月下香幹部五絢 闇に集う
————ここは森林演習場。広大な森林が埋め尽くす緑の土地。
しかし、その緑が生い茂る土地は戦場へと変わっていた
1年Sクラス対1年Aクラスの試合中、突如姿を現した月下香と名乗る者達の襲撃。
試合のせいでAクラスの数名がダウンしている中での襲撃はタイミングが悪く、守りながら戦う羽目になる‥‥‥はずだった
「———ハハハハ!!やっちまえ!!」
数名の若い学生が刀剣を握りしめ、襲撃者と対峙する刹那のこと
ある1人の若い学生の怒りに触れた月下香の襲撃者等はこの時点ではまだ気づいていなかった———————
それは若い学生に負けるはずがないという慢心、
自分達が剣を向けている相手は誰なのかということ、
月下香と名乗るということはそれ相応の報いがあるということを、
そして、本物の月下香NO1の怒りに触れたということをまだ知らなかった、
「———氷界」
その言葉が彼女から発せられた刹那、世界は凍てつく氷へと帰る
「———なっ!?何だこれは?!」
彼女が右手を前に晒し、敵に向かって放った言葉
「———うっ!い、息が‥‥‥!」
「———かっ体が凍ってゆく?!」
それは白い冷気を周囲に放ち、敵を大地を、木々を凍らせてゆく
彼女を中心に広がる凍てつく世界。次第に広大な森林の半分を覆い尽くす程の魔法
そんな彼女の魔法を間近で見ていた同級生、そして特待生等は驚愕と畏怖の念を抱くのだった、、、
「————ファシーノその魔法は何?」
———私は、目の前で繰り広げられた信じられない事態に困惑し、目の前の‥‥‥畏怖すら抱くファシーノに話しかける。
だって、あんな魔法を保有しておきながら特待生ではなく、一般のクラス。そして今までこんな魔法の天才が表に現れず、なんの情報もなかった‥‥‥
周囲を見渡せば、先程の威勢の良かった月下香の彼らが一瞬で氷漬けにされている惨状‥‥‥その表情一つ一つに彼らの絶望、恐怖、もがいた痕跡が伝わってくる。
「———私、今とても悲しくて、とても苛立っているの。さっさと次へ行きましょう」
ファシーノの言葉はとても冷たく、心の底から果てしない怒りの感情を感じる‥‥‥
それ程に月下香が憎いのね?ファシーノ‥‥‥
一体貴方が月下香にどれ程の仕打ちをされたのか私は知らない
貴方が憎む月下香は、先程のような品の無い奴らとは少し違う、
私が知っている月下香は先程の奴らとは違う。もしかしたらあれが本来の月下香なのかも知れないけど、今はまだ信じたい‥‥‥
私を救ってくれた彼らを、世界の大罪人だとしても今はまだ‥‥‥
「———そうね、ファシーノの言う通り。一刻も早く会場へ向かいましょう」
◊◊◊
「———負傷者を直ちに地下に集めろ!我ら軍は奴らを、月下香を1人残らず始末しろ」
「「「———はっ」」」
———ここは対抗戦会場の監視室。そこでは人族軍総司令パエーゼ・プレチーゾが指揮を取り、今回出席した重要人物達はモニターに映し出される悲惨な光景を目に絶句する。
「———なんて酷い光景でしょう‥‥‥あの月下香が襲撃を企てるとは、やはり世界の大罪人と言うこと」
大神官のアメリは心を痛め、胸を強く握りしめる。憐れみと、悲しみで涙を流す大神官アメリを横で見ている人族の王ビアンカは、そんな大神官アメリの肩に手を乗せる。
そして、モニターの一部始終を見ていたもう1人の出席者はその瞳に強い憎悪を宿らせていた、、、
「———許さない」
そんな言葉が監視室の一角で漏れ出す。その言葉を聞き取ってしまった人族軍総司令パエーゼは背中に悪寒を走らせる。
