攫われたレオン
エルディート視点
「———まあ!とても素晴らしい試合ですわ!ここまでハラハラドキドキの展開なんてそうそうお目にかかれる物ではございません!」
「———ふふふ、熱心に見られていましたね。先程の生徒会長の魔法はとても圧倒されてしまいますわ。学生でありながら、あそこまでの魔法を扱うなんてね?パエーゼ、貴方もそう思うでしょう?」
「———はい。学生の身でありながら強大な魔力、そして驚異的な魔法は将来期待出来ます。彼の魔法はいずれ我々に匹敵するやも知れませんが、まだ未熟です」
「———あらあら随分と辛口ですねパエーゼ。彼はまだ学生なのよ」
「———学生であろうが、軍では関係ありませんビアンカ王女。我々は王を守る盾であり、世界を悪から守る使命があります。この学園に入学したその時から国を、世界を守る責が課せられます。人族軍総司令である私の立場ではこれ以上は申せません‥‥‥」
「———もうパエーゼったら護衛は分かっているけど、もう少し肩の荷を下ろしてはどう?貴方は全世界の
「———そうですね‥‥‥それにしても今年は随分と良い人材が現れましたね。2年3年もですが、1年のSクラスは2年前、我ら人族国を守り抜いた英雄がいます。それに、各国から集った若き才能。今年の試合は全世界に中継され、皆は度肝を抜かれる事間違いないでしょう」
————会話を聞く限り、アメリ様は先程の試合が気に入った様子ですね。
この学園の生徒会長はどのような人物かと思えば、まさかあれ程の魔法とは‥‥‥
珍しい銃を扱い、その銃から放たれる驚異的な魔法の破壊力。私から見てもあれは怪物ですね‥‥‥超越した存在なのは間違いないでしょう
しかし、白き騎士ですか‥‥‥我々の主とは真逆の存在ですね
まだ、私が光の当たる世界で生きて行けたなら、彼のような者が光ある世界を導き連れ出してくれるのでしょう‥‥‥
そう思うほどに彼は魅力的で皆の心を掴んでいく
光と闇‥‥‥いつか我々の弊害となり、ネロ様に仇なす敵となる
「———ん?」
と、そこで私にある連絡が入りました
「申し訳ありません。少々席を外します」
「ええ、大丈夫ですよ」
ビアンカ様の許可をいただいて私は席から腰を浮かせる。付き人も一緒に付いてきてV I P専用部屋の大きな扉を開けてくれました。
そして、廊下を歩き通信魔法具を取り出します。
赤く点滅していることから、何か事件があったに違いありません
『———どうしましたか”ミネルバ”。何か問題でも?』
通信してきたのは今回の対抗戦で私の護衛をしているミネルバ。何か事件でもあったのでしょうか‥‥‥
『———エルディート様。1人の学生がある組織に攫われました』
『———学生ですか?それは軍が対処すると思いますが、我々と何か関係でも?』
『———それが‥‥‥』
とミネルバは口を閉ざしてしまいました。あのミネルバがわざわざ学生が攫われたくらいで私に連絡をするはずがありません。学生が攫われたのならミネルバの正義感で自分で解決していく子です‥‥‥それなのに一体どうしたというのでしょうか
ある組織とはおそらく我々の宿敵バラトロ、または無嶺の彩色か‥‥‥
どちらかと言ったとこでしょうか‥‥‥
『———ミネルバ?何が起こったというの?』
私は黙り込むミネルバに再度問いかけます。
そして、彼女から発せられた言葉は信じられないものだったのです‥‥‥
『———その者達は、我らが至高なる主。ネロ様がお創りになられた“
『———なっなんですって!一体どういうことです?!』
『———お、恐らく何者かが我らの名を語っている模様です』
ミネルバの報告は俄かに信じられません。我々の名を語り一体何を企んでいるのか‥‥‥いいえ、それよりも我らの崇高なるお方の名を語り、穢した罪人達
決して許しはしないっ‥‥‥!
