Sクラスの英雄様と勝負だって!?
———してガイ=ヴァンピールが学園に戻って来てから数日
新学期も始まり、風の匂いや蒸し蒸しする暑さが襲う。
しかし、学園では大規模魔法で常に温度が一定に保たれているので、それほど支障はない
いつもの学園生活が戻って来たのかと思えば、今の状況は非常によろしくない‥‥
それもあの男が原因なのだ‥‥
「———レオン様。是非、私をお側に‥‥っ!」
「ええい!しつこいな!気持ちが悪いぞ!」
と俺の名前を呼び、あろう事か“様”を付けてくる本人
「この私を下僕にして下さいっ!」
Aクラスのみんなが注目する中で、跪くこの男‥‥
———ガイ=ヴァンピール
ここ数日ずっとこの調子で俺に絡んでくる。はっきり言って気持ち悪い‥‥
前のガイを知っている者なら尚更、意味がわからないだろう‥‥
それもこれも夏季休暇に入る前のあの“決闘”で変わってしまったのだから
1年生全員が観客になったあの決闘は今では話題になるほど人気だ
たった二人が何十人も薙ぎ倒していく、爽快で痛快な決闘
そして7つの大罪と恐れられている魔族の御子息を無名の学生が倒した衝撃は学園中に広まる事になった。
そのおかげで、ある意味人気者になってしまうし、レベッカ先輩に目を付けられるしと‥‥俺の学園での平凡な生活が徐々に方向を曲げていっている‥‥‥
ここで今一度修正して目立たないようにしなくては!
———そう!これをきっかけにな!
「———何を考えているレオン?今は勝負の最中だぞっ!———」
「———ああ、すまないワルドスっ!」
俺たちはただいま絶賛勝負中だ。ワルドスの剣技それはそれは物凄い‥‥
剣が重なる度にどこかしらの衣服が斬れてしまう程に‥‥そして一太刀、二太刀と剣捌きが数段ましていく
同級生でここまで強く、重い剣は初めてだ‥‥ひょっとしたアザレアよりも上なんじゃないか?
「———どうしたレオンっ。本気を出せっ!」
「———こっちはもう本気だワルドスっ」
この野郎‥‥‥本気を出せだと‥‥?
お前冗談抜きで強いわ!俺はな‥‥今色々と必死なんだよ!!
「———そうか‥‥それじゃあ本気を出させてやる!」
———
本気と言っているのにこいつは‥‥‥!話を聞いていないのか?!このバカドス!!
なに氷の剣を出してるんだよ‥‥それも何本も空中で浮遊させて‥‥それで初級魔法ってのが笑えるな‥‥魔力の高い奴は初級魔法すら凄みが増すのか‥‥?
「———血くらいでても後で幾らでも治せるぞ!レオン!」
「———多い!ちょっとまてっ!」
———なぜ、俺は今Sクラスのワルドスと勝負しているのか?
それはこっちが聞きたいないようだ
俺はいつも通りに講義を受けて、『よし今日も寮に帰ってそのあとはテキトーに都市をぶらつこう!』と思っていたのに何故か‥‥何故かワルドス達Sクラスの連中がAクラスに来やがった‥‥
なんでも対抗戦に向けて互いに高め合わないか?なんてくるもんだからAクラスのみんなはまんまとワルドスの策略にハマってしまった‥‥
そして絶対に来ると思っていた‥‥
『———レオン!お前と一戦交えたい!』
こっちからしたらふざけるな、と言ってやりたかった‥‥
けどAクラスのみんなは目を輝かせて、俺の返事を待たずに演習場へと猛スピードで駆けていった。ワルドス、そしてアザレア達のニヤついた顔が無性に腹がった
ならばっ!こちらも平穏の学園生活を謳歌するため、俺も利用させてもらうぞ!!
