偽りの月下香

「———さあ!遂に因縁の対決第2段が開始だぁぁ!!1年Sクラス対1年Aクラス!今年の特待生は化け物揃いの精鋭だぞ!?Aクラスに活路はあるのか?!それとも手も足も出ずに敗北してしまうのか!?頑張れ両者ぁぁぁぁ!!!」


「———いけぇ!Aクラス!Sクラスなんかに負けんじゃねーぞ!?」


「———やっちまえぇ!!」





————遂に始まった第14試合。会場が熱で覆われ、大歓声が響く

人々が集まり、会場は満席を超えて、立っている者が道を塞いでいく


全員が空に映し出される選手達に向かって声援を送り、目を輝かせていた


「———1年生同士の対決とはとても青春ですわ!」


「———ええ、これは見応えがありますね」


「———アメリ様、ビアンカ王女。とても楽しめていられるようで、私も興奮して参りましたわ」



私はアメリ様とビアンカ王女の熱に当てられながら、空に視線を送る

そこには各々、1対1の状況がモニターに映し出されていました


そして黒髪を靡かせる美しい女性のファシーノ様は男子学生と対峙しています

あのファシーノ様が助けたと言われる女子学生が相手と思っていましたが‥‥‥



「———人族の英雄が2人と魔族の姫君、エルフ大国の若き天才、天族長のお墨付き‥‥‥よもや、彼らに敵う者はこの学園に数人しか存在しないでしょう。今一度ここで彼らの力を見定めると致しましょう」