『———その者達を始末しなさい。我らの名を語る愚か者に粛清を』
『———はっ!攫われた学生は‥‥‥』
『———無論、学生も救出です。決して傷付けぬように』
—————ブツ
そこでミネルバとの通信は終了し、私は平静を装う。動揺のあまり、表情に出てきそうになるけれど、必死に耐えながらV I P席へと歩を進める
「あのエルディート様が‥‥‥動揺しているとは」
私の背後を歩く付き人が、声を漏らすほどに今の私は動揺していた
そして、V I P席の扉を開けて1つ空いている豪華な椅子に腰を下ろした
「あら、エリーさん。丁度よかったわ、今から第14試合が始まります。あの有名な1年Sクラスが出場するので目が離せませんわ」
「そ、そうですか。それは楽しみですね」
「エリーさん少し顔色が悪いのですが‥‥‥」
「し、心配いりませんアメリ様。少々熱くて‥‥」
「まあ!それは大変ですわ‥‥‥そこの人、冷えた飲み物を」
アメリ様は従者を使って、私のために飲み物を持ってくるよう指示しました。
なんとお優しいお方なのでしょうか‥‥‥
「そういえばその対戦相手は同じく1年生のAクラスでしたか?あそこのクラスも今回の対抗戦ではとても見応えがありましたね」
私は話を変えてモニターに映る若い学生達の話を出す。あそこに映る2人が私を地獄から救って下さった‥‥‥月下香の全統括を任せられているファシーノ様。
そして—————
「———え、いない?」
もう1人、黒髪の少年‥‥‥私が心から慕い愛するただ1人の男‥‥‥
その彼がモニターに映っていない?
一体どういうこと
「———そんな、まさか」
獣族としての勘が、女としての勘が働く
先程報告にあった攫われた1人の学生。そして、モニターには黒髪の少年の代わりに別な選手が映し出されているAクラス‥‥‥
「———“エリー”さま?」
私は付き人に指で近くまで来なさいと合図を送る。すると不思議がりながら付き人は私の横顔近くまで顔を近づける‥‥‥そして感情のない小声で耳元に囁く、、、
「———大至急近くにいる構成員、並びにミネルバ以外の五絢を全員学園都市に集めなさい。我々の名を語る愚か者を1人残らず始末しなさいっ」
「しょっ承知しましたっ———」
そしてすぐに付き人は後ろの扉を開けて、出て行った。
その行動が気になったのかパエーゼ総司令は私に質問を投げかける
「———どうしました?付き人が出ていかれたようですが‥‥‥」
「いえ、本日の商談を断りに行かせただけですので、心配入りませんわ」
「そうですか。では、気を取り直して観戦致しましょう」
そうして全員がモニターに映る試合を観戦する。私の心は今にでも飛び出してしまいそうな程に、心臓の鼓動が脈動していますっ
けれど、私の立場上はここからは動けない‥‥‥部下達に動いてもらうしか出来ない。なんて、もどかしいのでしょう‥‥‥
あのお方が一体どうして‥‥‥捕まるような事にっ
わざと自らを犠牲にして捕まりに行ったと考えた方が気が楽になります
しかし、もし、違かった時‥‥‥彼の体に傷一つでも付いていたなら‥‥‥
私はっ————命捨てでも地獄までも、その息絶えるまで逃しはしないっ
◊◊◊
————そして、時は少し遡り試合を控える待合室に場面は映る
「———な、なんだと?!レオンがいない!?あいつどこ行ったんだよっ」
「わからないわ‥‥‥連絡しても繋がらないし」
「ファシーノ‥‥‥ついさっきまで一緒にいなかったのか?」
「いたわ、けど“お手洗い”に行ったきり戻ってこなかったわ」
———待合室でAクラスの代表達はレオンがいない事でざわめいていた。連絡しても繋がらず、誰か見たかと問うても誰も首を縦には振らなかった。
そして、試合開始までの時間が刻々と迫るなか、ファシーノがレオンの代打を決めようとしていた‥‥‥
「———ロゼ、代わりに出てくれる?」
「———ああ、乗った!レオン程じゃないが、全力で全うさせてもらおう!」
そういうロゼは気合が入ったのか、両手の拳同士をガチんと向かい合わせる。
ロゼは獣族トラ族の女子。褐色の肌と紫色の髪、金色の瞳を持つ喧嘩が好きな子
獣族の身体能力と腕力はAクラスでロゼが一歩抜いている。喧嘩口調の珍しい女子だけど、衣服からでも分かるとても綺麗な褐色と引き締まった筋肉はバランスの取れた美貌
そして、何よりトラ耳とトラの尻尾はあのエルディートさんを思い起こさせる。
胸はエルディートさんの方が断然上だけど、ロゼもかなりある方の部類‥‥‥
そしてもう1人は今日一日、試合に出ていたエルフ族のアシュリー
エルフ族の特徴でもある白髪と“彼女”独自の紫色の瞳は吸い込まれそうな程に綺麗。水の精霊ケルピーと契約している彼女は水魔法やそこから派生する氷魔法にとても詳しい
性格はどちらかというとお姉さんタイプで女子達から恋愛相談されている
これで人数は5人と集まったけれど‥‥‥
一体どういうことよ‥‥‥なんの連絡もなしで‥‥‥
みんなには誤魔化したけど、一体何に巻き込まれているの
貴方ともあろう人が何に手こずっているの?
