2年前の真実と新入生入学式


「‥‥このシェイクという飲み物は美味しいな。何杯でも飲めそうな気がする」


「ええ、こんなに美味しい飲み物は初めて飲んだわ。エルディートさんに頼んで新たな商品にしてみてもいいわね」


隣の彼女ことファシーノはシェイクという飲み物の美味しさに目を輝かせていた


そして俺は今、シェイクという飲み物を片手に持ちながら商店街の屋台売場を歩いている。なぜ歩いているかは言うまでもない無い事だが、仕方なく説明すると入学式とやらに参列する為だ。


昨日、月下香トゥべローザ本部から学園都市に戻っていた俺たちは入学試験でお世話になった宿屋に泊まった(転移魔法で戻ってきた)。学園の制服が支給ということで宿屋の店主に預かっていて貰ったのだ。実に一週間ぶりの学園都市なのだが、俺の体内では1ヶ月ぶりの感覚。


これも本部でのあの事件が原因なのだが‥‥‥

隣でシェイクを美味しそうに飲んでいるファシーノをジッと見つめ、


「‥‥‥な、なにかしら??」


急に見つめられ戸惑い浮かべる愛おしいファシーノ。とても艶があり、すべすべで綺麗な肌は以前よりもプルプル感が増しているのは気のせいだろうか?


こんなにもファシーノのお肌が更に綺麗になった原因でもある、あの夜の出来事は一生忘れられないな。一種のトラウマだろうあれは‥‥


久しぶりに本部へと帰還しては騒ぎを起こしてしまい、大浴場の露天風呂に浸かりながら心身共に癒しては自身の部屋で寛いでいた。そこをなんの躊躇も無く扉を破壊してやってきた5人組。体にタオル一枚だけを巻いて突入してきては、俺をベッドに押さえ付け襲われてしまった‥‥‥


いや、普通逆じゃない?と思ってしまったのも一瞬。気づけば朝になり、俺のベッドに寝転がる5人の女性を見ては髪をかき揚げていた。


遂にヤってしまったのだと‥‥‥‥


まあ、彼女達がそれで良いのならそれで良いのだが、今度はこちらから一人ずつ相手をしないといけないな。はっははは‥‥‥




———かれこれ一時間。学園地区まで距離があるので俺たちは魔車バスを利用して学園地区正門まで到着した。料金は非常に安くお手頃な価格であった。勿論、制服姿の学生も何人も乗っていた。初々しさから見て俺と同じ新入生だろう。


そして辺りを見渡せば正門に向かって大勢の新入生が入っていく。ここにいる皆が、この正門を通る皆が、試験に勝ち抜き選ばれた生徒。

いずれ世界の歴史に名を刻む金の卵達。彼ら新入生を見ていると、悠々たる足取りは緊張よりもこれからの成長を期待するものなのかもしれない。俺とファシーノも彼らの後を歩き、入学式の会場を目指した。



◊◊◊



「はぁ、ようやく一息つけるわ」


入学式の会場に着き、早速席に座るファシーノ。少し歩き疲れたのだろうか額から汗が滴り落ちていた。その流れる汗も、疲れた息使いも艶めきが増し刺激が強かった。そして更に追い討ちをかけるようにファシーノの制服姿は俺の心を鷲掴みにした。


いいや、男という生き物全てを魅了した。膝上以上のミニスカートは破壊力抜群であり、なぜか女性の制服は胸部が開いていた。よってファシーノの胸の谷間が強調され視線に困ってしまう。一体誰が設計し何を思ってこれを採用したのか不明だが、俺たち男からすれば最高である。


この制服を設計した者にお礼を言いたいぐらいだ。グッジョブ!



さて、会場の席が満員になってきた。この入学式の会場はどうやら練習場を入学式ようにアレンジしたのだろう。コルッセオ闘技場を模した色々な箇所に装飾が施されている。俺たち新入生一同が座る席は以前、入学試験を実施した際に受験生が見学、観客していた席と同じだ。この新入生ようの席が円状に広がっているが少し異なる箇所がある。


俺の反対側にして真正面に位置するそこは、四角く透明なガラスケースで覆われたVIP席だった。


どうやら主要人物のための席に違いないのだろう。誰が来賓として来るのか‥‥

それに新入生が座る席の最前列、円状に広がる席の内側に座る者達はどうやら特待生と呼ばれるエリート集団らしい。噂に聞けば寮の中でもとびきり広い一部屋が渡されるのだとか、またメイドや使用人付きとか‥‥我ら庶民のお手本になるのだとか‥‥まあ全て事実であろうが俺にはどうでも良いことだ。


と、周りの新入生が突如盛り上がり、場が騒がしくなってきた。周りの新入生達を見ると彼らの視線は下方向、闘技台の中心に向けられ、そこには遠目でも分かる美しい女性が立っていた。その女性が右手を掲げた瞬間、宙に浮いている透明なガラス板が無数に出現すると、その透明なガラス板に女性の顔が写り出して会場中が歓喜に沸き起こり熱気に包まれる


緑色の長い髪を巻き、修道女のような衣装を身につけた女性が口角を上げ微笑むと会場は静まり返り、それを見計らってか女性は次に言葉を語りだす。



「———皆さん初めまして、この学園都市を収める領主をしています。皆さんに分かり易くお伝えしますと、調停者アルビトと言われる者です」


「「「‥‥‥!!」」」



おいおい、ここにきてとんだ大物と出くわした。まさか自ら正体を明かし、名乗るとは思わなかったぞ。久しぶりに意表をつかれてしまった。周りの新入生を見渡しても全員が同じ表情をしている。それは驚くのも無理はない。