「ふふふ、パエーゼったら」



そんな2人の会話は長年共に育ってきた分かり合える存在のよう。2人の雰囲気は王とそれを守る軍人の関係ではない事は明らか‥‥‥とても親しく温かい関係。


見ていてこちらも気分が良くなります




———けれど、あの方の消息が不明の今、私の心は徐々に黒く染まっていく

笑顔を振りまく裏で、私の頭はあの方の事で溢れている


配下達の報告を待ちますが、我慢と言う言葉が嫌いでなりません‥‥‥


早く‥‥‥早く‥‥‥あの方の報告を私まで‥‥‥



◊◊◊



———そして場面は選手達に変わる


最初に対峙したのはAクラスの代表、トラ族のロゼ

そして相手はSクラスの代表、天族のデボラだった



「———初めまして私はデボラです。貴方が相手ですね?良い試合に致しましょう」


「———はっ!私はロゼだ!レオンのかわりだが、甘くみんじゃねーぞ!」


「??レオンさんがいない‥‥‥?」



———そして次に巡り会ったのは、2人のエルフだった



「———私はジル。レオンとやりたがったが、仕方ない。エルフ同士仲良くしよう」


「———はい。私はアシュリーです。ジル様の名声は昔から知っていますわ。私達エルフの憧れと合間見える時が来るとは、思いもしません。全力で行かせていただきます」


「———ああ、アシュリー全力で来るといい。然もなくば勝負は一瞬で終わってしまうっ」



———そして次に対峙したのは魔族‥‥‥7つの大罪の名を持つ2人だった



「———レオン様の気配がしませんが‥‥‥一体どういう事でしょう」


「———ふん。あの方はこの試合に出てはいない。我々だけで十分と悟ったのだっ」


「———ガイ、貴方随分と変わったのね?これもレオン様のおかげね。やはりレオン様はとっても素敵なお方だわぁ」


「———エリザ‥‥‥次代の王の座この俺が貰い受けるっ」


「ふふふ、やってご覧なさいっ!」



———そして次に対峙したのは4人の人族だった



「———ファシーノ頼みがある。アザレアは俺が相手したい」



「‥‥‥」



———そう言う隣のレオナルドは真剣な面持ちで目の前のアザレアを見ている。

2人の間に何があるのか知らないけれど、レオナルドはアザレアに何か思いを寄せているのかも知れない。


しかし、片方のアザレアを見てみるとキョロキョロと仔犬のように誰かを探している。まるでレオナルドは眼中にないと言っているよう‥‥‥


どうしようかしら‥‥‥アザレアはきっとあの人を探している。私も居場所を知らないからどこにいるか教えてあげられない。


はあ‥‥‥レオナルドのアザレアを見詰める視線を見ていると邪魔なのは私の方かもしれないわね。仕方ないわ‥‥‥



「———いいわ。アザレアは貴方が相手しなさい。私はイケメンなワルドス君にしましょう」


そう言って互いに立ち位置を変えて、相手の前方に立つ。

そんなワルドス君の第一声はやはりあの人の事だった


「———レオンはどうした?なぜアイツがいない?」


「さあね、私もわからないわ」


「そうか‥‥‥」



その一言を告げたワルドス君の顔は悔しさと悲しさで溢れていた。きっと彼との対戦を心待ちにしていたのでしょうけれど、残念と言うしかできないわ


それに‥‥‥


「———レオンがいないってどう言うこと?ファシーノ貴方‥‥‥!」


「私だって何も知らないわ。今すぐに探しに行きたいのは貴方だけじゃないわよ」


「‥‥‥そう。なら、早く試合を終わらせるしかないっ!———ワルドス任せたわ!」


「ああ!そっちもな!」



———そして森林演習場に散らばる10人の若き選手は刀剣を抜き、大地を駆ける

10人は衝突し、衝撃波は木々を揺らし、風を巻き起こす


葉は舞い上がり、土は砂煙となって空を覆った



◊◊◊



『———起きろレオン』


「———またお前か」


俺の頭の中に響く声。それは昔から聞こえてくる幻聴のような声

だが、しっかりと頭の中に響くその声は、俺の意識を駆り立てる


『———いつまでも寝ているな。残された時間はもう少ないのだからな』


「———何を言っている。お前は一体‥‥‥」



そして俺の意識は再び闇に落ちていく。その後、目を覚ました時には俺の両手両足は鎖で椅子に縛られ、身動き出来ない態勢だった。


真っ暗な部屋に閉じ込められ、脱出を試みたが‥‥‥


「ふん、こんなもの‥‥‥」


いつものように魔法で引きちぎろうとしたが、予想外の事がおこる


「なぜ、力が出ない?‥‥‥この鎖のせいか」


力が出せない、そして魔力も魔法も出せない‥‥‥このなんの変哲もない鎖が原因とはな


ああ、そうか。思い返してみれば俺がなぜここにいるのか‥‥‥なぜ囚われているのか思い出してきた。


不審な奴らを殺した後、会場に戻ろうとしたが背後からいきなり襲われたんだっけ

面倒くさいから魔法で返り討ちにしようと思ったら、「———あれ、魔法でないぞ?」

となって不思議に思い、余裕をぶっこいてたら普通に反応が遅れてこの鎖に巻かれ、身動き取れずに気絶させられた‥‥‥はず



————ギィィィ‥‥‥‥



と、記憶を遡っていたら目の前の扉が開き始めた。すると扉の先からは黒い衣服を見に纏う男性の体格をした人物が歩いてくる。


コツコツと音を鳴らしながら歩いてくるそいつは俺の前までくると、深く被ったフードを脱ぎ捨てて、姿を現した。そして、そいつはこれまた予想もしない言葉を口にする‥‥‥



「———我々は月下香トゥべローザ。なぜ、力が‥‥‥魔法が出せないか不思議だろう?」


「は?月下香だと?お前達など見たこともないが?」


「フハハハハ!まるで、月下香トゥべローザを知っているかのような発言だな?強がりもこの場では無意味だぞ?」


「‥‥‥‥お前よりは知っていると思うがな」



————ドゴォッ



と俺の顔面を力強く殴る男。俺の左頬が真っ赤に腫れ上がり、口から大量の血が噴きこぼす。


「———グッ」


「貴様に月下香トゥべローザの何がわかる?貴様が殺した我らの同胞はあれでも実力の高い者達だ。貴様のその力‥‥‥我々に力を貸せっ」


「はっ?お断りだっ」



「———そうか」



————ドゴォッ



「もう一度聞く。我々月下香に忠誠を尽くせ。さすれば解放してやろう」



‥‥‥こいつ今度は右頬を殴りやがったな。俺の両頬が赤く膨れ上がっているじゃないか


それに月下香トゥべローザだと?