恐怖、憎しみ、恨み、の負の感情が背中に突き刺さる。
一国の総司令が恐怖する程の殺気が、ある1人から放たれていることにまだ気づいていなかった、、、
(この殺気は一体‥‥‥)
「———総司令!闘技台の上部に怪しい人物が!」
そんな時、監視室のモニターに映し出された不気味な人物を目にする。
黒い服を纏い、たった1人で闘技台の上に降り立つ族。
そんな族の1人は闘技台の上でこう宣言した。
「———早く出てこい選ばれし者。さすればこれ以上は被害を出さずに済む。我が兵を下がらせよう」
「———罠です総司令」
監視室では罠と疑う。だが、被害を考えればここは罠であろうとその言葉に乗るしかできない。
「———いいや、罠に乗ろう。ここを頼みましたエリー殿」
「———まさか、貴方にそう言われてしまうとは光栄ですわ総司令」
そして私は1人、監視室をでて、闘技台へと足を運んだ
「———おい、あれって」
「———ああ、間違いないっ!」
「———総司令が遂に舞い降りた!」
と会場が騒めき出す。
私が闘技台へと着いた頃には、戦闘は無くなり、珍しいものを見るかのように兵達は闘技台へと視線を固定していた。
「———約束は守ってくれたらしいな。月下香」
「———ああ、出て来てくれると信じていた。そして、貴様を屠れば私はもう一度返り咲くのだ」
「———私を屠るだと?舐められたものだ。この私を屠る事など到底出来ぬとその身を持って知るがいい月下香」
◊◊◊
「———クソっ!この鎖どうなっている!?触れると魔力が消える?!」
「———レベッカ早く!追ってが!」
「———わかっている!だが、レオンに枷られた鎖が斬れない!ああもう!このまま運ぶ!」
ここは海底監獄へ続く裏の道、地下道。その地下道の一角では数人が今まさに、崩れ落ちる瀬戸際に立たされていた、、、
「———アントニ!早く出るわよ!」
「———ははは。まさか助けが来るなんて思わなかったな。一体どういう風の吹き回しかな?」
アントニと呼ばれるレオンの隣の男。彼もレオンと一緒に捕まっていたのだろう。ミネルンさんの友人とは彼の事か‥‥‥
「ミネルンさん!早く行きましょう!この地下道が崩れ落ちます!」
「ええ!アントニ!走るわよ!」
そして私達5人は地下道を脱出するため、出口へと向かう。迷路のような地下道を抜けるためには、先程通ってきた道を戻るしかない‥‥‥
しかし、通ってきた道から追っ手の足音が聞こえてくる。ここはもう引き下がる訳にはいかない‥‥‥
レオンの状態も最悪だ。このままでは本当に‥‥‥
「ミネルンさん!前から来ます!」
「「———!?」」
ヴァレンがそう放った言葉の瞬間、一本の刀剣が私の頬を掠めた。
「———ちっ。外したかよ。まあ、いいか。お前達はここで死んでもらうからな」
と言い放つ男。右腕を前に出していた事から、この男が刀剣を私に向けて投げた。
凄まじい、速さで迫った刀剣に反応ができなかった‥‥‥
外したのではなく、わざと外した‥‥‥
「———あ、そうそう。俺達は“月下香”。巷じゃあ有名な悪の組織だ」
「「「———!?」」」
私達の目の前で月下香と名乗る男。その顔は傷だらけで、醜く品性のかけらも無い男。そんな男から発せられた言葉は私達を驚かせるのに十分だった。
私の中の怒りが爆発しそうになる。あの月下香がレオンを攫い、このような姿に変えた根源‥‥‥憎き後輩の仇‥‥‥!
「———レベッカさん!冷静に!」
ミネルンさんの言葉は私を止めるに至らず、私は男目掛けて、刀を振り下ろす。
それも私の全て、全力の刀を‥‥‥!
