組織結成


———それから一時解散し今後のことは後で伝えるとリリーに伝言しておいた

会談後、俺は貸して貰っている自室に戻り、エリーを呼ぶ。自室にはファシーノとデリカートとヴァルネラもいた


———コンコン


「———失礼します」


扉を開けるだけでその優雅な立ち振る舞いが輝き、アイボリー色の髪と黄金の瞳、褐色の肌は天の恵と思わせる‥‥‥


「よく来てくれた、エリー。一つ聞きたい事があるが良いか?」


「はい、何也とお申し付け下さい」


俺は椅子に座って、跪くエリーを見下ろしている。エリーの髪が重力で肩から下に垂れ、横顔を隠すと彼女の大きな胸が強調されていた。視線が釘付けになるがあえて観ないようにはする‥‥‥


しかし、その体勢は見て下さいと強調しているのが感じられるのだが‥‥まあいい、話を続けよう


「———俺達は名を変えている。それは動き易くするためだ。本名で動けば周りに危険が及ぶ。それを防ぎかつ仮面で素顔を隠し俺達は”裏で動く”」


「‥‥はい」


「そしてエリー、君の名前を少し変えても良いか?」


‥‥‥亡くなった両親から授かった名前はそうそう変える者はいない。エリーも最初は渋るだろうと思っていた。大切な名前だ、変えなければ他の手を考えれば良いと思っていた。しかしその考えは杞憂で終わってしまう


「はいっ!貴方から授かる名前なら何も嫌ではありませんっ!私はもうあなたの物なんですから‥‥」


エリーの言葉からは嘘を微塵も感じない。負の感情も感じない、感じるのは幸福と愛の感情。その瞳に宿す強い眼光は俺の心を射抜いた


「そうか、良かった。エリー、君に新しい名と生を与える」


彼女はこれまでの人生で多くのことを経験してきた。普通の者よりも若くして経験しない事も彼女は経験し、学んできた。そして今日から彼女は生まれ変わる


今後、俺の為に組織の為に仲間の為にその経験を生かし助けてくれるだろう。また商会の主になる彼女には資金面を管理してほしいとも思っている。娼婦街の指揮も担いながら‥‥大変だろうがそこを例の娼婦達が補ってくれるだろう


俺は彼女を信じてその新たな名を呼んだ———



「———エルディート=トレ。それが君の新たな名だ」


「‥‥‥エルディート=トレ。私の新たな名‥‥新しい生‥‥ありがとうございますっ。この身も心も貴方に捧げ、一生尽くす事を誓い、そして常にお側にいる事をお許しください‥‥ネロ様」


跪いている彼女に言われるととても圧巻だな。まるで早朝の冬に輝く、青白く透明な空気の中にいるようだ 


心も体も負の感情が消え去り、新たな感情が芽生えるそんな空気‥‥‥


「歓迎するわ、エルディートさん。私はファシーノ・ウノ人族よ」


「わ、私はデリカート・ドゥエと言いますエルフ族です!エルディート様よろしくお願いします!」


「我はヴァルネラ。こう見えて精霊である。一応、精霊女帝とも呼ばれているがな———」


「———せ、精霊女帝!?あ、あの世界樹を創造されたと言う伝説のっ?!」


「なんだ小娘知っているのか‥‥‥まあ、そのように呼ばれているがな」


どうやらエリー、改めエルディートもやはり知っていたか、


まあ伝説の存在としてエルフから崇められているからな‥‥名前を聞けば知らない者はいないか。デリカートも最初は神の様に崇めていたが今ではすっかりヴァルネラと打ち解けているし、エルディートもすぐに仲良くなるだろう



そして良かったなヴァルネラようやく自慢できるぞ



「———自己紹介が済んだ事で、改めて今後について話そう‥‥今ここにいるメンバーは主力だ。言わば組織の要でもある。エルディートに言っておくが、俺は”バラトロ”という組織を壊滅させるために結成した。エルディートを拐った輩もバラトロの者だ。そして、俺の両親もそのバラトロの傘下に殺された。これ以上俺達と同じような運命を辿らせはしない。そして人々の日常を壊さない様に、誰にも気付かれず、悟られず、闇に潜みながら行動する———」


俺の話を真剣に聞く四人。石の様に固まりながら一言一言を耳と心に刻みこんでいる。俺は今、四人の前でまるで教師の様に威風堂々と語っている。しかし、まあそんなに見つめられると少し恥ずかしいな‥‥


「———それで組織も大所帯になった。バラトロの残党が配下に着き、また娼婦街の女性達も傘下に加わる。総勢‥‥何人だファシーノ?」


「‥‥約1000人と言ったところかしら」


ありがとうファシーノ急に振って申し訳ない

だからその‥‥ジト目はやめてくれ


「‥‥そうか1000人か。結構多いな‥‥まあそういう事で組織も急に大きくなった事でそれぞれに幾つかの分野に分かれ管理してもらいたい」


「主よどういう事だ?」


「詳しく話すとまずは資金面に傘下の人員管理を担当する者。これをエルディート、君に任せる。これまでの経験を十二分に生かしてくれ。大変だが娼婦街の指揮系統も担ってくれ」


「——っ!私で良ければ精一杯努めさせて頂きます!」


よし、エルディートは了承してくれた。資金面はとても大切だ。後で開発方面もサポートしよう。俺が考案する魔車や戦闘服などデザインできる時が来た様だ。これは大いに盛り上がる


「そして情報収集に加え潜入担当。これをデリカートに任せる。その繊細な魔力を生かすも殺すも己次第だ。まあ、わからないことやきつい事はすぐに相談しろ」


「はっはい!ありがとうございます!頑張ります!」


デリカートなら大丈夫だろう。陽気で可愛いキャラは時に化ける。日の下と月の下ではデリカートが一番対応する。また繊細かつ細密な魔力を得意とするデリカートにとってピッタリだ


なぜ繊細だとわかるのか?俺の魔力がデリカートの体内にも充満しているからだ。例の飴玉で魔力の波動を感知することができる。その結果デリカートには繊細な魔力を扱える事が分かった


「次にヴァルネラだが‥‥色々と悩んだ結果、組織の部隊構成並びに闘う術を教授してくれ。かの伝説の存在、精霊女帝に鍛えられ導かれるなんて配下は幸せじゃないか」


「ふむ良かろう。我も退屈は御免だ。どうせなら体を動かしたいと思っていたからな、その任しかと全うしよう」


ふうぅ‥‥どうやらヴァルネラも承諾してくれた。俺の予想だと一番の難題だと思っていたが、ヴァルネラの教授なら全員が精鋭にまで進化するだろう。その後の部隊の編成などは適材適所に組み込めば良い


「最後に、ファシーノ。君には組織の統括をして欲しい」


「な、なんで私なのよ。貴方が組織を結成したんだから、貴方がなるのが筋ってものでしょ」


まあ、そんな反応するだろうと予想していた


しかし、これには大いに理由がある


俺が思うにファシーノを表面上組織の統括者に挙げれば、俺は行動し易くなる。バラトロにも俺の情報などもある程度制限できる。まあ、もう遅いかもしれないがこれからの事を考えると今がその時だろう。


また配下や傘下もこれからさらに多くなり組織も拡大していく。その時はファシーノが先頭立ち、俺が補助する。配下や傘下にも俺の情報を極力避ける事で漏洩を避ける事ができる。しかし主要メンバー‥‥所謂幹部には俺の存在を認識させ、命令を下す。その命令をファシーノ達の幹部が傘下に命令し、部隊や配下へと伝達していく。


まさに存在しない統括者の出来上がりだ


俺の望む覇道が完成する


それに相手の情報が掴めなければこちらもそう易々と情報を渡すわけにはいかんしな


「———が俺の考えている根拠だ。ファシーノ、君にしか出来ないことなんだ‥‥頼む」


「わ、分かったわ!貴方がそれほど言うのならやってあげるわっ!」


みるみるとファシーノの頬が夕陽の様に赤くなる。ふっふっふ‥‥‥どうやら俺の勝ちの様だ。ファシーノの両手を握りまるで子猫の様な目で見つめる。これをされて断る者はいないだろう。俺の作戦勝ちである


「と言う事で決まりだな。これからよろしく頼むぞ諸君っ」


こうして第一回月下香会議が終了した。この後はマイアーレの屋敷を改築して地下や山の鉱山あたりに基地を建築する。またエリーからエルディートに名前が変わった事で娼婦達を説得する時間が必要だ。まあ、娼婦達にはエリーで良いと思う。そっちの方が彼女達のためだろう


またバラトロについていた残党を割り振りしよう。ヴァルネラの訓練は全員強制参加してもらう。最後に俺が設計とデザインする戦闘服と魔車だな。戦闘服は各国の軍に売り付けても良し。俺たち組織だけ特注製にしよう


そして魔車は全ての大商会が競い合っている物だ。これを今後エルディートや開発担当の奴らと案を出し合う。きっと最高に生かすデザインが完成するだろう。速くカッコよく仕上げる


———さあ 今後が楽しみだ! 


バラトロお前らを引き摺り下ろしてやるから待ってろよっ

すぐにお前らのとこまで行ってやる

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