こいつの顔なんて見た事ないぞ?それに俺が殺した奴らも見た事ない。というかあんな薄汚くて品位もないやつが月下香トゥべローザ‥‥‥俺の組織にはいない


どう言うことだ?反乱でも起こったのか?あの五華が統括しているのにどうやって?


まずは、こいつから情報を引き出そう‥‥‥そして俺を殴った落とし前は付けてもらうぞ



「何度も言わせるな?お前など見た事もない。それに俺が殺した奴らもあんな汚らしい奴ら見た事ないぞ」


「まだいうかガキが。同胞を殺した報い、ガキだろうが容赦しないっ」


「俺がそうやすやすとお前達の下に付くと思うなよ。三流」



————ドゴォ‥‥‥バゴォ‥‥‥



「———フハハハハハ!たまらないな!いいサンドバックだ!」



鎖で縛られ身動きできない俺をいいように殴るは蹴るは続ける男。俺の顔面は腫れ上がり、肋骨は何本か折れ、口から血反吐を吐く。


そして吐いた血で床が汚れると男は多少満足したのか殴るをやめた


「これくらいで許してやろう‥‥‥また来るが、その時の返答が楽しみだ」


そう言って男は扉の方へと歩き、出て行った。

残された俺は血で汚れた床を見詰める。


「‥‥‥あいつ手加減を知らないのか」


吐き捨てるように口を開いたが、血の味しかしない。息を吸い込む度に折れたっ露骨が悲鳴をあげる。痛みが全身を隈なく襲い、なんだか昔の懐かしい感覚を覚える


両親が殺され、森の中1人死に物狂いで魔獣を倒していた時だな。魔獣に肉を喰われ、引き千切られ、腕や足を持って行かれた懐かしくも痛い記憶。腕や足を折られ、曲げられても復讐の為、必死にしがみついていたな。


あの時に比べればどうって事ない‥‥‥この程度の痛みは経験済みだ。


それよりも魔法が使えないことが厄介だな。これでは回復もできやしないな‥‥‥



「———そこの少年。意識はあるか?」



と真っ暗な部屋の中で聞こえてくるもう1人の男の声。その声からはジャラジャラと聞こえてくることから、男も俺と同じく鎖で捉えられていると予想できた


「ああ、大丈夫だ。そっちはどうだ?」


「ああ、俺も大丈夫だとも。あれだけ殴られたのによく意識を保てていたな」


「あれくらいの痛みは慣れている」


「ははは、そうか面白い少年だ。それよりも‥‥‥月下香トゥべローザを知っているのか少年?」


不意にそんなことを聞いてくる男。暗闇の中で顔も表情も見えないが、まあいいだろう


「———いいや知らない。だが、こんなことをする奴らではないと知っている」


「———ふっ‥‥‥それはどっちなんだい?全く、こんな状況でも少年の声からは恐怖を感じないね。君は本当に面白いな」


俺の回答にクスクスと笑う男。そんな彼からの声も恐怖が感じられない。まるで、今の状況を楽しんでいるようにも感じる


「私も月下香トゥべローザがこんなことするわけがないと思っているよ少年。どこか別の組織が偽っているんだろうね‥‥‥本当全くっ‥‥‥反吐が出るねっ」


「あ、ああ‥‥‥そうだな」


男の声が徐々に怒気を帯びていくのが伝わった。何に対して起こっているのかわからないが、あまり深く詮索しない方がいいだろう‥‥‥もしかして情緒不安定?


「———少年、君はさっき奴らの同胞を殺したそうじゃないか?殺すことに躊躇いはなかったのかい?」


「———ない。躊躇いなどしていたら此方が殺されていた。そんな甘い世界では何も守れはしない」


「———そうか。やはり君は面白いね。君のような子はそうそういないだろうね」


「———ああ、俺のような奴は俺だけで十分だろう」



「「アハハハハハ」」



と真っ暗な部屋に響く不気味に笑う2人の声


そしてこの出会いはきっかけに過ぎなかった‥‥‥



「———私の名前は‥‥‥‥アントニーガウル。皆からは“アントニ”と呼ばれている。少年名前はなんという? 」


「———俺はレオン‥‥‥‥“アントニ”さん生きてここを出よう」

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