「———解放‥‥‥桜月!」
「———はっはっは!!いい女だな!その生きの強さ!気に入ったぜ!」
そして解放した刀を振り下ろす‥‥‥
私の全力の一太刀‥‥‥
「———え?」
訳が分からなかった
「———いい女だ」
男の口から発せられた言葉が耳に残る。
私の全力の一太刀、解放した桜月の一太刀
そんな私の愛刀はなんら変化も見せずに、ただの刀のままだった
「———な、なぜレベッカの解放が?!」
後方のヴァレンですら驚いている。本人の私が1番の驚きで、理解できなかった。
「———なぜ、と言う顔をしているな?今、この領域は魔力、魔法を行使できない。この魔道具のおかげでな。だが、俺達は魔法も魔力も使える、こんな風に‥‥‥‥!」
男の言葉は嘘を言っていなかった‥‥‥先程の解放で魔法も魔力も使えない事が証明された。それに‥‥‥今、私の瞳は信じられないものを見ている
「———なっ何だと?!そんな筈が‥‥‥!」
「———う、そ‥‥‥」
後方のミネルンさんとヴァレンが驚愕するのも無理はない、
何故なら男が放出している禍々しい“それは”世界でこう呼ばれている
「「「———
「———なぜ、貴様がその魔力を‥‥‥一体どう言う事だ」
この迷路のような地下道を埋め尽くす
「———はっはっは!先程までの威勢はどうした女?そんなに
「ミ、ミネルンさん!レベッカが!?」
「魔法も魔力も使えず、剣のみ‥‥‥
そして、振り下ろされた剣はレベッカの肩から腰にかけて一線の剣筋が辿る。
大量の血が地下道に飛び散り、背中から倒れたレベッカ
「———レっレベッカ!!!」
地面に倒れたレベッカの元まで走り傷口を見るヴァレンチーナ。その表情は絶望と、涙で溢れる。
「———いいねぇいいねぇ。仲間を思うその心。本当に羨ましいよ。俺にそんな感情ないからさ。しかし、いい女だけに惜しかったな」
「———っこの無礼も‥‥‥‥!」
ヴァレンチーナが男に剣を向け、斬りかかろうとした間際、咄嗟に男の剣を受け止めたミネルン。魔法も魔力もない彼女が
「———ここは任せなさい!早くその子達を連れて逃げなさい!」
「———!?」
その言葉を聞いた瞬間、ヴァレンチーナはレベッカとレオンを連れて、後方へと走り出す。ミネルンを置いていく罪悪感は消える事なく、しかし、自分たちでは決して敵うことのない敵を前にして逃げることしかできない。
そんな悔しさと己の弱さを噛み締めながら、2人を担いで逃げる。
「———ハァハァ!レベッカ、レオン君!必ず、必ず!」
私は全力で逃げた。迷路のような地下道をただひたすらに逃げ続けた。
ミネルンさんが、あの男と対峙している。勝ち目のない戦いを、私達を逃すために命を犠牲にして‥‥‥私は逃げて生き延びなければならない!
ミネルンさんの勇姿を、最後の言葉を胸に刻みながら‥‥‥
————コツコツコツ
「———今度は何?!敵?」
逃げていた前方から複数の足音が近づいてくる。
新手の敵、または、援軍‥‥‥
後者の希望を持ちながら臨戦態勢に入る
姿が見える位置にまできた黒い服を纏う者達。それを見た私の願いは崩れ落ちた
「———私達は月下香」
その言葉を聞いた途端、私の戦意は失いかけた。しかし、死ぬのならせめて一矢報いてみせる!
