「「「———っ!!」」」


どこからか聞こえて来た少年の声。この屋敷にいる全員が声の聞こえた方に視線を移す


視線を移した先はバッコス‥‥‥ではなくその背に位置する屋敷


バッコスはすぐさま後ろに顧みて、声を発した少年をまじまじと見詰める


「———貴様っまだ生きて居ったか。その傷を受け如何して立っていられる‥‥?」


このバッコスの発言は至極、的を突いていた。全員が少年の姿を見ると息を飲み込み戦慄する‥‥‥


「ネロ‥‥様‥‥」


「なんて姿‥‥」


発するべき言葉が浮かばず、口を上下に動かす月下香トゥべローザのメンバー


余りにも悲惨で残酷な姿


全身血に染まったレオンを見て両手を震える口に添える。片腕を失いもう一方の腕で斬り落とされた腕を鷲掴み、胸には深い傷が斬り込まれ、大量の血が地面に落ちていく。レオンが歩いて来たと思われる屋敷からは一線の血痕が伸びていた


血痕の伸びる先に佇むレオンが今一度、血塗られた口を動かした、


「———爺さん、何も驚く事はない。これが俺だ。流石に死んだと思ったけどな」


「貴様は‥‥‥一体何者だっ」


今にも胸にこみ上げて来た疑問をバッコスは吐く。レオンを斬り伏せ、胸に深い傷を負わせ、右腕まで斬り落としたというのに生きている。それも屋敷内部から自ら歩いてここまで来る異常性。普通の人間なら大量出血で1分も満たない程に逝ってしまう。立ち上がり歩く事など前代未聞


バッコスの瞳が徐々に疑惑へと変わり、疑念の嵐が現れ始める


(こやつは何故生きている、何故立っていられる、何故笑っていられる‥‥一体此奴のどこにそんな力があるというのだ‥‥‥このままでは計画が台無しになってしまう。早急に片付けねば———っ!)


思考を巡らせていたバッコスはレオンの不可解な行動に思考を一時、停止する


不可解な行動とはレオンが徐に切り落とされた右腕を左手で切断面に押しつけていた。すると斬られた筈の右腕と切断面の傷が消えていき次第に皮膚と皮膚が重なり、腕が接合した。


「———っな!馬鹿な!」


驚いているバッコスを尻目に右腕の指をピクッと動かし動作を確かめるレオン


「‥‥‥いい具合に回復したな。回復魔法はとても便利で助かる」


レオンは回復魔法と呼んで納得しているがバッコスは信じられない物を見たかの様に異を唱えた


「それが回復魔法だと言うつもりか!?戯けがっ!それは回復魔法ではない、それは一種の蘇生魔法だっ」


バッコスの放った言葉はこの場全体に響き渡り、またも全員が衝撃を受ける


「蘇生、魔法だと‥‥そんな代物まで扱うかっ」


女王はバッコスの述べる言葉を疑いはしなかった。なぜなら、女王も蘇生魔法について知っていたのだ


それを目の前で見せられては疑いの余地がなかった 


世界一の聖魔法を扱う大神官でも一瞬での接合は不可能。数時間の時間を掛けて徐々に腕を生えさせていくのがやっとの領域。それをレオンは一瞬で接合して見せた。これは世界の常識を覆てしまう事


そして月下香トゥべローザは先程までレオンの悲惨な姿を見て、声を押し殺してしまっていた。


しかしレオンが腕を接合させた行動を総覧してから少しずつ気持ちを落ち着かせ、状況を再認識する。そんな中ヴァルネラが火口を切る


「なるほど蘇生魔法も主は扱うのだな。全く、とんでもない奴が主になってくれたもんだ」


「あれが蘇生魔法だったなんて‥‥もう、心配して損したわ」


「とても悲しいのにネロ様が凄すぎて何だか気持ちがゴチャゴチャになりますぅ」


最初にヴァルネラが発言しその次にファシーノ、デリカートと続く

転移を扱い蘇生も扱うレオン。常識を覆すレオンはもう人間を越え、新たな生命なのかと疑ってしまう


また蘇生魔法を知ってかしらずかのレオンは、それ程気にする素振りを見せずにバッコスに感謝した


「そうなのか?それはいいことを聞いた。感謝する」


そんなレオンの態度に拍子抜けしたバッコスは不愉快げに内心舌打ちをする


「貴様が何故その魔法を使えるのか疑問が尽きないが、今はもういい。もう一度殺してやろう。今度は蘇生できないほど細かく切り刻んでやる。その小娘の両親と同じようになっ‥‥‥ピピスト、そのサンプルを絶対に落とすな」


「承知致しました」


隣のピピストに命令を言い渡したバッコスは先にレオンを屠ろうと刀の血先を向ける


「まずは貴様からだ、ネロとやら」


「いいや、もうその刀は俺には届かない‥‥」


辺り一面に夜気で冷えた血の匂いが立ち込め、鼻を襲う血生臭い人の悪臭


この場に居合わす人の息をする呼吸の音。静寂に漂う、颯颯たる冷たい風は血の海に波を起こす


二人は殺気を解放し、周囲に纏う空気を張り詰めさせる。主力外の者は地獄の針の山を歩く様に足がすくみ


国全体を照らしていた月明かりは国を呑み込んで行く


国の端から徐々に月光が屋敷へと集まって行き、最終的にある一人の存在の元に集約した


月光がより一層神々しく煌き、側かもその光景を見る者達はあることを思う


その存在は悲しみを自ら乗り越え、力を宿し絶対的な自信を持つ強者か


または身体が瀕死状態にあるにも関わらず立ち向かう愚者の姿か


両方とも正しく当てはまる存在は今目の前にいる———



「———お前は如何いう奴かは知らない。しかしお前達は一人の女性の人生を壊し、涙を流させた。”お前を滅ぼす”のに十分過ぎる理由だっ」



そしてレオンの口から発せられる言葉

この次に呼ばれるであろう言葉を瞬時に察知したファシーノは行動にでる


「——っ!今すぐ魔障壁を全力で、死にもの狂いで張りなさいっ!!」


ファシーノは女王に向かって全力で投げかけた。ファシーノの必死な警告は女王でもたじろぐ程に圧を含んでいた。女王は素直に警告を受け止め、自軍に命令を下す———


「———今すぐに魔障壁展開の準備を始めろっ!!」


「「「はっ!」」」


早急に魔障壁を唱える軍を横目にリコリスは恐怖でただただ圧倒されていた


「お母様、一体何が起ころうとしているのでしょう‥‥」


「‥‥リコリスよ。絶対に妾から離れるなっ。月下香トゥべローザの慌て振りから何かとてつもないことが起こるやも知れん。気を抜くな!」


女王こと獣王ストレニアは今から起ころうとする事態を把握しきれずにいる

レオンの本当の姿を見た時、女王は‥‥‥リコリスは一体如何行動するのかはまだ知らない


そして遂に訪れる。レオンの口から呼ばれる魔法なのか魔法では無いのか未だに謎の魔法



———それは



———来い ラ・ヴェラ・オスカリタ———

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