幼馴染との再会と必然に衝突する二人の女性


「———我ら全種族のトップにして“オリジナル魔法”を極め、世界最高峰の魔力、可視化できる魔力ヴィズアリタを顕現した世界最強の5人。選ばれし者セレツィオナートのご登場ですっ」


調停者アルビトの女性がVIP席に座る5人に腕を大きく振り上げて、新入生の歓声を大いに誘う。VIP席に座る5人の王達の左右には護衛が立ち、全員が見たことのある顔をしていた。


厄災の魔獣が現れた時にいた者達だと思うのだが、目付きも顔立ちも以前よりも凄みを増しているように思える。新入生の大歓声が会場中を支配する中、中心のVIP席に座る女性が立ち上がり、一歩前に歩み出した。


ガラス張りになっているVIP席は全体が見え、誰がどのような行動をするのかは筒抜けである為にその女性が今から何をしようとしているのかを新入生達は察する大歓声に包まれていた会場が一瞬で冷め、静寂が訪れると新入生達の緊張感が伝わってくる


静かになるのを見計うと“純白の翼”を宿す女性は微笑みながら静かに語り出した。


「———皆様初めまして、私は天族の長ミカエルと言います。選ばれし者セレツィオナートを代表して挨拶致します。まずは、ご入学おめでとうございます。この世界最高峰の学園に、全種族が集まる庭に入学できた時点で皆さんは他者よりも優れています。しかし、決して見下してはいけません。それぞれ役割というものが存在し、皆さんは国を守るという責務があります。国民を守り、か弱い人々を助けるのが皆さんの使命でもあるということを肝に銘じて下さい———」



———麗しく赤い唇を静かに閉ざし、軽く御辞儀をする天族長ミカエル。お辞儀をしたことで金色の髪が肩から流れ落ち、強調された胸元が男の心をまたも擽る。新入生達、一人一人の心に響くとても良い演説だった。誰もが良い演説であったと思い拍手喝采をなそうとした


しかし、彼女は下げていた頭を再び戻し語り出した。空中に浮かぶガラス板の映像を見ると険しい表情に変わり、新入生達には動揺が走る。


「‥‥‥話は変わりますが、元々分裂していた五種族の争いも年数と共に鎮火していき、今では夢に見た五種族が集まる学園を創り上げることが叶いました。そして2年前に五種族会談にてこの世界が再びひとつに纏まったその時、現れたのです‥‥先程、調停者アルビト殿が言って下さいました恐ろしき存在‥‥厄災の魔獣です。我ら5人を持ってしても‥‥”オリジナル魔法”を持ってしても倒すことの叶わなかった伝説の厄災。自身の“絶対的な力”を過信し見縊り、結果敗れる有ってはならない事実っ‥‥‥」



天族長ミカエルはその美しい顔を歪め、嫌悪感を露わにした。彼女のこのような表情は滅多に表に見せないのか、同族である天族達は皆が驚いていた。天族に限らず他の種族もまた美しい顔が歪む様は誰もが驚くことだ。

会場にどよめきが響く最中でも映像に映る彼女は淡々と話しを続けていた



「———我らは一度敗北した身にあり、後にどうこう物申す事はしたくありません。しかしっ、我ら5人を持ってしても倒すことのできない厄災の魔獣を‥‥‥一撃で斬り伏せた存在を野放にする訳にはいきません。我らの味方なのか、敵なのか、この世界に何を望むのかわかりませんがその者には聞きたい事が多くあります。強大過ぎる力を持つ存在が‥‥この世界に干渉する事自体が争いを生み、破滅へと導く一歩であり、平和を壊します。いずれ、争いが起こると皆様は戦わなければなりません。誰が生き残り、誰が死ぬのか、この世界の平和と安寧な未来の為にこの学園で精一杯精進して下さい。世界の平和の為に———」


彼女が再びお辞儀をすると待ってましたと言わんばかりの拍手喝采が会場中に鳴り響き最高潮に達した



「「「おおぉぉ!!!ミカエル様ぁ——っ!」」」


「「「世界の平和の為にっ!」」」


‥‥‥新入生達の歓声や熱気が学園都市中に響き渡りそうだ。もはや騒音だろう

左右上下を見渡しても声が掠れるほどに騒ぐ者達ばかりだ。隣のファシーノなんてとても嫌そうな顔をして両手で軽く耳を塞いでいる。その姿もまた可愛い‥‥


と、ファシーノに気を取られていたら、闘技台の中心に立っている調停者アルビトの女性が再び話し始めていた。



「———ミカエル様、心に残るお言葉ありがとうがございます。また、この後には生徒会長のお言葉があるのですが、本日は急用の為に欠席しております。生徒会長のお言葉は次回に致します。これにて式典の方は終了となりますが、新入生の皆様はそれぞれのクラスに移動をお願い致します。合格発表と共に提示していたクラスですのでお間違い無いようお願いします」


