襲撃された対抗戦と救出のレオン

「———みなさん!こちらへ避難をっ!!早くっ!」


「おかあさ〜ん!?どこぉっ!?」


「足が痛いよぉ‥‥‥うええぇぇんっ」



————数分前、会場は突如爆発に襲われた。学園都市対抗戦の会場で逃げ惑い混乱する人々。そして軍と交戦している謎の黒い者達。


会場はパニックに陥り、観客は一斉に出口へと避難を開始。


謎の黒い者達の襲撃を受け、軍は観客を守るために交戦。


そしてその場に居合わせた重要人物達は驚愕と困惑の最中避難をしていた‥‥‥


「———パエーゼ!何が起こっているの?!」


「———何者かに襲撃を受けたに違いありません。なぜ、直前まで気づけなかったのか」


「———それよりも皆様のお命が優先です!こちらへお入りください!」


そう言って彼女らが入った先は監視室兼司令室。会場のありとあらゆる動きを監視し、不審な動きをする者を決して逃さない。それが今回の襲撃では何故見つけられなかったのか、と人族軍総司令のパエーゼは考えていた。


司令室に座る監視役の軍人が数十人もいるにも関わらず何故‥‥‥と


だが、監視の目を欺き行動を実行したことを考えれば、導き出される答えは一つ



「———裏切り者がいたということか」



パエーゼのその言葉を聞いた監視役達、そして重要人物達は目を見開き、俯くしかできなかった。


「———我らの中に紛れ込んでいた賊を洗い出せ。決してこの会場から逃すな!」


「———はっ!」



◊◊◊



「———勝負は一旦お預けのようねワルドス君」


「———ああ、そうさせて貰う。今は現状を把握する方が先決だ!アザレア達と合流しようファシーノ」


「———ええ、そうしましょう」


そして俺とファシーノは剣を納めて、アザレア達と合流するために森林を駆けた。


駆けること数分、少し開けたところで数人の男女が一箇所に集まっているのを発見した。

人数からしてよく見るとアザレア達なのだと確認でき、みんなと合流を図った。


「———ワルドス!!ファシーノ!!よかった無事見たいね!さっきの爆発は何?!会場の方から聞こえたけど!?」


アザレアが食ってかかるように俺に詰め寄るが分からないと首を振ることしかできない。

そしてよく見ると、Aクラスの3人が戦闘でダウンしている。確か、ロゼ、アシュリー、ガイという名前だった。


こんなタイミングの悪い時に一体何が起きているんだ?