あまり私を心配させないで‥‥‥私には貴方がいればそれだけでいいのに‥‥‥
「———そうと決まれば、もういくしかない。覚悟を決めろAクラス!」
「「「おおぉぉぉぉ!!!」」」
◊◊◊
————そして、場面は医務室に変わる
「———負けた‥‥‥結局奴の思う壺だったわけか」
「———いいえ、レベッカ。貴方はよく頑張ったわ。1人であの生徒会長に挑み、常に笑顔の生徒会長の表情を曇らせた。貴方はまだまだ成長しているわ」
「———そうか。ヴァレンに言われると気持ちが楽になるな」
そんな医務室のベッドで横になっている私たちはダンテ生徒会長率いる3年Sクラスに敗北した。あの時‥‥‥視界が突如として闇に覆われたまでは覚えている
しかし、それ以降の記憶が曖昧で気づいた時には私は医務室の天井を見ていた
ヴァレンは3年のハリバリさんと対峙して互角で決着ついたと言っていた。その他の奴らは私と同様に3年に敗れて、完敗した。
手も足も出なかった‥‥‥ダンテ生徒会長は私の想像よりも遥か先にいる‥‥‥
何が最強の流派だ‥‥‥たった1人も倒せないような剣では何も守れはしないっ
そう自分自身を責め立てると、次第に瞳が潤っていく‥‥‥
「ヴァレン、私はもっと強くなるぞ。誰にも負けないようになっ!」
「ええ、レベッカ。私も負けませんわ」
そして隣のベッドにいるヴァレンと私は約束する。もっともっと強くなって誰にも負けない力を手にすると、、、
しかし、なんだろうか‥‥‥この寂しさは
いつもならあいつが‥‥‥レオンが真っ先に私のとこへ来て心配してくれるのに
「———っ!?なっなぜ私はっ‥‥‥?!」
いつの間にかレオンの事が頭から離れなくっていた‥‥‥怪我で頭でも打ったからなのだろうか‥‥‥なぜ、私は今レオンの事を‥‥‥
「レベッカ?大丈夫?」
「あ、ああ!平気だ!何もやましい事なんて考えていない!」
「えっと、、、そこまで聞いていないけど‥‥‥」
は?!わっ私はなんて愚かなことを!?
なっ何も考えてなどいない!
あいつの事はただの部下でただの生意気な弟子だ!
—————ブーブーブー
「「———!?」」
そこへ私達の通信魔法具が振動した。私達は急いで取り出して、耳元に当てる
受信先は軍本部の機密情報機関
そして、そこから語られた内容は私達に衝撃を走らせた
『———緊急だレベッカ。お前の部下のレオン特務員が
『———は?』
その言葉を聞いた私は理解するのに数秒を有した。先程まで考えていた私の妄想が、崩れ落ちていく感情。喪失感、そして深い怒り‥‥‥
私は居ても立っても居られず医務室を飛び出した
「———レベッカ!待ちなさい!?私も行きます!!」
背中からヴァレンの呼ぶ声が聞こえる。それでも私は足を止めなかった。剣を再び握り、猛獣の如く走った。
「待っていろレオンっ。今助けに行くっ‥‥‥」
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