会談


———そして正午、会談の時刻


しっかりと睡眠をとり、意識を覚醒させた俺たちは大広間から会談室へと足を運ぶ。俺たちのメンバーとしてはファシーノ、デリカート、ヴァルネラ、そしてマイアーレの5人だ


「———いいか?マイアーレお前は屍人と同じだ」


「は、ははぁ!私目は屍人です!」


「それでいい」


気合いを入れ直し扉の前まで来たらゆっくりとその扉を開く。そこには数刻前にいた女性達全員が華やかな衣装を身に纏っている。


俺たちはもちろん仮面にローブ姿だ


俺の為の椅子が一つ空いているのでそこへ腰を据える、


「———まずは集まってくれて感謝する」


「———いいえ。感謝をするのはこちらの方です。そして説明を‥‥‥」


俺はエリーにだけではなく彼女達全員に視線を配る。彼女達は互いに頷き、そして最後にエリーを見る


「‥‥‥ここに居合わせる彼女達、全員が娼館を営む代表です」


「そうか。では、本題に入ろう‥‥‥まずこのマイアーレが屋敷も財産も商会も全てをエリーにやると言っているがどうする?」


そしてこれは彼女の意向が左右する重要な場面‥‥‥


「それはとても嬉しい事です。ですが、私は”花魁”とまで呼ばれた娼婦。今更表に顔を晒すなど誰が許しますか‥‥‥」


エリーは未だに渋っている。やっと手が届くところまで来たのにその手を引っ込めてしまう。そんなエリーの心境を察してか彼女達は一斉に声をあげた


「———エリー!あんたの夢だったじゃないか?!何をそんなに渋っている!花魁がいなくなるのは確かに大きいがそんなの私らでどうにでもできる!私らはエリーに救われたんだ、もう充分すぎるほど救われたしエリーは働いたよ!だからもう責任なんか感じるんじゃない!エリーがどこへ行こうがどこで生きようが私らの姉はあんた一人だけだよ!」


「お姉さま!素直になって下さい!お姉さまがいなくなってもやっていけます!」


「そうだぜ姉御!何を渋っている!いつもの姉御はもっとカッコ良かったぜ!」


「姉さんがいなくなるのは悲しいです。でもされ以上に姉さんの喜ぶ姿を見たいのです!」


次々に上がる言葉の数々。どれほど慕われてきたかを明白に見て取れる光景

この娼婦街全てが彼女の妹と言ってもいいだろう。妹が姉の幸せを願うのは至極当然のこと、


「‥‥‥私は幸せになっていもいいんでしょうか。この身はもう汚れたというのにっ‥‥‥」


「———エリーは汚れてなどいない。心は未だ綺麗なままだ!体を汚されようが心は気高く美しくあれって言ったのはエリー、あんたさっ。その言葉を糧に今まで私らは生き抜いてきたんだ!自分の言葉を信じな!馬鹿姉っ!」


「———っ!そ、そうだったわね。ありがとうリリー‥‥‥こんな立派な妹達に囲まれて私は幸せだったわっ。でも、ごめんなさい。私は心に決めたの、商会や夢よりも大事な気持ちが芽生えたっ‥‥私は彼について行くわっ」


涙ながらに語るエリーを見ていて根性の別れのように見えてしまった

リリー達もエリーを説得したにも関わらず俺についてくると?


商会や夢よりも俺にか?おいおい、何を言っているんだ。そんな夢を諦めさせるほど俺はできていない‥‥‥


「———何を言っているんだ?」


「「「——え?」」」


俺は”全て”を叶えてやろう。だから俺はエリーに向かって『何を言っているんだ?』と言った


そんな俺の言葉を聞いてキョトンとするエリー 

周りの娼婦達からヤジが浴びせられるが、それでも俺は口を動かした


「俺についてくる?そんなの当たり前だろう?嫌でも連れていくさ、なあ?」


「ええ、もちろんよ」


「主が仰るなら我は従う」


「お仲間が増えるのは嬉しいです!」


「———それに、今生の別れ見たくなっているがそうはさせないぞエリー。君には俺たちへの資金提供をしてほしい。商会を継いでな。もちろん行動するときは俺たちと一緒だ。それ以外は商会の新しい主になってくれ。そして商会を世界へと展開させるんだ」


