待人
「———一生この身を持って尽くしますっ」
「俺も貴方様からの最大の慈悲を無駄にしませんっ。今後貴方様のために戦いましょうっ」
「私のこの命は死んだも同然。新たな生を承り、貴方様の影を支えましょうっ!」
「俺も‥‥‥‥」 「私も‥‥‥‥」
各々覚悟を決め、その表情は生まれ変わったかのように輝いている。
そしてよく見ると女性が大半を占めていた。これもマイアーレの仕業だろうことはすぐに理解できた、
「だが、お前達がこれまで犯した罪は消えない、その罪と一生向き合い苦しみ続けろ。そして罪を犯した以上に善良を重ねろ。いいなっ!?」
「「「———はっ!」」」
総勢50と数名がまるで軍人のように一糸乱れぬ動作で跪く光景はなかなか悪くない感じだ。
これは良い
「さて、マイアーレお前はまだやることがあるだろう?」
「‥‥‥え?」
俺は跪いているマイアーレをデリカートが背負うエリーの前に移動させる
無論、首元を鷲掴みにし無理やりだ
エリーの前に移動されたマイアーレは居心地が悪そうに無言を貫く。しかしエリーの方から先陣を切った
「———私は貴方にとても恨みがあります。私の父親を殺し商会を乗っ取ったその罪。今すぐにでも貴方を殺したいっ‥‥‥でも、それをしてしまっては貴方と同じになってしまう。私は貴方と違う、決して貴方のようにはなりませんっ。貴方はその罪を永遠に地獄でも背負い苦しみ続けてください。私からはそれだけです‥‥‥」
エリーの言葉は怒りや憎しみが含まれマイアーレを睨み殺す。そんなエリーに殺されるのを覚悟していたマイアーレはエリーの予想だにしない言葉に目をパチパチと何度も開き、面食らっている
エリーが言うのならそれで良いのだろう。しかし、俺はどうも納得できない‥‥このまま何も罰せずなど許せる筈がなかった
「———おい、マイアーレ」
「‥‥?なんですかな————へぼぉおおっ?!!」
俺はマイアーレの顔を思いっきり殴り飛ばしてやった。地面を跳ね飛び屋敷の壁まで飛んで行った。壁にぶつかるとそのまま倒れ意識を失い白目を向ける
なんともだらしない姿だ
雷の様な音が響いた時エリーはと言うと、とても満足そうな表情をしていた
「ふん主よ、よくやった。それでこそ我の主よ」
「当たり前だ。俺を誰だと思っている」
マイアーレを殴り飛ばした俺はとてもすっきりしている。殴ったときのあの感覚はもう忘れる事はないだろう
「それより主よ。あれはどうするのだ?」
ヴァルネラが指差した方向に目を向ける。そこには黒い壁が未だに存在していた
黒い魔力が靄のように、しかしはっきりとその存在が認識できる壁
「そうだったな、忘れていた」
俺は黒い壁に向けて歩き出し、手を伸ばす
すると黒い壁は散乱し一種の川の様に俺の手に吸収されていった、
「———なっ!あの莫大なまでの魔力の壁が一瞬で消えただと!?貴様のその魔力は一体どこから存在しているというのだっ!」
「あり得ません‥‥これは‥‥こんなのは‥‥逸脱しています‥‥」
何度も驚愕している親子を横目に無視し、俺は仲間の下へと歩み出す。エリーは無事奪還した訳だ。この後は一度娼館に戻った方がいいな。ついでに後ろにいる新たな配下達をどうするかだ、
「まずは一度娼館に戻るぞ」
俺は転移魔法を発動する。どうするか悩んだが一応配下達も連れて行くため、巨大な魔法陣を足元に展開させた
そして眩い光と共に消えた————
◊◊◊
———時刻は深夜3時を回る。レオンがエリーを追ってから3時間は経つ頃、場面は最高級娼館の一階ロビーに変わる
深夜3時というのはいつもならどこも店を開けている時間帯。それなのに今日はどこも店を閉めていた
妖艶な明るさと甘い香りが一切しない娼婦街。いつも利用していた男達にとっては不思議な夜を体験する
誰も人が、娼婦が見当たらない娼婦街。しかしそれには理由があった。娼婦達にしか知らない大切な理由が‥‥‥
