入学試験 Ⅴ 懐かしい人物
「———お帰りなさい、随分と注目されていたわね。それに魔族のお姫様とも仲が良さそうで」
試験での模擬試合が終わり、ファシーノが座る観客席まで戻ってきた。色々とアクシデントに見舞われたがなんとか終え、ファシーノを賭けて勝負し相手を打ちのめした。しかし、当のファシーノはなんだか機嫌が良いとは思えなかった‥‥
一体どうしたのだろうと思い話しかけるが‥‥‥
「ただいま、それにしても思わぬ展開だった。まさか魔族帝国の姫君に助けられるとはな。警戒していたが、とても話しやすい人でよかった」
観客席から見下ろす闘技台には先程のレオナルドと魔族の姫様の姿は見えず次の準備が進められていた。色々な意味で盛り上がりを見せた俺の試合は終わってもなお、視線を集めてしまう。
ファシーノはというと、俺の発言後更に機嫌が悪くなっていた。何か地雷のような事を言ってしまったらしい‥‥‥もしかしてファシーノ、嫉妬しているのか?!
あのファシーノが嫉妬とか‥‥可愛いいじゃないか!?
でも安心して欲しい、容姿も体もいくら魅力的で破壊力があるからといって魔族のお姫様よりファシーノの方が断然美しい!どちらも負けていないからな!
そんな機嫌の悪いファシーノさんは席から立ち上がると、「行ってくるわ」と言い闘技台へと向かっていった。機嫌の悪いファシーノは何度もみてきたがあそこまで露骨にされると可愛く見えてくる。いつもの大人びた態度から年相応の反応はギャップを感じる
「———頑張れファシーノ」
◊◊◊
「———ああもう!暇、暇、暇ぁぁ!!なんで“受験者達”の見学なんてしなくちゃいけないのよ!かわいい洋服を見に行きたーい!!」
「そう言わないでこれも私たちの責務よ。私だって美味しい料理を食べたいわ」
「私はどっちでも良いけど、強い人はあらかた見たしね〜」
仲睦まじく会話する3人の女性と3人の男達。この広大な学園地区のほんの一部である練習場を彼らは堂々と歩いていく。その“6人”の姿は横を通りすぎる人々を魅了していく程だった
「ね、ねえあの方々って“英雄様方”じゃない?!」
「キャーっ!こっちを向いたわよ!なんてイケメンでかっこいいの‥‥」
「ああ、なんと美しい。あの美しさを持つ女性が英雄と呼ばれるなとはなんと気高しい」
「この僕の気持ちは貴方のものですっ」
彼らが通ると人々は散り、道ができる。散った者達は男女を問わず、そして種族を問わず彼らの姿に声を漏らす。自身の秘める気持ちを言う者、憧れを抱き声を掛ける者、彼ら6人の容姿を見ては気持ちを抑えられずにいた。
そんな受験者に笑顔を絶やさない6人の男女。英雄と呼ばれている6人の正体は‥‥‥
「もう、疲れたわ‥‥さっさと終わらないかしら」
「そんなことを言うなよ“アザレア”。俺たちは彼らとは違い特待生でこの学園に入学するんだ。模範とならないとだろう?」
「ううぅぅ、そうだけどさあ———」
———”ワルドス”のいうことは間違っていない
はああ‥‥特待生か。そうだったわ‥‥あれから随分と経つのね
レオンが旅立ってしまってから人生が大きく変わったような気がした。レオンの両親が亡くなってから誰かを守りたいと思ったのはあの時の衝撃が大きかったのを今でも覚えている。そして軍に入隊し、私よりも数倍大きい大人を打ちのめし功績を上げ今では
二つ名を言われるようになった。魔法座学や剣術にも自信が付き、部下を持つようになった私は敵なんていないと思っていた。魔法剣士になるための基礎は充分に仕上がっている、訓練生の中でもずば抜けていると思っていた。
しかし、その自身は2年前の出来事で大きく変わってしまった‥‥‥
———厄災の魔獣がこの世に甦った事件。突如として現れた厄災の魔獣と連動するかのように各国に押し寄せる魔獣の侵攻。城壁をも簡単に破る魔獣が押し寄せ、世界中が混乱した事件。
そして私達人族国にはあの“SSランク‥‥キメラが出現した
私達6人は前線を守っていたけど、キメラの出現で戦況は大きく一変した。キメラのブレスが迫った時私は何もできなかった、もうダメかと思った、死んでしまうのかと思った‥‥‥けど生き延びた。
今でも鮮明に覚えている。あの時窮地を助けてくれた“ネロ”という人物。
———言葉も出なかった。次元の違う力、到底追いつくことのできない力を見せられた
私達は呆然と見ることしか出来なかった‥‥この光景を見ていた者は少数で後に救護班が来たときには私達とキメラの死体が転がり、私達が倒したのだと解釈する大勢の人々。本当は違うのに、私たちにそんな実力はないというのに、否定出来なかった自分の弱さを憎んだ‥‥‥
———そして世界中の人々が度肝を抜いたあの魔法。世界中の人々が空を見上げ、畏怖した魔法。人族国から魔族帝国まで距離は数百キロもあるというのに視認できるほどの魔法‥‥‥
“何か”を斬ったと思われるその魔法は世界中の学者達に衝撃を齎した。世界の常識が魔法という名の存在が、全てがひっくり返るその魔法は”無”だった‥‥
5000年の時を経て、魔法研究で明らかになっている最強の魔法とは全てを超越しているという。そしてその魔法を『頂の魔法』と呼び、学者達で議論されたいた
しかし、その人類の最高到達点とも言われる魔法が2年前に現れた。誰も疑いはしなかった、なぜなら
それから2年の歳月が流れて、私はもっと強くなろうと、どんな強敵が来ようと倒せるほどの力を付けようと誓い、18歳になり学園に入学が許された年齢になった
特待生として学園の新一年生の模範となるような姿勢を見せなければならない。
まあ、そんなものはどうだっていいの。私の本当の目的はレオンと再会するため。きっとこの受験会場のどこかで試験を受けているのに違いない、この三日間毎日探しているのにどこにもいないんだもん!
絶対、絶対にどこかにいるはず‥‥いないわけがない。だって‥‥約束したもの
手を振り、色々考えながら歩いていると気になるワードに私の体が反応した
前方斜め前の女子3人組の会話から聞こえてきたワードに私の胸が躍る。息遣いが荒くなり、頭の中はある事で埋め尽くされていく。カメリアとベラに様子のおかしい私を言葉で止めるけど、無視してその3人に駆け足で近づいていく
「———ねえ?その“レオン”という話聞かせてくれないかしら?」
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