そう、これが目的だ。俺たちは元々資金不足でこの国へと来たのだから目的をしっかりと達成しなくてはな。それに仲間も配下も増えた。新たな拠点や装備、情報などが必要になってくる。彼女達は大事な姉を失わずに済む、俺たちは動きやすくなる


ウィンウィンの関係だ


「そして、君の戦闘能力を買ってのことだ。大いに期待している」


俺の語り始めた案を誰も止めずにただ皆が聞いていた。


リリーも娼婦達もそしてファシーノたちも‥‥‥



「やっと‥‥やっと‥‥自由に慣れるのですね‥‥夢まで叶うなんてっ‥‥」



涙ながらに語る彼女の人生は計り知れない。幾度となく権力者に扱われ、差し伸べられた手を幾度となく振り解き、甘い言葉を何度も断り、自らを売りこんできた彼女。それでも必死に彼女は抗い続けてきた



「———俺達も皆が訳ありだ。その傷を少しでも癒すことができるかは分からないが、そばにいる事はできる」



———自由への道筋を探し求め、ようやく巡り逢えた一筋の存在

エリーは今度こそ差し伸ばされた手を強く握り締めると心に決める、


「本当に‥‥ありがとう‥‥ありがとう‥‥ありがとうっ‥‥」


何度も同じ言葉を連呼し、泣き崩れてしまうエリー


‥‥‥今まで本当によく頑張ってきたよ、女として生まれた性を死に物狂いで耐えてきたんだ、


「———ところで貴方のお名前は?後、私たちも貴方の傘下に加わっても良いのかしら?」


リリーが俺の名前を訪ねてくるのは良いが、予想しなかったな‥‥‥


まさかエリー以外に仲間に加わりたい者が現れるとは。リリーが言った事で続々と店を持つ娼婦達が手を上げ出し、仲間に加わりたいと言い出したのだ‥‥‥


「エリーだけではなく私らも仲間になって不味い事でもないだろう?」


「姉さんの行く道は私たちの道でもある。ともに行動はできないが支援ぐらいはできる」


「ええ、お姉さまが心配ですから。それに戦う術を私達は欲します」


やはりエリーの人脈は凄まじい物がある。カリスマ性というやつだろうか。エリーのために戦う道を選んだこの人達も相当の覚悟があると見受けられる


「この短期間で大所帯になったわね」


「お仲間がたくさんです!」


「主の意思に従うぞ」


他の3人もどうやら歓迎ムードだ。本当に予想と言うものは信用ならないな。全員が俺の傘下に加わるとなるといよいよ組織として本格化する。これは今後が楽しみでしょうがない


「———俺たちはある組織を壊滅させるために戦っている。そして世界からも狙われる茨の道だ。それでも来ると言うのなら止めはしない」


俺の警告を聞いていた娼婦達

それでも首を縦に振り、自ら茨の道へと歩もうとする


俺はそんな娼婦達の覚悟と責任を持って守ると約束しよう


もう二度と目の前で殺させはしない


「———皆の覚悟しかと受け取った‥‥ようこそ月下香トゥべローザへ。俺の名前はネロ。これは組織として活動する時に使っている。そしてここにいる者だけの他言無用‥‥‥俺は”人族だ」


俺は仮面をゆっくりと外し彼女達に素顔を晒した

素顔を晒すと他の3人も仮面を外していき、その素顔が露わになる


「———黒髪、黒眼。ふふっ私の予想通りまだ少年のようね」


「背格好で大体予想はできたんじゃないか?見ての通り俺はまだ13歳の少年だ」


他の娼婦達も予想していたのか案外驚いていなかった。こちらはすごく驚くと思っていたのに拍子抜けしてしまったぞ。それよりも素顔を晒した事で娼婦達の眼がすごくキラキラしているのは気のせいか? 


「「「———カッコ可愛いぃぃ!!」」」


案の定こうなってしまった。眼をキラキラではなく小動物を見る眼だ。俺とファシーノとデリカートは同い年、3人が揃うと少年少女3人組に見えるだろうな‥‥


ヴァルネラなんて自信満々で仮面を外したのに相手されないなんて悲しいじゃないか、後でヨシヨシして慰めてやろう


「———コホンっそれで今後の事だが。組織も大きくなった事で拠点が必要になる訳だがマイアーレ商会並びに屋敷を改築し、一次拠点にしようと思う。その後は色々とまた話し合おう」


「「「———了解!」」」


こうして正午の会談が終わりを迎えた

新たな組織が誕生した

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