———そう考えているとジルとエリザ、デボラが何かの気配を感じとり、声を張り上げた



「「「———来るっ!」」」


「「「———!?」」」





「———へ〜こいつらが噂の1年か?なんだかすくねーような気がするがまあいい。全員ぶっ殺せばいいだけの話か?」


「———誰だお前達は?!」


突如、森林の中から姿を現した男に俺は剣を向けて問いかける。すると、周囲を囲むようにして続々と新手が姿を現していった。


「答えろ。貴様達は何者だ?」


今にでも襲いかかりそうなジルが高圧的に再度、問いかける。その男の返答次第では周囲を囲まれた俺たちは一斉に襲い掛かられる。


武が悪く、有利なのはあちら側だ、、、



「———俺たちが何者なのかって?あ〜確かこういう名前だぁ‥‥‥月下香」


「「「———なっ!?」」」



まさかの言葉に驚愕する俺たち。一瞬だけ困惑したがすぐに気を取り直す


しかし、ある1人の‥‥‥ファシーノの殺気が全身を襲った



「———月下香‥‥‥ですって?」



ファシーノの殺気、怒りや憎悪とも取れる感情。その圧が周囲の木々を押し潰していく


「ファ、ファシーノさん?」


「だ、大丈夫か?」


エリザとジルが心配そうにファシーノの肩に手を掛ける。

禍々しいほどの殺気が漂い、それほどまでに月下香を憎んでいるのだと分からせられる



そして殺気を漂わせているファシーノが男に向かって口を開いた。

その言葉はとても冷たく、感情のない冷酷なもの‥‥‥


「———ただで死ねると思わないことね」



その瞬間、全身を駆け巡る悪寒が襲う。冷や汗なのか、緊張の汗かは自分でも判断できるほどの冷たく、息もままならない空気が漂った



「ファシーノさん貴方は何者なのです?」



とデボラが恐る恐るファシーノに尋ねると、彼女はこちらに振り向かずに答える



「———それがどうしたというの?」



「———い、いいえ。問題ございません‥‥‥」



ファシーノの冷酷な言葉に臆するデボラ。

その後、全員が怒り狂っているファシーノに声をかけれずにいた。



「———そろそろいいか?全員纏めて俺の力の糧になれっ!やっちまえっ!」



「———くるぞっ!気を引き締めろ!」


「「「———ええ!」」」



そして、俺達の本当の戦いが幕を開けた



◊◊◊



———ここは湖底監獄に通ずる隠しの地下道

暗く、息をすることも嫌になる臭さが漂う迷路


獣族である私にとっては鼻が曲がる地獄のような空間


何故、そのようなところに私がいるのかというとレオンを救出するためだ。

レオンが攫われたという報告を受けて、いても立ってもいられなかった私は病室から抜け出してレオンの発信機を頼りにここまできた。


そして来てみれば、まさかの最悪な環境‥‥‥

またもう1人の人物にとっても経験のないことだろう‥‥‥



「———ここだな?最悪な空間だが、準備はいいか“ヴァレン”」


「———ええ、いつでもいいわよレベッカ。本当に最悪な匂いね。これでは血の方がまだマシというもの‥‥‥」


「———血の匂いは好きではないがここよりはマシだな。さあ、進もう‥‥‥」



そう言って地下道を進もうした時、後方から水の跳ねる足音を聞き取った


「———ヴァレンっ何か来るぞ」


「———ええ、了解したわ」



そして足音と水のはねる音が近づいてくる。数十m、数mと徐々に距離が縮んでいき足音が大きくなる。そして、目にした人物は予想外の人物だった


「———誰です?!このようなところに何のようですか」


ヴァレンが睨みを効かせながら、目の前の彼女に問いかけた。しかし、私は今にでも剣を抜きそうなヴァレンに手で静止し彼女に改めて問う


「———ここに何のようです“ミネルんさん”?どうして貴方がここにいるのですか」


「———まさかレベッカさんですか?これは失礼しました。私はただ怪しい人物達を追ってここまで来たのです。そしてつけた先がこのような地下道でした」


そう言うミネルンさんの言葉は嘘をついているようには聞こえない。ただ、疑問に思うのはなぜ、ミネルンさんがそこまでするのかという事だ。命を顧みずに、単独で行動するその理由とは一体、、、


「私の友が数日前に行方を眩ませまして‥‥‥もしかすると思い行動に至ったわけです。こう見えても昔は名のあるクランのクランマスターを勤めていたのでお荷物にはならないかと思います」


「そ、そうですか。それはさぞご心配でしょう。無礼をお許しくださいミネルン様」


「い、いえいえ。こちらこそ、そちらからしたら十分怪しい人物に見えるので私も同じことをしたでしょう。して、貴方達がここへいる理由を聞いても?」


ヴァレンが謝り、ミネルンさんはこちらの事を知りたがっている。ミネルンさんからすれば学生が何故と思うのも当たり前だろう。しかし、ここは真実を話すべきではない‥‥‥


私達は極秘魔法部隊に所属しているのだから、学生という項目で日々死と隣り合わせの日常など誰も信じてもらえない。私達はこの学園都市を守るのが使命‥‥‥いくら頼れる存在だからと言ってそうそう秘密を漏らしたりはしない‥‥‥



「私達は学生が攫われた聞いてここまで来ました。無論、救出するために」


「‥‥‥そうですか?なぜ、あなた方学生が救出を?それは軍の役目では?


「「‥‥‥‥」」



私とヴァレンはミネルンさんの問いに答えることはできなかった。沈黙を貫き通すことしかできない中、ミネルンさんは何かを判断したかのように頷く


「そうですか‥‥‥私も秘密の一つや二つは抱えていますので。事情は大体察しました」


「‥‥‥ありがとうミネルンさん。それでは、進みましょう」



ミネルンさんの察しが良くて助かったのか、或いは気づかれたのか定かではないが、ここは協力して行かなければならない。どのような敵がいるか分からないが、必ずレオンを救って見せる————



◊◊◊



「————ハァァァァァ!!」



————ドォォォン!!!



「———邪魔!」



————ドゴォォォン!!!



「———そこっ!!」



————ドバァァァン!!!




「な、なんて強さだミネルンさん」


「ええ、凄まじいわねレベッカ」



私とヴァレンとミネルンさんが地下道を一緒に移動して数十分。

黒い服を纏う輩が次々に私たちに襲いかかってきた。その悉く、返り討ちにしていく。戦い続けると敵の数も増えていき、そして徐々に強くなっていた。


地下道が血と腐敗臭で混ざりあい、息をするのは嫌になる中、目の前のミネルンさんは私と同じ獣族の猫族なのに嫌な顔ひとつ見せないで戦闘に集中していた。


そんなミネルンさんの戦いはまさに驚愕の一言に尽きる。



「うわぁっ‥‥‥」「グハァっ‥‥‥」「やっやめっ‥‥‥!」



一太刀で敵を一刀両断し、斬り捨てる。迷いの無い刀。躊躇いも躊躇も一切感じない斬新な太刀。その一振り一振りが派手さもなく最低限の剣筋だけで薙ぎ倒していく。


‥‥‥いや、暗闇だからではない、彼女の剣技は洗練されたもの。殺すことだけに特化した剣技。普通でいて且つ、目に止まることのない剣技。


そのような剣技が今、私の目には壁に見えてくる。彼女の剣筋を見るだけで、レベルが違うのだと思い知らされる。


桜月流の継承者の私がその一振りを見切れない剣筋とは‥‥‥彼女は‥‥‥ミネルンさんとは一体何者だ?