———と今に至ったわけだが‥‥さてどうやって“負けようか”
あの氷剣は非常に厄介だ。だが、あれを利用すればわざと負けたことがバレずに済む‥‥
「———いくぞレオンっ!」
「———ああ来い!」
———刹那、ワルドスの体が消え、代わりに氷剣が俺の左右から押し寄せる
ワルドスの姿が見えない中で、左右の氷剣をいなすのは危険だ。どこから現れるかわからない以上、隙を見せられない
(仕方ない‥‥避けるか‥‥)
俺は左右から押し寄せる氷剣を体の柔軟性を生かして避ける
しかし、今度はワルドス本体が視線の下からその剣を振り上げる
「———く!」
澄んでのとこで避け斬れたが、頬に一線の斬り傷が刻まれた
その後は、ワルドスの猛攻が続く
氷剣を自在に操ってまるで腕が何本もあるのかと思う剣技、そして凄まじく重い剣。俺は受け切るだけで精一杯だった‥‥
後ろへとどんどん追いやられ‥‥‥
————キィィィイン!!!
と最終的に俺の剣が宙を舞ったと同時に、俺の首元に剣を突き出す
「———勝負有りだなレオン」
「ああ、完敗だ。さすが英雄様だ‥‥‥」
そしてこの勝負を見ていたAクラスのみんなは興奮していたのか、それぞれ歓声をあげていた。
「あのレオン君を負かしちゃうなんてやっぱりSクラスは凄い!」
「ええ、さすが英雄様ね!憧れちゃうわぁ〜!」
「レオンも頑張ったけど、やっぱりと英雄には無理だったな」
「ああ、格が違いすぎるぜ」
とAクラスでの俺の評価はSクラスには勝てないけれど、まあまあ戦える程度になった。あわよくば良い試合になるなどと思っていた者も少なくないがこれが現実だ
俺の評価はこれくらいでいい。Sクラスに勝てないのが当たり前なのだから
「———いい勝負だった。ありがとうレオン」
「———いい勝負?どこがだよ‥‥一方的じゃないか」
とワルドスと握手しながら微笑む。この笑顔も多少引き攣っているが、ワルドスには気づけないだろう‥‥
とそこへ続々とAクラスの女子たちが俺たち‥‥ではなくワルドスの方へと集まり出した
「ワルドス様ぁ!すごくかっこよかったです!」
「さすがは英雄様です!今度一緒にどうですか?」
「キャア—!」「わぁ—!」
と大盛り上がりな女子たち。数日前までレオン様などと言っていた女子達はワルドスの強さとそのイケメンに心奪われた様だ。
その光景を遠くで眺める俺。負け犬にはお似合いの眺めだ‥‥
ふふふ‥‥‥これでいい。これで変に目立たなくて済むからな
————イテっ
と俺は頭を優しく叩かれた。後ろを振り返るとそこにはファシーノが腕を組んで立っていた
「———一方的にやられたわね。これが貴方の望むこと?」
意味深に聞いてくるファシーノ。その瞳は少し悲しそうに俺を見つていた
「———ああ、これでいい。目立つのはゴメンだからな。ファシーノも混ざりに行っていいぞ」
「———はあ?私がいくわけないでしょ。彼らとは“歩む道”が違うのだから」
そうだな‥‥俺たちとワルドス達の進む道は違う。一生混ざる事のない反対の道
こうして遠くの端から彼らの明るい世界を見るのはいつでも気分が良い
俺達の裏の顔を、裏の醜い世界を知らない彼女達
あの笑顔を見れるだけで、俺は十分なんだ‥‥‥
そう彼らを見つめていると、後ろにいるファシーノが不意にこんなことを言い出した
「———それに貴方がどんなに負け恥を晒そうと、どんなに嫌われようと私は貴方の傍に居続けるわ」
「———そうか‥‥それは嬉しいね」
俺はその言葉に少しだけ胸が軽くなったような気がした。俺の正体を知り、友人達が俺を見捨て、憎まれてもたった数人‥‥‥いいや一人だけでも俺の傍にいてくれる仲間がいれば俺はそれでいい‥‥
それだけで‥‥‥世界から恨まれようと、憎き悪者と罵られようと俺は俺の成すことを諦めずに済むのだから‥‥
目の前で友人が女子達に囲まれてあたふたする平和な光景。これをずっと見れるのなら俺はこの憎まれるポジションに居続けよう‥‥‥
————これが俺の選んだ道なのだから
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます