五種族会談編 少年期 一章 虚の王

逃亡者

「——それでみすみす逃げてきたと?ピピスト」


「は、はい。あのバッコス様を倒した仮面の少年。そいつがまさか可視化できる魔力ヴィズアリタとは知らず。我らは敗れました‥‥」


ピピストとはバッコスといたピエロの仮面をした男である。レオン達から運良く逃げ切ったピピストは国境を越えある国に来ていた。そんなピピストは現在、謎の男と一緒に薄暗い部屋にいる


「あのバッコスがやられたとは、信じられんな。同じ“十二神の名”を与えられた者が突然居なくなると悲しいものだ。まあ、十二神の中でも可視化できる魔力ヴィズアリタではなかったがその剣技は世界でも、我ら組織でも一流だった‥‥‥してその仮面の少年の情報は?」


「はっ‥‥‥ここ半年の情報ですと人族領で起こった天変地異。そしてつい最近の獣族国でのバッコス様を倒した黒い斬撃。どちらもとても酷使している物です。おそらく同一人物で間違い無いでしょう。人族領では我々の部下が実験中に襲われ被検体を失い、今度はバッコス様が帰らぬ人となりました。恐らく我らに敵対する組織です」


ピピストは跪きながら黙々と語る。しかしその声は酷く怯え、一言一言口を開くたびに冷汗が全身を覆う。見えない者に常に監視されている様な圧迫感。底の無い穴に落ちていく様な恐怖。ピピストと謎の人物との間にはそれほどの恐怖や力、圧の差が生じていた。 


「ほう、我々に楯突くと言うのかその仮面の少年は‥‥雑魚がどんなに荒がっても所詮雑魚は雑魚だ。放っておけ‥‥と言いたいがバッコスがやられたとなると話は変わる。その者について情報を探れ。それと例の物は持ってきたんだろうな?」


「は、はいっこちらが例の‥‥」


ピピストは懐から小瓶のような物を取り出し、玉座に座る謎の男に手渡した

小瓶は赤く血そのものの色を輝かせていた


「ほう、よくやった。これでようやく揃った‥‥ようやくあの方の命が遂行できる。例の会談まで残り2年と半年。それまで準備を進めねばな。ふハハハハハ」


謎の男は悪魔のような下品な笑い方をする。氷のようにその表情は冷たく口角だけを上げ、目は死んでいる。

そして小瓶を懐にしまい玉座から立ち上がり暗闇を歩き出す


向かう先は知れず、各々がいく道をただ突き進む


行く道は死の嵐の渦、振り向けば亡者の住まう冥界。どちらも弾く手が無い状況で彼らは何処に向かうのか何のために向かうのか。それはまだ知る由もない

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