遮る者
「———馬鹿者っ!なぜこのタイミングで来たっ!リコリス!」
突然現れた娘に向かって噛みつく様に怒鳴る女王
それもそのはずこのような地獄の入り口にまだ二十歳にも満たない少女が来るなど許していい筈がなかった。女王は娘の命が第一に優先すべき事
どれほど重要な任務や会議でさえも娘の頼み、娘の危機に至っては娘を優先する。そんな女王でも臆してしまう敵がいる状況でリコリスを守れると思ってはいなかった
愛する娘の為に心を鬼にして一喝する女王だったが、時既に遅し。この地獄の入り口へ来てしまっては逃げ去る事も、生きる事も危ういと女王は感じていた
目の前のバッコスと名乗る老人が女王並びに娘のリコリスを見逃す筈がなく、必ずリコリスも襲いにかかると女王は断言していた。そして死体の山を見据え後ずさるリコリスを女王は側に来いと声を張り上げる‥‥‥‥
「リコリス!妾の側から決して離れるなっ!いいかっ!?」
「——わかりましたっ!」
「ほっほっほ、親子とは実に良いものだ。親子共々冥土に送ろう」
バッコスが放つ殺気で空気が張り詰める。いつ動くか分からない緊張感の中ファシーノはバッコスに向けて怒気を含んだ声を浴びせる
「———彼はどこに居るの?」
「彼?ああ、あの少年のことか。そうだな、少年なら先に冥土へと送り届けた。貴様らも共に送り届けるとついでに伝えておいた。ほっほっほ悲しいか?お嬢さん」
「‥‥そうね」
バッコスに突き付けられた言葉をファシーノは瞼を下ろし首を垂れながら聞いていた
その姿を見ていたバッコスは悲しみの仕草だと捉えては、至福を感じ喜んでいた
しかし、それはバッコスの勘違いであった。ファシーノは悲しんでなどいなかった。ファシーノの仕草はレオンの魔力を感じ取るためであった。
そしてレオンの魔力の燈が微かに感じ取れ、完全に消えていない事がわかると顔を上げ、仮面の奥でバッコスを見つめ微笑み笑った
「なんだその顔は?」
舞宴会用の仮面を身に付け微笑むファシーノに苛立ちを覚え、その気に食わない態度に殺気を増す老人。
そんな老人を鼻で笑い下に見るファシーノは目の前の哀れな存在に語りかける
「愚かな人‥‥貴方は彼の本当の姿を知らないから言えるのよ?ほんと哀れな人‥‥」
「小娘がっ!」
二人は虎視淡々と睨み合い、今にでも戦闘が起こりそうなそんな矢先、屋敷の屋上からファシーノ達に向かって人影が飛び降りてくる
何かを背負っている様に見え、ファシーノ達の前で優雅に着地した
その人影は黒いローブを羽織り仮面を身に付けているある少女だった
「———ファシーノ様、エリーさんを確保しました」
「よくやったわ、デリカート」
エリーを背中に背負い飛び降りた人影はデリカートだった
標的を確保した事を伝えるとファシーノの後ろへと下がるデリカート
その一部始終を見ていたある男はデリカートに向けて叫んだ
「そ、その女は俺のだぞ!?なぜ貴様が背負っている?!今直ぐ寄越せ!」
「あなたの様な下衆に渡すと?あまり苛つかせないでほしいわ」
マイアーレは背中に背負われる人物がエリーだと分かるとすぐに強奪しようとした。しかしファシーノに拒否された事でマイアーレは苦虫を噛み潰した様な顔をする
そして白髪のバッコスに泣きついた
「——バ、バッコス様っ!どうか、何卒お願いします!」
「——まあ、良い。どの道全員屠るのだから‥‥」
言い終えるなりバッコスは杖の鞘から刀をゆっくりと引き抜く。その刀に月明かりが照らされ一線の輝きが周囲に放たれる。バッコスは刀を握る腕をダラリと下げる。全く隙が無く、いつ斬りかかりに来るかを警戒する
しかし斬りかかりに来ると思っていた全員が謎の圧を体全体で体感していた
「なんて殺気を放つ‥‥貴様っ」
バッコスの殺気は先程よりも鋭さを格段に上げまるで別の物であるかのようだった。女王はバッコスの圧が猛者の殺気だと認識する。全身が凍りつくように女王の周りに展開している軍は肩を震わせていた
もう一つの勢力である
何かを求めている様に、待ち望む存在を———
暗い空では雲が張り詰め、大地を照らしていた三日月が姿を消していた
それも次第に風と共に雲が避け、青々しい月光が再度大地を照らし出す
バッコスは力強く刀を握ると両足に力を込め、全員を一度に視る
そして最後の言葉を掛ける
「———さて、話はここまで。貴様ら覚悟しっ————」
————おい、爺さん。まだ勝負は終わってないぞ
しかしその言葉は何者かにより途中で遮られたのだった
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