世界を二つに隔てる魔法
———ある言葉を呟いた途端に突如吹き荒れる魔力の嵐。それは俺を中心にして巻き起こる暴風の渦
体から溢れ出てくる黒い魔力が屋敷全体を黒一色で覆う
黒い魔力は俺の胸の傷を癒し、完全に傷痕すら残さずに治していく
「———貴様‥‥一体っ」
バッコスはただ呆然と呟くだけ。魔力の嵐から最も近いバッコスは俺という超越の存在を再認識するしかなかった。雷に打たれた様に、呆気に取られた哀れな表情を作り出す
バッコスの双眸に映し出される感情は恐怖や憤怒に怨嗟の類。
俺がここまでの魔力を解放するのは凡そ半年振りの事。大切な仲間を守り、一人の女性を救うことができるならば、例え世界から憎まれようと人々から蔑まれようと俺は躊躇わず行使しよう
「———これが
「お母様‥‥これが
女王が魔障壁の内側で独り言のように言う通り、闘技場で魅せた魔力は俺のほんの一部に過ぎない
今こうして解放しているのが俺の全力———
そして軍単位の強固を誇る魔障壁にガラスの様にヒビが入り始めていた
「女王陛下っ!これ以上魔障壁が持ちませんっ!こんな、こんな事っ‥‥我々の魔力でも抑えられないなんてっ!」
「弱音を吐くなっ!枯渇するまで魔力を出し続けろっ!然もなくば死ぬぞ!」
パキパキと音を発しながらヒビが拡大して行く中、レオンの魔力も音に比例し膨張していく
そして俺の前に黒い魔力が集約しある形が創造されていく
それは黒剣の様な代物。真黒でいてかつ、黒よりも更に奥深しい闇の彩色。
その黒剣からは魔力が揺ら揺らと漏れだし、まるで黒煙の様にも捉えられる
———俺は目の前に創造した宙に浮いている黒剣を蘇生させた右腕で掴み取る
「———ああ、この感じ堪らない。半年ぶりだな、力を貸してもらうぞ———そしてバッコス。お前は俺の全力を持って冥土に屠ろう」
そう告げると、黒剣を握った右腕を上段に掲げる。屋敷すら覆う黒い魔力の嵐。禍々しく濃密でいて繊細な温かい魔力が少年を中心に暴れ回る。大量の慘死体と庭を埋め尽くす血の海に佇む一人の少年
まるで死体から魂をかき集めているかのような息を飲む光景
———その姿を目にした者は誰もが同じ事を思うだろう、
その崇高なる気高しさはまさに
———冥界の王———と
「———ファシーノよ。以前、あれが其方の前で見せた主の魔法か?」
「ええ、そうよ。あの魔法は‥‥例えSSSランク、そして神すらも脅かす無の魔法。けど魔法なのかも怪しいわ‥‥‥」
「ネロ様の魔力がどんどん増して行ってます。私の魔力も共鳴してなんだか体がふわふわします!」
———俺とバッコスによる最終決戦
それを魔障壁の内側で見守る
そしてもう一人
後に俺達と共に歩むだろう人物が暗闇から目を覚ます
◊◊◊
———ここは‥‥‥?
次第に目を覚ます黄金の瞳。そして感じとる禍々しい魔力
エリーは意識を取り戻し、何かに気付き始めたのか表情が焦りに変わる
「———この黒い魔力は一体?‥‥‥貴方たちは誰!?」
「あ!エリーさん目を覚ましましたか!私たちは組織
「ネロ‥‥様?———そうあの人の名前なのね。それに彼方には女王陛下までいらっしゃるなんて‥‥それにこの大量の血の匂い‥‥」
エリーが見据える視線の先では二人の決着の時が訪れていた。黒い魔力の渦で逃げ場が無いバッコスは覚悟を決める。鋭い刀に全力の魔法を集約させる
「貴様はいずれあのお方の脅威になり得る存在だここでワシが始末する」
またも抜刀の構えを取るバッコスだがその構えは少し違い、その抜刀には魔法が練り込まれていた———
「———行くぞっ 桜月流奥義
抜刀の構えから繰り出されるそれは彼岸花の花びらの様に赤く飛び舞う斬撃
何百何千と倍増し迫りくる血のように真っ赤な花弁
大地を斬り咲き、空気を斬り咲きながら俺の元へと迫りくる
「———ではこちらも取っておきを魅せてやる。覚悟は、いいな?」
——万物の根元を全て無に
——存在や価値も無意味
——そこに存在せず
——存在しないと言う概念すら存在しない魔法
——それは——
「———
上段に振り上げていた右腕をバッコス目掛けて振り下ろす
黒剣から放出される魔力は高密度に圧縮され一線の黒い斬撃を産む
その黒い斬撃は天まで昇り詰め、大地の底まで届く程に巨大で一線に突き進んでいく
それはまるで黒い魔力の壁を思わせ、”世界を二つに隔てる”
この世界を二つに隔てる黒い斬撃は迫りくる真っ赤な花弁を吸収しバッコス目掛けて襲い掛かる
「——っ!!ワシの魔法が吸収された!?こんなことが‥‥こんな小僧ごときにワシは負けると言うのかっ?!こんな事があって言い訳がぁぁあぁぁああぁぁぁぁあああ‥‥‥‥‥っ!!」
———黒い斬撃はバッコスを呑み込み姿を消す
いや、消したのではなく存在していなかった
それがバッコスの最後の叫びとかしたのだ
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