入学試験 Ⅳ 魔族の王女様



「———しょっ、勝者レオン=ジャルディーノ!」


試験官の勝利宣言が第1演習場、所謂闘技場に堂々響き渡る。風に乗り、受験者一人一人の耳に確実に届いた。一体何がどうしてこうなったのか理解できない者がほとんどだろう。そして公爵家の長男を負かしたという噂は瞬く間に広がると予想できる。


また、レオナルドが堂々と勝利するのだと思っていた取り巻きと貴族達は状況を理解できていそうになかった‥‥


「‥‥あのレオナルド様が負けた、だと?!あり得ない!あの年齢で“開放”まで至ったお方がこんな礼儀も身分の差も理解できない庶民に負けるなど‥‥!貴様何かイカサマしたのかっ?!」


「そうだっ!そうに違いない!でなければ何も学んでいない庶民が貴族に勝てるわけがない!」


「「そうだ、そうだ!!」」


後になって言いたい放題だな。この現実に目を背向けているのか、理解しようとしないのか、まあどっちでもいい。


外野は五月蝿くてしょうがないな本当に‥‥‥‥



「———お黙りなさいっ!!」


「「「??!!」」


貴族達の罵声が飛び交う中、どこからか飛んでくる声。貴族達の声を押し退けて鳴り響く声は観客席の更に上部に位置するVIP席から放たれた物だった。

“彼女”は豪華な椅子から立ち上がると、地上50m程のVIP席から闘技台に大胆にもジャンプしてきた。華麗な着地、身のこなしや立ち振る舞いは皆を魅了し全体の視線は彼女に注がれた


「———目障りですわ。弱者は強者に平伏すこれが現実。鳥達のようにいつまでも鳴いて子供ですわね‥‥これだから貴族という地位よりも力で証明した方が良いというのに」


視線を気にもせず堂々と貴族に意を唱える彼女。そのすぐ足元には気絶したレオナルドがいる光景。なんとも面白い



しかし‥‥‥闘技台にて一際目立つ彼女のその姿は背中に黒い翼、そして長く黒い尻尾を生やした魔族。加えて黒く長い髪。整った顔立ちと豊満な体‥‥そんな彼女だが貴族達も勿論黙っている筈もなくさらに反論してきた


が、それも束の間、貴族達の少数が彼女を凝視しある事に気づくと開いていた口を閉じ、絶句する


そして観客席を満席にするほどの種族達の中には当然受験者でもある魔族達も大勢いた‥‥‥


「「も、もしかしてっ!?」」


「「あ、あの方はっ!?」」


そんな大勢の魔族達の同族である彼女を見ては一斉に驚愕し、その場で立ち上がり喜び、慕い、名を高らかに掲げあげた



「「「———エリザ王女様っ!!」」」



◊◊◊



「———な、王女様!!!」


「ま、魔族帝国の姫君とはっ!ぼ、僕は何も言ってないぞ!!」


「お、俺だって!!ただ便乗しただけだ!!」


「ああ?!お前らそれでも貴族か?!」



唐突かつ大胆な登場をした彼女を凝視し信じられないといった表情を作る人族の貴族。国は違うが、王族に意を唱えてしまった事は紛れも無い事実。貴族と王族とでは全てが桁違い。階級を重んじる貴族ならばこそ、王族に対しての不敬は死を意味する。このことを理解した貴族達は我大事にと他人に擦りつける。


なんとも反吐が出る会話だ


そして俺はそそくさと今のうちに闘技台から降りようと足を運んでいたが‥‥



「———”レオン様”お待ちになって‥‥」



しかし、その足は一歩目で止まる事になる。背後から魔族の王女様が俺の名前を呼んできた。なぜ知っているのかと怪しんだが、先程試験官の勝利宣言で俺の名前はこの空間全体に轟いた事を忘れていた。王女様に呼び止められては流石に無視なんてできるわけが無いので振り返り、取り敢えず跪く


「なんでありましょうか、魔族帝国の姫君‥‥」


「そこまで畏まらないでください。どうぞお立ちになって。それに自己紹介がまだでしたね」


彼女の言葉に甘えた俺は跪いていた姿勢から立ち上がる。すると彼女は優雅にお辞儀をし微笑みながらその赤く麗しい唇を動かした



「私は魔族帝国が王エルザシア=ルシフェルの娘エリザ=ルシフェルです。サキュバスの血を引く私ですが、どうか“エリザ”と呼んでください。様などは不要です”レ・オ・ン・さ・ま”‥‥っ」


「ど、どうかご冗談を‥‥王族にそのような無礼はっ」


「あら,先程公爵家の方を倒しておいて?ふふっ」



ハハハ‥‥顔が引き攣ってしまう。ここまできたら無礼なんて言ってられないのは確かだ。俺は同族のそれも公爵家に刃向かった庶民。今更無礼を語れるわけもないか‥‥


「そんなお顔をしないで‥‥私は力ある者にしか興味ありませんのよ?そして貴方は力のあるお方。先程の試合で魔法を斬ったその実力を見込んでの評価です」



ふふふと可憐にそして妖艶さを兼ね備えながら笑う魔族帝国の王女様。豊満の体と目の行き場に困るドレスはサキュバスの血を引く者の衣装なのかはさておき。


どうやら王女様に気に入られてしまったのだろうか?自信過剰かもしれないが敵意は感じられないので一応嫌われてはいないらしい


「私はそこまで評価される者ではございません。しかし、“エリザさん”にお褒めの言葉を頂くと私の心が踊ります」


「まあ‥‥っ!それは本当ですの‥‥!?」


「ええ、嘘をついてどうします?それと、私の試合は終わりましたのでそろそろ戻ります。失礼します‥‥‥そして有難う御座いました」


彼女に深く一礼し、受験者の視線を集めながら闘技台を降りる。そして何度も同じことの繰り返しが起こる。魔族からは王女と話す俺に敵意を向けられ、同族からは謎の生命体を見るような視線を向けられる。俺は目立ちたくないのに余計目立ってしまうこの現象。


いい加減嫌になってくるな‥‥



「———ふふふ”レオン様”、“精力”の方も凄まじいですわぁ‥‥‥」


最後にレオンの後ろで呟いた声。吐息を漏らし、顔を赤くしていた王女エリザ=ルシフェル。しかし。その声はレオンの耳には届かず、風に乗り消えていったのだった

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