———現在娼婦街に散らばっていた娼婦は大半がここ最高級娼館に集まっていた
総勢1000名弱。その数を余裕で収まりきれるほどにこの娼館は広い
緊迫する空気の中、娼婦達は静寂にただ待っていた。願わくば大切な人の帰りを
———そして時が訪れる
「——な、何?!」
「——光が急にっ!」
「——えっちょ、眩しいっ!」
急に床が輝き出し、混乱する娼婦達。光と共に魔法陣が浮かび上がり、光が一層強みを増した瞬間、その魔法陣から人が現れる
50人弱の人が突如娼館に出現し娼婦達はパニックを起こす。慌てふためく中リリーがある人物を見つけ声に出すと娼婦達は一斉に顔を振り向いた
「——っ!エリー!!無事だったか‥‥よく帰ってきた!」
「——っ!お姉様ぁぁあ!!」
「あ、姉御ぉぉぉ!!」
「ねえ、さん‥‥よかった‥‥本当に戻ってきた‥‥戻ってきたよ‥‥」
エリーを見つけると猛ダッシュで詰めてくる娼婦達。今のエリーはデリカートに背負われているのでデリカート目掛けて詰め寄るが、デリカートはあたふたし驚いていた
そんなデリカートを見かねたエリーは自ら降り、自分の足で立つと彼女達に精一杯の笑顔を作り、最高の雫のような涙を共に分かち合う
‥‥‥感動の再会だ。俺の心もウルッと来る。しかしここで涙を見せないのが男。自分よ我慢しろ、ここが正念場だ。決して、決して仮面で顔が見えないからと言って涙を流すなよ
がんばれ俺
「待っていてくれてありがとう‥‥みんな、そしてリリー。もう私は大丈夫よ。彼らが全部片付けてくれたから」
離れている所から眺めている俺たちはとてもじゃないがあの中には入れそうになかった。一人の姉を慕う大勢の妹達を見ているそんな気分を味わう。デリカートなんてもらい泣きよりも号泣している。
仮面をしているのにわかってしまう。涙脆いもここまでくれば一種の特技なのだろうかと思ってしまう
「——っ!エリー、なぜあの者がここにおるっ?!」
リリーが叫ぶ理由は見当が付く。マイアーレも一緒に連れ来たことだろう。全員が鬼の形相になり睨みつける
ここは俺が説明するしかないと思い歩み出そうとした時、先にエリーが口を開いてくれた
「この人はもういいの。この人の罪は決して許されない、それでも私は生かした。殺してしまえばこの人と同じになってしまうから。私の父を殺し商会を奪い人生を壊した憎い人だけど、今はもう恨むよりも‥‥‥もっと、大切な想いができたから‥‥っ」
「‥‥エリー」
「‥‥お姉さま」
「‥‥姉さん」
「‥‥姉御」
そんなエリーの心境を察してか彼女達は全員黙り込んでしまう。彼女達は気付いてしまったのだろう
あのエリーが‥‥‥全ての男達を惑わせてきたあのエリーが‥‥‥
”恋”をしている
「———悪いが、俺たち全員を匿ってくれないか?現在軍に追われている身でね」
俺は静かになった瞬間にリリーに尋ねてみる。今頃軍は屋敷の後始末で手を焼いている頃だろう。今のうちに身を隠して起きたかった
「ええ、構いません。その人数ですと大広間の方へ。あなた方は個室を使って下さい」
「ありがとう、助かる。それと、今日は少し疲れた。正午に話を付けよう」
「‥‥はい」
エリーに目線を向け話を付ける。そんなエリーは物寂しそうな視線を背にリリーに先導されながら大広間を目指す
「ねえ?どうするつもり?」
ファシーノが覗き込みながら聞いてくる。きっとエリーの今後についてだろう、もちろん考えている
「安心しろ。いい考えがある」
「なんだか少し楽しそうねっ」
「ああ、正午から忙しくなるぞ」
「ふふっ わかったわ」
「‥‥主の考えている事は妾でも分かるぞ」
「私もなんとなくわかります!」
ファシーノもデリカートもヴァルネラも随分と楽しそうじゃないか。
もう色々と察しているのだろう‥‥全く女性の勘とは凄まじい限りだ‥‥
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