「レベッカ。ミネルン様とはどこで出会いましたか?それに彼女は一体何者です?」


「会場でたまたま観戦中にお会いしただけだ。まさかこれほどの実力者だったなんて思いもしなかったがな‥‥‥彼女は何てクランに所属していたのだろう」



そしてミネルンさんの戦闘を後方で見ていた私達はあらかた敵を片付けた彼女に寄り添い、聞いてみることにした



「ミネルンさん貴方は一体何者です?先程の戦い‥‥‥只者ではないはずです。どこのクランに所属していたのですか?」


そんな私の問いに、先程まで戦っていたのに全く疲れを見せないミネルンさんが清く答えてくれた。



「———元、Sランク冒険者で世界に3つしか称号を許されていないSランククラン、美翔の乙女の元クランマスターこと、ミネルンです。引退しましたけどね」



「あ、あのかの有名な美翔の乙女のクランマスターですか?!名の知れた女冒険者を集め、数々の魔獣を討伐し、女性だけの最強のクランを創設したあのミネルンさん!?」


「ええ、あの時は楽しかったです。今はもう後継者に引き継がせましたけど、たまーに連絡してくるんですよ。可愛い後輩が」



というミネルンさん‥‥‥まさかあの美翔の乙女のクランマスターだったなんて‥‥‥


美翔の乙女は数年前に突如創設された女性だけのクラン。軍に入隊せずに、自由に戦いを追い求める冒険者は軍の代わりに魔獣を討伐するのが仕事。無論、軍も魔獣を討伐するが、軍の討伐対象は魔獣ではなく人が優先。国内は軍。国外は冒険者が守り、国を平和に統治する。


その中でSランクという称号は冒険者の中で最高位のランクであり、軍で言うならS Sランクとも同等と言われている。そのSランク冒険者は世界で数名しか存在せず、またSランククランともなれば世界では3つしか存在しない。


そのうちの1つである女性だけのクランの元創設者がミネルンさんだったとは‥‥‥


先程の剣筋を見たら疑いようのない事実。


これほどの存在が味方にいるとはなんと心強いのだろうか



「———ミネルン様はとても有名な方だったのですね。それになぜ、クランマスターを引退したのですか?」


ヴァレンがミネルンさんに疑問を投げかける。確かに、そこは私も知りたいと思っていた。それほどの名声がありながらなぜ、その若さで引退したのだろうかと‥‥‥




「———一度の敗北は人の人生を大きく左右する。私の成すべき事がその敗北をきっかけに変わり、そして心より忠誠を誓える存在に出会えた」




その言葉の数々は彼女の思いが深く読み取れる。彼女の敗北とは一体何なのか知りたくても今は聞かないでおこう。ただ、彼女からわかるのはその存在を心から慕っていると言うこと、、、



「———その存在はミネルンさんよりもお強いのですか?」


「———ええ、あの方にとって私など地面を走り回る蟻と一緒のような存在でしょう。私の剣など到底届くことはないです」


「———そ、それほどの存在ですか?ミネルンさんを凌ぐその人物とは一体‥‥‥」


「ふふふ、内緒です———さあ、探しましょう」






—————そして私達3人は地下道を歩き、敵を薙ぎ倒しながら進んでいく。すると、地下道に扉のようなものが設置されており、恐る恐る近づくと、、、



「———血の匂い」



大量の血の匂いが扉から放たれ、何人もの死体が殺されたのだとその時の私は思った。


勢い任せで扉を思い切り蹴り飛ばして、淡く明るい部屋の中を伺うと、そこにいた人物に目を見開いて絶句した。



鎖に縛られ、全身あざだらけ、腕や足が明後日の方向へと曲がり、手や足の指が斬り落とされて、床に血の池を作る。


一瞬、誰だか分からなかったが、私の目はその黒髪に当てられた



「———レ、レオンなのか‥‥‥?」


「———レベッカ‥‥‥先輩‥‥‥」


「———!?レオン!!お、お前っ‥‥‥っ」



あまりにも残酷で酷く、目も当てられない体をしているレオンに私はかける言葉が思い浮かばなかった‥‥‥



「———ア、アントニ!?」



そしてミネルンさんも入ってきてもう1人の人物へと寄り添っていた


私は足が竦んでレオンの方へと近寄れずにいた‥‥‥一体どう言葉をかけていいのか‥‥‥どう接すればいいのか‥‥‥今のこの荒ぶる感情を制御するのに精一杯で‥‥‥


けど、目の前のレオンの姿を見ているだけで私の胸は弾けそうになる



唇を噛み締めて、ゆっくりとレオンの方へと歩き、椅子に縛られているレオンと同じ視線まで膝を曲げる。



そしてゆっくりとレオンの頭に腕を回して、私の胸に優しく包み込む、




「————もう大丈夫だレオン‥‥‥もう痛い思いをしなくて済む。このままゆっくりと休め‥‥‥」



「————いい匂い‥‥‥ですね‥‥‥レベッカ先輩は‥‥‥」



「馬鹿‥‥‥」





そして強く、強く、レオンの頭を胸に押し付けていくのだった

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