君の名前は‥‥


「大丈夫か? もう安心して良い」


 俺は怯えている子供に優しく声を掛けるが如何せん、まだ怯えている

 仕方ないか、あの魔法を見てしまっては怯えるのも当然の事だろう


 そんな彼女からの視線は化物を見るような目と怯えた目を同時にしていて罪悪感を覚えてしまう


「俺は化け物でもなんでもない。一般市民で人族だ。お前の名前はなんと言う?

 フードを取って顔を見せてくれないか?」


 すると“彼女はゆっくりとフードをとり


「た、助けてくれて、ありがとう。名前は‥‥もう捨てた‥‥」


 月明かりに照らされ、靡く美しい髪は俺と同じ黒髪だった。しかし、その綺麗な髪とは裏腹に顔の傷、身体中に痣が目立つ、どうしたものか


 考えている中、ふと彼女が言葉を発する


「あなたは誰?何故私を助けてくれたの‥‥?」


 彼女は弱々しい声で訪ねて来た


「別に君を助けたんじゃない。たまたま通り掛かって親の仇がいたから殺しただけだ。そのついでだ」


「そうなんだ‥‥でもありがとう」


 彼女は一生懸命に微笑んだのだろうが顔はボロボロであり、その可愛い笑顔を見逃しそうになった。


(仕方ない直してやるか)


「君のその顔と体の痣を綺麗にしよう」


 俺は彼女に触れ、回復の魔法をかける


「——っ!これは魔法!とても綺麗‥‥」


 魔法を見たことがないのか?いや全ての生物には魔法が宿るはず

 魔力が少ないのか‥‥?


 そう考えながら彼女の顔を綺麗にして魔法で鏡を造り自身の顔を見せる


「——っ!」


 すると彼女は涙を流してしまった。自身の顔が戻るなんて思ってもいなかったのだろう。よく見るととても整った顔立ちをしている。

長い黒髪に切れ長の黒目 


 それと胸が結構でかいな‥‥‥おっと紳士になろう。

 よく見ると彼女は同じ人族のようだな


「なぜ君は誘拐された?」


 彼女にこれまでの経緯を尋ねる。すると彼女は清く答えてくれた


 どうやら貴族の家柄だが、魔力が乏しく、武術も上達が見込めないと判断され、家の名潰しで売られたと。そこをバラトロと言う組織が買い、実験に利用されていたと言う。また年齢も同じく13歳と


 なるほど。貴族というのは魔力やランクを大いに気にする傾向にあるらしい


「じゃあ、君は何処にも行くあてがなければ、住む宿も金もないと」


 コクッ


 涙を流しながら小さく頷く彼女


 流石に同年代の女の子を森に置き去りにするのは男としてクズだろうか。いや連れて帰るのも見方からすれば誘拐にもなってしまうな。しかし、彼女は一人だ。俺と同じく孤独の存在、実の親に売られた女の子だ


 仕方ない‥‥


「なあ、俺と一緒に来ないか?あのバラトロと名乗る組織も気になるし、ここは協力といかないか?」


 彼女は小さく頷き一言だけ勢いよく発する


「はい‥‥ッ!」


 ふふ、これで協力者兼仲間が一人増えた事になる。

そして改めて彼女に話を振ってみる


「君はバラトロと言う組織について何か知っている事はないか?」


「グスッ‥‥。私も知らないわ」


(口調が変わったな)


 泣いていた目も泣き止み、彼女は落ち着きを取り戻していた


「そうか。君‥‥‥というか名前はもう捨てたんだったな」


「えぇ。もう私には名前なんて無いわ‥‥」


「なら、俺が決めて良いか?」


「——っ!あなたにつけて貰えるのなら‥‥」


「それは嬉しい事を言う‥‥‥うーん、そうだなぁ‥‥」


 頭を悩ませている最中、空の雲から月が姿を現した


 月の明かりが二人を照らす


 風が通り、二人の髪を靡かせる


 彼女の黒い瞳と目が合い


 目の前の女の子に見惚れ、思わず口を開く


「——ッ!ファシーノ‥‥“ファシーノ・ウノ“はどうだろうか?ファシーノは魅力と言う意味を込めて。ウノは君が一番目の俺の協力者から名付けた」


 我ながら良いセンスではなかろうかと思うが‥‥‥彼女はどう思うか?


「ファシーノ・ウノ。とても素敵な名前ね‥‥私にはもったいない名前」


「良いや。もったいなくなんて無い。君の魅力を認めての想いだ」


 これは『気に入ってくれた』で良いだろう


 そして君の魅力はこれから輝く


 その美しさがいつか世界に変革をもたらす時が来るだろうと思う


「これから宜しくファシーノ。それと俺の本当の名はレオン=ジャルディーノだ」


 ファシーノは喜びながら涙を流し 


「はぃ‥‥。——この命、貴方様に捧げると誓いますっ!—— 」


 俺の目の前で剣士のように跪き頭を垂れる。服はボロボロで視線に困るがとても優雅だ


「俺は親の仇を目的に今まで生きてきたが、それも終わってしまった‥‥しかし、バラトロという組織が俺の人生と君の人生を汚した事は事実。‥‥新たな目的ができてしまったな」


 夜の森の中、月に視線を移しながらバラトロについて考えた


 これから忙しくなるな‥‥とファシーノは後ろでまだ跪いている。そろそろ帰るとするか


「ファシーノ帰るぞ。家に」


 跪いているファシーノに手を差し伸べ自身の体に引き寄せた。


 ファシーノは耳に語りかけるような透き通る声で言う


「はいッ‥‥。レオン様‥‥」


 ファシーノは涙を流し続けている。きっとファシーノは涙脆いのだろうな

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