———ということで無事入学式も一応は終了しぞろぞろと立ち上がる新入生達。わやわやと楽しく話しながら出口を目指し移動をしている。


「それじゃあ俺たちも移動するか‥‥そういえばファシーノと俺は一緒のクラスだったよな?」


「ええ、そうよ。一緒でよかったわね?」


なんとも悪戯な顔を見せてくるファシーノ。表情豊かで羨ましいよ

そんなに俺が落ちぶれているとでも? はっはっは‥‥ご冗談を‥‥え?


「さあ、早く移動しましょう?そんな変な顔をしないで」


すると俺の腕を強引に引っ張って歩きだす。そんな彼女の後ろ姿を見てはとても楽しそうに感じた。これも一種の平和というやつなのかもしれないな‥‥


して、先ほど話した生徒会長が不在な事に少し引っかかるがそこまで気にしても意味はないだろう。今はただこの時間を謳歌しよう‥‥



◊◊◊



ファシーノに連れられること数分。会場をでた俺たちは一学年の校舎を目指していた。広過ぎる学園地区の地図を見ながら二人で歩いていくと目の前にはなんと“城が見え始めた


「こ、校舎?意味わからん」


あまりの規模と豪華さに足が止まった。周りを見れば俺と同じく立ったまま更に放心している者がちらほら見受けられる。普通におかしいだろう‥‥だって城ってなんだよ。どう考えても理解が追いつかない。地図にはしっかりと“校舎と書いてある事から校舎なのだろうが‥‥初見でわかるわけがない‥‥それに‥‥‥


「なんか奥の方にも、もう2棟建っているのは気のせいかファシーノ?」


「気のせいではないわ。あら、私たちの校舎は手前の城なのね」


俺は目を何度も擦った。それでも奥にはもう2棟が建っている現実に引いてしまった。それにファシーノは何故かあっさりとしている。おかしい、もしかすると知っていたのか?なあ?もしかして月下香トゥべローザの皆んなは知っていた? 俺だけ知らなかったのか‥‥?教えてくれても良くないか? 


え、悲しい‥‥


そんな俺の心情を知ってか知らずか面白おかしく微笑むファシーノさん。

俺たちの校舎‥‥城が手前のだと分かるとズカズカと進んでいくファシーノさん。そんな彼女と共に歩く一学年校舎への一本道。その脇には花畑や庭園が広がり、新たな世界が繰り出されていた。

美しく、魅了される庭は手入れが隅々まで行き届き、植物が歓喜しているように俺の瞳に映しだされた。


そして俺の瞳に映し出されたものは花や綺麗な庭園だけではなかった。


俺が進む先‥‥一学年校舎の玄関にいる人物達。誰かを待っているかのような姿勢で佇むそのうちの一人と目が合うと、ふと昔の懐かしい記憶と約束が脳裏を過ぎる


長い金色の髪を靡かせながらこちらに近づいてくる“彼女は俺とファシーノ前に立ちはだかる。


そう”彼女”こそは俺の幼馴染の———アザレアだ



「———レオンっ!やっと会えた‥‥!」


涙混じりの瞳で震える唇を開いたアザレア。そして2年前にキメラから救った人物が俺であり、“ネロ”であるとアザレアは知らない。なので、アザレアからすれば5年ぶりの再会ということになる。

あの頃とは背丈がだいぶ変わり、5年前までは同じ背丈が今では頭一個分俺の方が高くなっている。お互い体付きも大人になり、表情や顔も筋肉も昔とは違う。それでも俺の事を一眼で気づいたアザレアは本当に会いたかったのだな‥‥


2年前にあった日はボロボロで今にでも倒れそうな体で戦っていたアザレアはそれでも綺麗だった。さらに2年が経過してより一層美しく可憐になった。大人な体付きになって‥‥胸も大きくなったって俺はどこを見ているんだ‥‥感動の再会に変なことを考えるのはやめよう‥‥


「久しぶりアザレア。“5年前”、最後に見た時よりすごく綺麗に可愛くなったね。約束を果たしに来たよ」


「うん‥‥レオンもすっごく背が伸びてかっこよくなったよ!」


久しぶりに話す幼馴染との会話。新鮮でいて気がれなく話せる異性はそういない。本当に会えてよかった。それにアザレアの後ろから歩いてくるのはマルゲリー町の同級生達。彼らもまたこの2年で表情が様になっている。


