灼熱の太陽
「———ハァハァ‥‥少し魔力を解放しすぎました」
リコリスは魔力を全解放する。その背後には鳳凰の化身が熾烈な存在感で佇んでいる
今にも喰われそうな程の存在感だ
「とんでもないぞ。その魔力は‥‥‥闘技場を潰すつもりか?」
こんな会話をしているが、俺とリコリスの間には常人には立ち込めない熱風が吹き荒れている
「———いいえ。潰すのは貴方です。これ以上この化身を保てないためすぐに終わらせます。地獄でその愚かさを償いなさい」
「いいや、俺にはまだやることがある。それにこんな俺でも死ねば悲しむ奴がいるんでね。俺は死ねないっ‥‥‥」
言葉を交わす僅かな時間が過ぎ去る
リコリスは覚悟を決めると上部に炎の球体を創造する
その球体は徐々に拡大し、しまいには闘技台よりも大きな炎の球体が創造される
その炎の球体はまさに太陽の様に燃え、溶岩の様にグツグツと噴火している
辺り一帯炎が渦巻き、草は燃え石は溶け始めた
「やばいやばいやばい!!避難しろーー!」
「闘技場から逃げろー!!」
「早くいけっ!押すな!」
「キャぁぁ!置いていかないで!」
観客は皆この闘技場から逃げ果せる。後ろを決して振り替えらずに全力で出口を目指す
「———女王陛下!危険です!避難をっ!」
貴賓室では女王の護衛が避難するように呼びかける
しかし女王は一歩も動かなかった
「———我はここにいる。お前たちは先に避難しろ」
「何をおっしゃいますか!陛下を置いて行くなら私も残ります!」
「好きにしろ」
———女王はなぜ残ると決めたのか。娘を見届けるため?
いいや、違う
(一体この胸騒ぎはなんなんだ‥‥)
獣人の本能が残れと言っているのだ
何か面白いものが見られる、そう告げているような感覚が舞い降りる
だから離れない。本能の従うままに
———そして観客の極一部の数人は闘技場に残っていた
「あわわわわっ大丈夫なんでしょうか?!」
「デリカート落ち着きなさい。彼を信じましょう」
「なんと面白い戦いかな。して問題はこの後のような気がするが‥‥」
その数人はファシーノ達の三名
現在闘技場にいるのはファシーノ達と女王、そしてもう一人重要な人物‥‥
「お姉さま!!ここは危険です!避難しましょう!」
「いいえ!この戦いだけはこの目で見届けるのよ!」
エリーと娼婦達は医務室を抜け闘技場の応援席に来ていたのだ。この熱風の中をひたすらに耐え凌ぎ‥‥
「なんて魔力の重圧‥‥この中で戦っているなんて‥‥貴方は一体‥‥」
エリーは闘技台の上で戦う二人の存在を凝視した
一方の王女は鳳凰の化身を出現させ強大な炎の渦が彼女を包み込んでいる
もう片方の少年はただ立ち尽くし、何もせずに事を待っているかの様だった
(このままでは死んでしまうっ!それだけは、それだけは‥‥)
私はたちすくむ少年を、今にも倒れてしまいそうな少年を潤う眼で見つめる
そしてリコリスの上部には太陽を思わせる炎の球体が出現する
「———きっとあれが、超越した”オリジナル魔法”‥‥」
リコリスは掲げた手を振り下ろすと彼目掛けて灼熱の太陽が落ちていく
今すぐにでも彼から眼を逸らしたいと思ってしまう
———なぜなら過去に親が殺された情景と同じ炎
怖くて足が竦む、でも私は逃げないっ!もうあの時のような悲劇を味わいたくないから。
けど、彼の姿はこの瞳で最後まで見届ける
だから私は必死に叫んだ
たとえ聞こえなくても、届かなくてもいい‥‥‥ただ何もしないなんてもう嫌だった
「お願い‥‥逃げてっ!!」
私の言葉は炎の嵐により掻き消され、灼熱の太陽は彼の目の前まで落ちている
(もうだめ‥‥これ以上は見ていられないっ)
私は彼から眼を逸らそうとした刹那、彼の頭がこちらに振り向いた
そして仮面の奥の黒い瞳が私を見つける
「———っ!」
彼がこちらに振り返った事に驚き、口元を両手で抑えてしまう
(届いた‥‥)
私の言葉は彼に届いたけど時既に遅し‥‥‥もう間に合わないっ‥‥‥
彼と太陽が重なり、炎の範囲爆発が呑み込んだ
◊◊◊
「———ふふふ。もう終わりです。その身にこの魔法を受けられるだけ有難いと思いなさい。地獄で楽しんでくださいね?」
話し終えるリコリスは振り上げていた腕を俺に目掛けて降ろした
太陽と称してもおかしくは無い灼熱の魔法が迫ってくる
そんな時でも俺は考え事をしていた
(もしこの魔法で生き残ってしまえば俺は確実に犯人扱いだ。しかし仮にこの魔法を受けて死んだとしてもそれは違う。死んでは今まで何をしていたのか馬鹿らしくなる。ならやる事はひとつだな)
俺の目の前まで迫ってくる灼熱の太陽。熱風の嵐が肌を焼き尽くし、炎が唸る嵐で何も聞こえない
しかし、そんな時にある女性の声が耳に、身体に届く
その声は一度聞いたことのある麗しい声
———お願い‥‥逃げてっ!!
俺は聞こえてきた方角を探る。その方角は応援席からだった。
首を横に曲げその応援席を見る。そこにいた人物は今にでも身を乗り出し、泣きそうな表情をしたエリーさんだった
(そうか‥‥俺はやはりお人好しだ)
そう。こんなとこで死んではいけない。俺はいつか死ぬ。しかし死ぬのはここでは無い。やるべき事をやってからだっ
それに俺には責任がある。彼女達を仲間にした時から伴う絆。俺は護らなくてはならない。ならやるべき事は決まったな‥‥
———この魔法を消滅するのみ———
そうと決まればすぐに魔力を解放する
太陽が迫り完全に俺を呑み込み、全身が火傷を負い皮膚が悲鳴を上げる。皮膚は溶け出し、身体が燃え始める
それでも俺は魔力を解放し続けた
———そして俺の周囲に黒く青紫のラメが入り交じる魔力が吹き荒れる。
身体の傷や火傷が瞬く間に回復する
体を魔力で覆い炎から守護する。そして俺は頭の中である魔法を創り込む
この太陽を呑み込む程の濃密で重い魔力を‥‥
灼熱の太陽に呑み込まれながら右手を胸の前にかざし、その魔法の名を呼ぶ
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