「————ハァあああああ!!!!」
剣を抜いて、目の前の3人目掛けて突進し‥‥‥‥
「———カハァ」
私の視界はそこで消えるのだった
◊◊◊
「———ミネルバとアントニがこの先にいる」
「———それに可視化できる魔力(ヴィズアリタ)を持つ者」
「———苦戦を強いられるわね‥‥‥‥ん?」
「———どうしたのハリア?」
「———この子達。随分と酷い傷を追っているわトラヌス」
「———そうね男性は‥‥‥もう体がぐちゃぐちゃね、可哀想に。それに鎖までされて。女性の方は肩から腰にかけての深い斬り傷‥‥‥ハリアさっきの鍵って」
「———ええ、もしかすると彼の鎖の鍵ね。とってあげましょう‥‥‥若いのにこれはもう障害が残るわね‥‥‥リベラ、彼女に回復魔法を」
「———了解」
————黒い服を纏う3人はその後、前方の荒ぶる
「———ミネルバ!加勢しにきたわ!ハリア!アントニの鎖を!」
「———ありがとう、ようやく自由になれる」
そして揃う、5人のメンツ。その姿を見た
「———はっはっは!俺は月下香!何人増えたとこで同じことだ!この力があれば俺はまた、あのお方のおそばにいられるのだ!」
「「「「「———は?」」」」」
男のその言葉を聞いた瞬間、5人の表情が変わる。ミネルバと呼ばれた女性は先程まで1人で戦闘していたダメージで衣服はボロボロ。息は荒く、擦り傷が全身をなぞる。それでも、今の発言を聞いた途端、瞳の奥に力が宿る。
「———私達の前でよく言えたものね」
ミネルバの言葉に続き、他の4人も言葉を並べてゆく
「———一体誰が何ですって?」
「———その言葉を語る資格があると?」
「———その罪の重さは計り知れない」
「———我らの、あのお方を侮辱する行為」
その言葉一つ一つに重みが増し、その鋭い眼光に男は後ずさる
「———我ら“
「———
男は沸り、歓喜する。そんな男を見下して、彼女達は語り出す
「———
「———同じく
「———NO8のハリア」
「———NO9のアントニ」
「———NO10リベラ。私達の前でその言葉を使った愚かさを地獄の底で悔いなさい」
「———幹部だと!!これは最高のショーだ!!5人だろーがこの力の前では無意味と知れ!!」
————そして、暗闇の中動く1人の少年。
体はグチャグチャで、片足、片腕、指の数本をなくしている少年。
そんな少年は鎖が解けた事を確認し、目を開ける。
「———あいつらが来たか‥‥‥だが、魔法も魔力も未だ使えない」
激痛が全身を襲い、痛みだけで精神がおかしくなりそうだな。
片腕、片足、そして指の数本が斬られている‥‥‥あの男よくもここまでやってくれたな
グーパーできないじゃないか
「———はあ、魔力も魔法も使えないなんてな。そういえば先程の男は魔道具でそういう領域を作ってると言っていたな。誰か壊してくれれば、回復もできるのだが‥‥」
それに‥‥‥
「———レベッカ先輩‥‥‥この傷は俺の為、だろうか?やはり貴方は優しい」
この傷はあいつらが回復したのだろうがやはり、傷の跡は残ってしまっている。
魔法が使えれば綺麗にできるのだが、今はできない‥‥‥出血も止まっている
ヴァレンチーナ先輩は峰打ちをくらったのだろうか‥‥‥息は安定している。
俺の方はというと‥‥‥うん。仕方ないな
「———ふっ!くっぅ‥‥‥ぅぃってえな‥‥‥はぁ‥‥‥ぅっぐっ!」
激痛が全身を襲う中、残った片足で何とか立ち上がった。向かう先は魔力が荒れ狂う前方。
片足と片腕を使い、壁を頼りに歩もうとした時、
「レ‥‥オ‥‥ン‥‥‥」
レベッカ先輩から漏れた声。それは無意識の声なのか、夢にうなされているのか。俺は後ろを振り向いて、こう伝える
「———貴方の仇を取ってきますよ。休んでいてください」
「———そ‥‥‥うかぁ」
そして俺は進む。名を語り、俺に対してのこの仕打ち、そして大事なレベッカ先輩に対しての罪。それら全てを償ってもらおう。
「———偽物の月下香。俺をあまりイラつかせるなよ」
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