虚空
太陽に呑み込まれながら右手を前にかざし、その魔法の名を呼ぶ
———
呟いた瞬間、右手からは黒い魔力が集まり球体が出現する
黒い球体は徐々にリコリスの魔法を吸収していき膨張していく
そうこれは、リコリスの魔法を改良した産物
炎で全てを燃やし尽くすならば、こちらは全てを消滅させるまで
黒い球体は一瞬にして拡大しリコリスの魔法を上回り呑み込む
先ほどまでの炎の嵐も皮膚を焼くほどの熱風も全てが消え失せ、黒い球体だけが闘技台に残る
そして俺の姿は無傷そのものだった‥‥まあ衣服はほとんど焼かれたがな
「———は?一体‥‥何をしたっ!あり得ない!なんで‥‥私の魔法がっ!どうやって!?それに、なんだ‥‥その魔力はっ?!」
リコリスは絞り出すように言葉を淡々とし叫ぶ。その顔は恐怖で歪み、絶望していた。足が竦み、全身が震えている
膝を崩したリコリスは頭を抱え、過ちを犯してしまったと悟る
———この‥‥目の前に無傷で立っている存在
俺の周囲を渦巻く黒い魔力の嵐。それを世界ではこう呼ぶ、
本能が身体が脳が瞳が心臓が全力で拒絶し否定する。
決して手を出してはいけない存在
あまりにも超越しすぎた存在‥‥‥にリコリスは死を覚悟していた
「危なく死ぬ寸前だった。君の魔力は凄まじい。数年後には女王を越すだろう。楽しみにしているぞ」
顔が恐怖で歪み、股の衣服が濡れてしまっている
そんなリコリスに俺は優しく語りかける
「———く、くるなっ!!化け物っ来るなっ!」
「‥‥そんな目で見ないでくれ王女様」
俺は座り込んでいるリコリスの側までより、頭を撫でる
彼女はビクリと身体を震わせた
「———すまないな」
しかし。俺の予想外の行動に彼女は思考が止まってしまった。石のように固まってしまい俺はあたふたする
そんな時に女王ストレニア自ら、切羽詰った表情で闘技台に勢いよく降りてきた
◊◊◊
———時を少し遡り、リコリスの魔法にレオンが呑みこまれた直後、貴賓室では女王ストレニアが娘の勝利を確信して油断していた
「———リコリスよ。お前もこちらの領域に来るというのか‥‥妾の引退もそう遠く無いか」
女王の胸に悲しみがしみじみと刻まれる。これまで王に即位して20年。
夫を迎え、娘を産み、歳をとった
最後に愛する娘の晴姿を観るのが女王の願い
(それまでこの椅子を娘のために用意しておかなければ‥‥)
獣人というのは不思議な者だ‥‥我々獣人は子を産むときどちらかの遺伝を強く受け継ぐ。受け継ぐ遺伝は一つ‥‥夫の遺伝が強ければ夫の能力と容姿を
逆に妻の遺伝が強ければ妻の能力と容姿を‥‥
我々狐族は300年間にわたり子は狐族が受け継いで来た。それもそのはず王になると言うことは他の種族よりも秀でていると言うこと‥‥
300年、数々の種族を迎えてきた狐族。しかし一度も他の種族で生まれた子はいない
300年も続けばそろそろ飽きも来てしまう
私はその伝統と言うべきものに退屈していた。
狐族よりも強い遺伝子を受け継げばさらなる高みへと、信じていた
闘技場が炎に包まれている中、女王は未来について真剣に考える
しかしその涼しい顔は一瞬で変わった
この闘技場ではリコリスの魔力が断凸で感じる。しかしもう一つ‥‥新たなる魔力の片瓶が感じ取れた
その魔力は徐々に膨張し巨大になる。まるでリコリスの魔法を媒体として‥‥
椅子にもたれかかっていた身体を勢いよく起こし身を乗り出す
「———馬鹿なっ!!魔力が呑み込まれているだとっ?!それになぜ
女王が驚いているその魔力。リコリスの
「呑み込む‥‥いやっ!喰っているのか!———化け物がっ!」
化け物———娘のそれも女王に匹敵する程の魔法をその身に受けたにも関わらず、その魔法を呑み込もうとする新たな魔法
「はっはは‥‥‥これでは軍も手を煩わせるな」
リコリスの魔法が黒い魔力に完全に喰われる
その場所にはリコリスの魔法に呑まれた少年が無傷で立っていた
それも
「———本性を出したなっ!あの魔法をもろに受け無傷など信じられん!」
しかし目の前には最愛の娘がへたり込み、戦闘の意思を感じられず危険な状態であった
(”オリジナル魔法”をこうもあっさりと破られれば当然の反応か‥‥)
———娘よ今助けに行くっ
女王ストレニアは一心に足を動かし、娘を助けるために闘技台へと降りた
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