各国の王達 Ⅰ


そして各国の国王達に場面は変わる



———ここはエルフ大国首都アルベロ・デル・モンド

精霊女帝が想像したとされる伝説の木が存在する国。木の名を世界樹と呼ぶ。その世界樹の頂上に王族が城を築き、代々この世界樹を守り住んでいた。まさに大陸を見渡せる城


頂上では他にも城一つや二つ安易に建築出来てしまうほどの巨大な面積を誇り、世界樹の枝分かれだけで半径1kmは超え、胴回りも1kmある。そんな世界に一本しか存在しない世界樹の頂上に城をどのようにして建てたのか?大昔の先代が建てたのは間違いない、しかし現代で一からとなると不可能に近かった


魔法で資材を運ぶとなると雲まで届く木をどの様にして運び、登るのか?

浮遊魔法も存在しそこまで難しくない魔法だが、上空まで飛ぶ者は現代において存在しない。翼がある天族くらいだろう


よって現代でも構成や製法は謎のままである。現在では魔法エレベーターという物が発達し、上空まで余裕で浮遊することができるので資材や食料を乗せて行けるが、そんな世界樹の頂上に位置する城内を一人のエルフが淡々と歩いていた


“彼女”はある任務のため滅多に訪れない城に足を運び、ある者に会おうとしていた。彼女は歩いていた足を止めると豪華な装飾が施された扉が現れ、両手でゆっくりと開ける


「———失礼します。エルフ軍総司令ディアナ・スミス只今到着しました」


彼女は全階級制定協会が選出した選ばれし者セレツィオナートのうちの一人。彼女自身のオリジナル魔法を持ち、世界で5人しか存在しない可視化できる魔力ヴィズアリタの宿主。エルフ軍の総司令に若干20代で就いたその才能と戦闘能力。各国の軍部は彼女を最大危険人物と恐れ、警戒している


そんなディアナは扉を開けるとすぐさま膝を曲げ、豪華なベッドに腰を下ろす“女性”に頭を下げた

その女性はとても綺麗な白髪を腰まで伸ばし、まるで雪のような白い肌を薄い服から魅せる。紫色の瞳を宿し、男女問わず心を鷲掴みにする仕草。そして容姿。


ディアナは思わず見惚れていると女性はクスクスと笑顔を浮かべ、ディアナに向けて懐かしむ様に話し始めた


「———ふふ、久しぶりねディアナ。またさらに綺麗になったわね。あと、二人きりの時はその硬い口調をやめてって何度も言ってるでしょ?」


「申し訳ありません。流石にこの国の王にその様な言葉遣いは私には出来かねます」


「もう、これは命令よ?王の命令は絶対なのよ?」


「承知しました‥‥‥“ララノア”またこの時間まで寝ていたの?」


「ええ、やっぱりそっちの方がいいわ。ちょっと待ってね。すぐに準備をするから」



———このように私に命令できるのはこのララノア様だけ

正式名称は“レ・アルベロ・デル・モンド・ララノアであり、王に即位した者は世界樹の名を受け継ぐ。その歴史は長く凡そ5000年程続き、現在国王のララノア様で丁度200代目。


王位継承権を勝ち取ったララノア様は若干20代後半で即位。他の王位継承権候補だった王族は全部で三つの派閥に分かれていたが、ララノア様が勝ち取った



一つが人脈深く誰にでも隔てなく差別しないお優しい女性のララノア様


そして傲慢で欲深く常に見下す男性のエルサリオン様


聡明な考えを常に持ち、民を身守る男性のローミリオン様



3人の年齢はほぼ一緒、しかし考え方や目標などは全員が異なる

王族の三本柱であり、時代のエルフ大国を背負う方々


そんな方々の一人で有らせられる現在の王はとても自由である


各国の王と軍人との関係は知れている。軍人は王の盾となり矛となる。王は軍人を使役し己の判断で扱う。主従関係であり、軍の総司令と言おうと王に逆らうことはできない


しかし獣族国と魔族帝国、そして天族国だけは軍のトップと国の王が同一の為、考え方も異なる。あの三大大国は強さこそ正義と掲げ、他の二大大国と意見を食い違うこともしばしば


さて、ララノア様が身支度をしているうちに地上に降りる為の準備をしなくては

あの方は敬語を嫌っているが人前では流石にあのような砕けた言葉は無理だ‥‥



———その一時間、ララノア様の身支度が終わり魔法エレベーターに乗り込み地上に降りる


地上に降りた先に待ち構えていたのは大勢の国民と軍人


そしてララノア様の姿を見た途端に国中に響き渡る歓声が上がった



「「「ララノア様〜!!!」」」


「「「こっち見て〜!!!」」」


「「「4年ぶりのお見えだ!!!」」」



国中にパレードが起こり道を規制しているのにも関わらずララノア様を近くで見たいと押し寄せてくる国民達。それを必死で守り抵抗する軍人

なんとも言えない光景を見て私は非常に居心地が悪い


しかし隣のララノア様はとても楽しそうに笑い、手を振り続けている

さすがは王である。このなんとも言えない状況でも楽しんでおられる


「ララノア様。申し訳ありません」


「何を謝っているの?とても楽しそうじゃない?」


どうやら本当に楽しんでおられる様子。王の責務として滅多に地上に降りないララノア様は祭り事を見るたびに興味津々で見ている。このような祭り事を経験したことがないララノア様はさぞかし貴重な体験だろう。毎日城に籠り、王の責務をただ真っ当するなど私には耐えられない。少しは羽目をはずし、体を動かすだろう


そう考えるとララノア様は本当に凄まじいお方だ


「ララノア様、魔車の用意ができました。どうぞお乗りください」


「ええ、ありがとう」


ララノア様を王族専用の魔車に乗せその隣に護衛として私も同乗する

そして前と後ろに囲う様にして魔車を配置し走らせる。


先頭を走る魔車と後方を走る魔車にはそれぞれSSランクの3名が乗車し警戒している


本部がSランクだけになってしまうが彼らも優秀である。我々が不在でもしっかりと国を守ってくれるだろう


航路としてはまず、湖の船乗り場まで一週間は魔車で移動する


我々エルフ大国と魔族帝国だけは湖を挟み、反対側に位置していることで近道を行くために船に乗り換えなければならない。その後湖を渡る事一週間、魔族帝国領に入る。また魔車に乗り換え、魔族帝国首都まで移動すること一週間。


約三週間ほどの長い道のりである。首都に到着したならば一週間程観光できるらしいが、そんなものは不要だろう。


「ララノア様。航路は長いので、ゆっくりとくつろいでください」


「ええ、そうさせてもらうわね。この魔車はとても広いのね。キッチンもあるしベッドまであるなんて」


「はい。これはパンテーラ・ネーラ商会という大商会に特注で頼みました。魔車業界を独走しているこの商会は他にもあらゆる商品を扱っています」


「まあ、とてもすごい商会なのね。今度、何か頼もうかしら」


ウキウキなご様子のララノア様。その可憐なるお姿に似合わない無邪気な笑顔はまるで旅を楽しむ子供のよう。


残り約1ヶ月これくらいの気持ちで行かなくては後に気が滅入ってしまうな‥‥


しかし、我らは王の護衛。いついかなる時でも常に周りを警戒しなくては


また“2年前のように突然現れるかも知れん、”ネロ”と言う者が‥‥


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