そんなことを思っていると先ほどまで感動の再会で盛り上がっていたアザレアの雰囲気が殺気を帯びてきた。  


‥‥‥一体どうしたのだろう?という馬鹿な考えはしない


完全にその殺気は俺と手を繋いでいるファシーノに集約されていた



「———貴方が噂の美人な人ね?なるほど、確かに美人だけどその手を離してくれるかしら?今レオンと“幼馴染”であるこの私が話しているの‥‥正直言って邪魔なんだけど?女狐」


「あらあら、怖い顔をするわね?貴方、六幻楼アルターナと呼ばれている英雄様じゃないかしら。幼馴染だからって別に話すくらいなら手を握っていてもいいでしょう? 器が小さいお人」



————ピキッ



え、今二人から何かが切れる音が聞こえたぞ。笑いながら話す二人が怖くて今すぐにでもここから距離を取りたい。あのアザレアがここまで殺気を放つなんて初めて見た。

それにその口調がまた恐ろしい‥‥アザレアが怖い‥‥5年前に手作りの弁当をアザレアの分も食べてしまい、怒り狂ったアザレアが可愛く思えてきた


そして今でも手を握り続けているファシーノ。俺の手が潰れそうな程に力を込めている。めちゃくちゃ痛い‥‥ちょ、骨が折れる音がした‥‥



衝突する二人の殺気が拡大していき無関係の人にまで押し寄せようとした時、二人の間に割って入ったカメリアが二人を抑制する


「アザレアとレオンのお連れさんそれ以上は無関係の人まで巻き込むわよ。何にあれ今は納めましょう」


カメリアの言葉にハッと気づいたアザレアとファシーノはすぐさま冷静になり殺気を抑え込んだ。


「ごめんなさいカメリア、感情的になってしまったわ‥‥」


シュンと落ち込むアザレアはどうやらいまだにカメリアに頭が上がらないらしい。そこは今も昔も変わらず安心した。後ろにいるベラも昔と変わらずこのやりとりを子供のように楽しんでいる。そして男3人組。彼らも随分とイケメンに成長した


「ワルドス、コキン、テルも5年ぶり。今では六幻楼アルターナと呼ばれているらしいな。同級生が国を救った英雄とは誇らしいよ」


久しぶりに呼んだ同級生の名前。彼らも呼ばれたことに気づき好気の反応を示すが俺が英雄と言った途端、妙に表情を暗くした。しかし、すぐに表情を戻し笑顔を見せてくる。金髪でイケメン高身長のワルドスが最初に言葉を投げてきた


「ああ!レオン久しぶりだな!5年で随分と変わったな!5年前に町を飛び出した時は動揺したが、今じゃあしっかり男じゃないか!学園にも入学して約束を果たしたな!」


「ほんとだよレオン!お前なら入学できると思ってたぜ!」


「久しぶりすぎて感動しちまうぜ!やっと全員が揃ったな!」


コキンとテルも俺との再会を喜んでくれいていて内心ホッとしている。二人の茶色の髪が印象的だ。ワルドスに次ぐイケメンになっている。久しぶりの同級生との会話は懐かしく楽しい。しかしそれも長くは続かず終わりが訪れる。


「アザレア、早くクラスにいきましょう。私たちは一応特待生なのだから」


カメリアの言葉に反応をしめすアザレア。どこか残念といった表情をするアザレアだったが去り際にこちらをもう一度見つめてくる。


「レオン!あとでじっくり話しましょう!二人でね!いい?!‥‥そしてそこの女狐。貴方の名前を教えてもらえるかしら?」


再び衝突する二人の視線。殺気を放たなくとも十分に凄みが感じ取れる二人の圧。アザレアに問いかけられたファシーノはどういう反応をするのか凄く興味深いが隣のファシーノを見るのに抵抗がある。


男は話に関わるなと無言の圧力を言われている気分だ‥‥


二人の間に風が通り抜け、二人の長く美しい髪を靡かせるとファシーノはようやく口を開き答えた


「———ファシーノよ」


「そう‥‥貴方とは初めて会った気がしないけど、まあいいわ。それじゃあまた」


そして去っていくアザレアと同級生達。去り際にアザレアは視線を送ってきたのでこちらも合図をやったところ、頬を動かし微笑したのを確認したのでどうやら伝わったらしい


「———さ、私たちもいきましょっ」


満円の笑みで手を握ったまま先導するファシーノ。先程の殺気が嘘かのような表情は恐ろしい。あの怒った顔もまたグッと刺激されるが喧嘩だけはしたくないと思った。そして女性だけは敵に回したくないと心に誓う。



———俺の学園生活は平和なのだろうか?


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