各国の王達 Ⅱ
———時は同じくして場面は獣族国に変わる
獣族国の首都ベスティア
犯罪が最も少ないと名高い評判を誇るその国は、全て王による統制と世界一の娼婦街により実現されている
また山々に囲まれた首都ベスティアは鉱山と、鉱山から鋼を採掘し加工する技術が盛んな国としても有名である
一つが鋼。そして鋼より硬い性質、羽よりも軽く魔力を通し易い魔法具にもなる便利なミスリル。凄まじい切れ味に決して錆びる事は無く異様な刃紋が特徴のダマスカス
これらは武具などに加工されその中でもダマスカスが鋼の100倍の値が付く
商会などでは大事な利益に結びつく為、競争率も非常に高い。多種多様な商会の中ここ2年で急成長し、独走している商会がある
その名もパンテーラ=ネーラ商会
マイアーレ商会が倒産し、その後継という形で新たに改名した商会であり、レオン率いる月下香の傘下にしてその資金を担っている。
月下香大幹部五華の5人のうちの1人、黒豹族のエルディートが娼婦街並びに商会を管轄し統制している
そして獣族国の王城はまさに軍本部。軍本部と王城が同敷地に存在し、周りを要塞で固めている。王城に立ち入ることが許可されている者は王族とSSランク以上の者のみ。緊急事態ではSランクも立ち入ることができるが滅多にない
王城は首都ベスティアの中央に佇み、常に四方八方を見渡せ監視には最適である。そんな王城にて、現女王陛下であるストレニア・ヴォルペ・ディエーチが王の間にて五種族会談へ出発の準備を進めていた
玉座に腰を下ろし、女王ストレニアが見下ろす先には軍服を纏った3人の獣人が跪いていた
「———陛下、魔車の用意が済みました」
「そうか、もうこの時期が来てしまったか」
跪く3人の中、最初に話を切り出したのは灰色の尻尾を生やし、灰色の髪をオールバックに交戦的な顔付きをする狼族の青年イゾラート・ルーペ
彼は最年少の19歳にしてSSランクの座に就き、師団長を務める一際優秀な軍人である。戦いを非常に好む性格と筋肉質の体はこの国のあり方に適正だ
そして彼には野望があった。それは獣王の座を手に入れること。若気の至りでもあり、最年少でSSランクという肩書きはそれほどまでに彼を掻き立たせた。しかし、女王はルーペの野望を既に見通し、放っていた。この国は力こそ正義、奪いたくば奪えと言う名の下で女王はこのイゾラートに挑戦させようとしていた
しかしイゾラートは挑戦せず現状維持のままを過ごしている。それはなぜか?
女王の前にリコリスという女王の娘がいるからである。2年前の獣武祭にてオリジナル魔法を顕現させたリコリスはそれ以降、学園に通う学生ながら時期獣王と噂されていた
また年がリコリスは今年で20、イゾラートが19と非常に近い
リコリスが18でオリジナル魔法を顕現させたにも関わらず、イゾラートは未だにオリジナル魔法、もとい最上級魔法がない。そんな優秀であるルーペはそのことに対し非常に苛立っていた
どんなに優秀で魔法力があろうと最上級魔法すらない者が女王やリコリスに勝てるわけがなく、そのためルーペは挑戦せず自身のオリジナル魔法習得のため休戦中というわけである
「最近は魔獣の大群が多いが、気にする程でもない‥‥ところで“アクイラ。魔族帝国領の首都までどれほどの日数で到着する?」
女王が呼ぶアクイラという獣人は鷲族の血統である。
本名はアクイラ・コアトル。腕に黒い羽が生え、また足が鳥の様に鋭くなっている。腕と脚以外は人と遜色ないが獣人の中では一番獣に近いと言えよう。鷲族の末裔はかのケツァルコアトルであることから遺伝子を多く受け継いでいるとも捉えられる。
そんな彼女は女王の問いに対し、懐から日記帳のような物を取り出すと淡々と話し始めた
「我々の航路は地上、それも険しい山々であることから長く見積もって三週間。魔族帝国の道中は幾度となく山々を乗り越えるため早くても二週間と言ったところでしょうか。道などは全て補正されているものの仕方がないことでしょう」
「そうか、会談まで1ヶ月。そんなものだな。あまり早く着きすぎても暇なだけだ。さて、そろそろ行くとするか。“ランベルト”お前は妾と同乗しろ」
「——はっ」
女王がランベルトと言った人物は女王ストレニア・ヴォルペ・ディエーチの実の夫であり、リコリスの父親でもある。本名はランベルト・レオーネ。狐族が王位に即位するまで彼ら獅子族がこの国を統制していたが、300年前に敗北して以来側近の地位を得ている
力が全てのこの国において女も男も関係なく勝者こそが絶対であり、敗者は勝者に平伏す。男であるランベルトは一族の代表であるが妻のストレニアには敵わず頭が上がらなかった。しかしその実力もさる事ながらSSランクの称号を持ち、現在では軍に尽力している
———玉座から女王は立ち上がり、王の間を背に歩き出す。その背後には3人のSSランクが共に続いた
「「「女王陛下に敬礼!」」」
城の外へ出るや否や、軍本部と同敷地のこともあり軍人は隊列を組み、全員が一斉に敬礼する。女王の通る道を開けて左右に展開する軍人。その光景はまるで、戦争へと駆り出て行く戦士を讃える行進。
行く道の先には魔車が停車し娘のリコリスが待ち構えていた
「お母様、準備が整いました。」
「ふむ、リコリスお前も同乗しろ。いい経験になるだろう」
「わ、私もご一緒に?!‥‥お母様のご命令とあらば同乗させていただきます」
浮かない表情のリコリスだったが母の言葉に渋々従い、共に同乗する
時期王であるリコリスを連れてゆくことで女王はさまざまな経験をさせようとしていた。
まだ17と学生の身だが同じ年齢の者よりとても貴重な体験をするだろうと思い、親である女王は娘を成長させようとした
そしてあの事件から約2年と半年。獣王に即位してから初の汚点を残した例の事件。女王の記憶にこびり付く謎の少年と組織
それは未だに解決されず、また存在すら確認できずにいた
レオン達がこの2年で勢力を大幅に拡大したことなど女王は知らない。
世界トップの商会を手中に収め、世界一の娼婦街を束ねる統率力。精鋭の中の猛者を配下に収めるその力は次第に無視できぬ存在へと変わり、人々に、世界に衝撃を走らせる
しかしそれはまだ先の話‥‥
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