける。真っ暗な広間で繰り広げられる死闘

閃光の如く駆ける少年とそれをただ冷静に反らし続ける老人


どちらも常人を超え、常識に反する動き


———ある時は広間全体を利用し蝶の様に駆け回る

壁を走り、壁へと飛び、翻弄し背後を取る


しかしバッコスは一歩も動かずまた振り向かずに刀だけで攻撃を受け流していく


「———はは、爺さん後ろに目でもついているのか?」


「ほっほっほ。経験というものじゃよ。小細工ではなく正面から来なさい」


不敵な笑みを浮かべるバッコスは俺を挑発し誘う‥‥‥


「ああ、そのつもりだっ!」


わざと挑発に乗り正面切って剣を振り下ろす


俺の攻撃をバッコスは平静に剣の軌道を反らし続ける


しかし一太刀の反らされた剣は力を失って居らず、バッコスの死角から斬りつけた


「———むっ」


死角から斬りつけた俺のロングソードはバッコスの髪を掠めた


バッコスは少し動揺を見せたがすぐに切り替え、俺に再度攻撃を仕掛ける


妖艶の如く煌く刀を巧妙に使い、何度も斬り付けてくる


「———早いっ!」


稲妻の様な剣捌き。横薙ぎからの斬りつけに剣で防ごうとする。


しかし気付いた時にはバッコスの刀は上段に構えられ刀を振り下ろされていた


俺は避けることが出来ず‥‥‥肩から腹にかけて一線の斬傷が刻まれたっ


赤い血が吹き出し黒いローブが血に染まり深紅を帯びる


血が地面にポタポタと垂れ無音の広間に響きわたる‥‥‥


「ハァハァ‥‥やってくれたな。太刀筋が、見えなかったっ」


痛みに耐えながら傷口を抑え、バッコスに向かい合う


「ほっほっほ。少年よ、これが技術というものよ。どんなに力があろうと生かしきれなければ意味などない。力ある者はそれ相応の技術が必要になる。経験もそうだがお前にはまだこの土俵は速すぎた。あの世で悔いるがいいっ!」


すると氷の様な冷たい視線が俺の身体を突き刺す。心臓を鷲掴みにされた様な感覚に襲われ、息が苦しくなる‥‥‥


俺は爺さんを睨みつけ問いかけた


「おい、爺さん‥‥‥一撃で終わらそうとしているのか?」


「そうじゃな。先ほどの爆発で軍も到着する頃だろう。この辺りが潮時と判断した。すまんな少年、もう少し遊んでいたいが‥‥‥冥土に行かれよ」


バッコスは刀を杖の鞘に納めると、腰まで下ろし柄を握り締めた


「なにをするつもりだ?俺も黙って見ているほどお利口さんでは無いぞ?」


冗談交じりにバッコスと視線をかわす

バッコスの冷たい視線が一層、強みをました


「この構えと技は手土産だ少年———」


言い終わると同時、踏込まれた脚は宙を掛け、雷の様に一線の光が俺を捉える


俺は反応どころか見えてすらいなかった———


「なっ———」



———それは抜刀術。鞘から抜き放たれた神速の刀は俺の胸を一刀に斬りつけた


そして床に落ちる血の音。加えて重く鈍い音が地面に響き渡る


その鈍い音とは俺の右腕を斬り落とした音だった‥‥‥


バッコスは鞘に刀を納め最後に言葉を呟く


「———桜月流抜刀術‥‥‥雷鳴千里」

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