調停者アルビトは普段、表には決して姿を現さない存在。

五種族会談の時にしか姿を現さず、世界が戦争に覆われても決して介入せず行く末を監視するだけの存在。全階級制定協会のトップ3にして、その実力は謎に包まれ、決して素顔を見せない。


故に調停者アルビトと言われる所以なのだが、こうも堂々と素顔を晒すとは‥‥何かある筈に違いないのは確かだ‥‥‥


俺は透明なガラス板に映る彼女の表情を見ながら深く考え込んでいた



「ふふふ、皆さんが驚くのも無理もありません。何故なら皆さんが知る私たちは決して表に姿を現さない存在。世界が破滅の道へと運ぼうが私たちは決して介入しません。それは世界の均衡、真なる平和を守る為です。しかし———」


するとここにきて彼女の表情が強張り、優しかった口調も急に力強くなった



「皆さんもご存知かと思います‥‥2年前のあの日の事件を‥‥突如として世界中で巻き起こり、我々の世界を襲った魔獣の軍勢。中にはあのキメラまでいたと言います。この魔獣による被害は永い歴史を遡っても最大級のものです」



会場にいる何万人という人々が息を呑みこむ。緊迫した緊張感と暗く悍ましい雰囲気が漂う中、調停者アルビトの女性は話を続ける。彼女がこれから語るであろう話は世界の歴史に刻まれる最大の汚点にして、最悪のシナリオだった


「そして、我々が表の世界に介入するきっかけとなった存在。そう、皆さんも知っている“厄災の魔獣”の出現。5000年前にこの世界を滅ぼし尽くしたと言われる伝説の厄災が再び現れたのです。これに対抗したのは我らが選ばれし者セレツィオナート。しかし彼ら5人の最高峰の魔法を持ってしても倒せませんでした‥‥」



次々に語られる歴史と2年前の事件。厄災の魔獣に立ち向かった世界最強の5人選ばれし者セレツィオナートでさえも倒せないという事実を耳にした新入生達は絶望する。

それでも躊躇いなく話し続ける調停者アルビトの女性。そしてこの後に話すであろう真実は知っている者もいるはず、また知らぬ者は本当の真実を知ることになり、女性の声が一番低く発せられた



「世界を滅ぼすあの忌まわしき厄災の魔獣を一撃で斬り伏せた存在‥‥その者はこう呼ばれています———“虚無の統括者———と。ここにいる皆さんはこの者の魔法を世界中で目にした事でしょう。色は闇を感じさせ、肌には何も感じず、音もなく、何も感じない”無の魔法”。この世界に存在しない魔法を扱い、更には”頂の魔法”を世界に知らしめた存在。味方によれば我々人類の救世主でしょう、しかしその”無の魔法”はいずれ世界を破滅へと導く最悪の力。世界の均衡を、世界の平和を脅かす最も危険な存在です。現在、我々世界の五種族に対して戦いを挑もうとする者達がいます。その者こそ、世界の闇に潜み続ける悪の根源バラトロ。そして、”虚無の統括者”と呼ばれる存在が筆頭の月下香トゥべローザという世界に刃向かう組織。我々はこの者達を世界の異端者と呼称し‥‥“大罪人”とします」



◊◊◊



「———う、嘘だろ‥‥そんなことが‥‥っ」


「———きょ、虚無の統括者‥‥一体何者なんだよっ」



遂に2年前の真実を暴露した調停者アルビト。この真実を初めて知った者達は大いに戸惑い、慌てふためいている。静かだった会場が徐々に騒がしくなり始め、後になって驚愕の真実を理解した新入生達はただ唖然とするばかり。10000人いれば9990人のほぼ全員は震撼する事実。あまりの衝撃に息を忘れる者もいた。


2年前の真実を暴露し、新入生の目前で大罪人になったおかげで俺は晴れて世界から追われる身となってしまった。そんな俺を見て何を思ったのか隣のファシーノは頭を優しく撫でてくる。


「随分と嫌われてしまったわね。私たちの為に身を削って頑張っているのに、」


「しょうがないさ、この力は俺が思っている何倍も強力で傷付けやすい。まあ、世界に存在しない魔法とは知らなかったが‥‥」


頭を撫でてくるファシーノに対して俺は頭をファシーノの肩に乗せることにした。ファシーノの体からとても良い匂いがして安心する。


安心も束の間、闘技台にいる調停者アルビトの女性は例のVIP席に視線を移すと、VIP席の奥から数人の人影が現れる。五つの玉座が並列に並び、右端から一人ずつ座っていく。五つの玉座に座った者達はドレスを纏った女性であり、全員が美しい。


世界の美を集結させたと言っても可笑しくない程の輝きを放つVIP会場。


その美しい女性達を一度見たことがあり、俺は微笑を浮かべていた。

まさか今日で何度も驚かせてくれるとは思わなかったからだ。


先程までの絶望の雰囲気から一気に逆転し会場中が再び盛り上がり、新入生達は一同に声を発する。誰かが合わせようと合図していないのにも関わらず全員の声が重なり‥‥‥




「「「———我らが王っ!!!」」」









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