ロゼの涙


———休日の深夜に森を歩く1人の女性。体を震わせて、寒さに耐えながら、おぼつかない足取りで何処かへと歩いていた。

彼女はこれから起きるある事を想像しながら、必死に涙を耐えるのだった。





「———寒い‥‥‥‥」





体が冷たくて、白い吐息が空へと消えていく夜。森の中を私はただ、歩き続ける。これからどうなるのか想像するだけで、逃げ出してしまいそうになる‥‥‥


けど、私は逃げられない。逃げてしまっては他の皆が危険に晒される。

この問題が私1人だけで全て解決できるなら‥‥‥みんなを守れるなら安いもの‥‥‥



「————ハハハ‥‥‥心で強がってもやっぱり怖いな。この私がこんなに怯えているのか‥‥‥」




そして森の中を歩くこと数刻。私の目の前に現れたのは数人の男女

それも全員見た事のある顔ぶれ。


それもそうだ、なんせあいつらは—————






「———ようやく来たかよ“ロゼ”。言われた通り1人来るなんて友達思いないい奴だな。けどよ、これから何をされるか知ってきたんだろう?なあ?」



下衆な笑みを浮かべて、私の体を舐めるように見る男。



「———相変わらず趣味が悪いですね。まあ、私は屈辱をはらせれば構わないけど。一年風情が調子に乗るとどういった事になるか‥‥‥見せしめのおもちゃにしてあげる」



そういう彼女は腕を組んで、ゴミを見るかのような瞳で私を見ている。

この2人は学園対抗戦で戦った2年Aクラスの氷帝のガブリオレ、そして3年Aクラスのローズとマリーの双子の姉妹。2年のガブリオレはともかく、私は双子の姉妹の3年としか戦っていない。



2年のガブリオレは主にファシーノにめったうちにされたけど、ファシーノには勝てないと悟ったのだろう。それで、この私を決闘で呼びつけて、卑怯な手を使い、あのような辱めをっ‥‥‥



それに女子はローズとマリーの2人で他は全員男。2年と3年の男が私を気持ちの悪い視線で見ている。

吐き気すら覚えるその視線は何度も経験してきたが、こんな場所で‥‥‥しかも、弱みを握られているこの場では、死んだ方がマシだと思えてくる




「———おっと、睨むんじゃねーぞ。こっちはてめーらにあの対抗戦で、大勢の場で屈辱を味わったんだ。おかげで家族からも格下の奴らからも蔑まれる始末。なあロゼ?同じ獣族としてお前の戦闘スタイルは天才だ。だが、貴族でありS Sランク狼族の兄イゾラートの弟の俺が調子に乗らねーよーにしつけねーとなぁ?」



聞く限りただの八つ当たりの為に、私たちを陥れたのだとはっきり分かった。

狼族の貴族、あのイゾラート様の弟である者がこうも、カスだとはっきり笑えてくる。



「———はんっ何が貴族だ。兄に比べて弟の方は知性がないらしいな。それだからファシーノにても足も出ないんだよ」



そう言うとガブリオレは頭に血が昇ったのか、顔を真っ赤にして、腰に据えている刀剣を抜いた。



「———まだこの状況がわかっていないらしい!お前はどう足掻こうがこの人数を相手して、無事なわけがねえんだよ!それに前にお前の服を脱がせた時はあんないい体しているとは思わなかったぜぇ。所詮、何をしようが卑怯と言われようが勝った奴が全て奪うんだよ!」




そして私に近づいて片手に握っている刀剣を振り下ろした。







「———キャァッ!!」



私はこの人数を相手に、どう足掻いても勝つ未来が見えなかった。

そして恐怖で足がすくんで避ける事すら出来ずに、そのまま奴に衣服だけを切られた。




「———はっ!こんな男勝りなロゼでもそんな可愛い声が出るのかよ!」




ゲラゲラと笑うガブリオレとその後ろで佇む男達。

そんな男達は衣服が切られ、胸を手で隠している私を見て、獣のように興奮している。




「———っ」





私は唯ひたすら我慢した。泣きたくても、唇を噛み締めて、必死に耐えた。

心が折れそうで、とても辛くて、全身が震えていく‥‥‥‥


そしてそんな私をガブリオレは勢いよく、地面に叩きつける。




「———この下衆が」



「———は!いいぜぇその顔。泣いてもいいだぜぇ?まあ、泣いたところで何も変わらねーしな!それに友達も今頃は楽しんでいると思うぜぇ!?」



「———な!お前っ!他の奴らには手を出さないと言うから‥‥‥このクズ野郎おおお!!」



そう、全てこいつらの思い通りってわけか‥‥‥私1人が犠牲になればいいと勘違いしていたのか‥‥‥結局こいつらは約束も何も守らないただのクズ野郎だった‥‥‥‥




こんな奴らに私は‥‥‥私は‥‥‥





「———おいおい!なに泣いてんだぁ?まあその方がオレは大好きだけどな?!ギャハハハハ!!」




————憎い、気持ち悪い



心が‥‥‥もう壊れそう‥‥‥




「———お願い‥‥‥乱暴にしないで‥‥‥」



「———ああ?それはてめー次第だ」






お願い‥‥‥誰でもいい




お願い‥‥‥私を




助けて————









————ガサガサ





◊◊◊ 





———深夜


1学年校舎の時計台の頂上に立つ複数の人影。

それは闇に溶け込み、月の光を拒む者達。




「———そうか。ではいけ」



「「———はっ」」



1人の男が命令するとそれに従う彼女達は姿を決して、何処かへと向かった。

そして残された2人は空に浮かぶ月を眺めた。



「————2人の情報によるとロゼはみんなを助けるために自分を犠牲に向かったか。そしてその決意を踏み躙るように嘘を吐き、他のみんなもロゼ同様になる‥‥‥か」



そんな俺の言葉は冷静そうに聞こえても、瞳に宿る怒りは消えない

その瞳を向けるべき相手はもう見えている。



「———レオナルドとガイは同級生達の元へと向かわせたが、一応デリカートとヴィーナスを付けよう。2人なら大丈夫だろうが保険だな。————俺たちはロゼを追うぞ」



「———ええ、今回ばかりは女性を敵に回した事、後悔させないといけないわね」



「———ああ、ただで済むと思わない事だな。誰の友を弄んだのか、誰の怒りを買っているのか、誰を相手にしているのか、その身に刻み込んでやろう」



そして俺とファシーノは時計台から飛び降りて、一直線に向かう。

俺の瞳に映っている奴らを罰するために———

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