格の違い


「———ハッハッハッハ!小僧!我らを知っているというのか?!面白い‥‥若くして冥土へと逝け!———お前らこの小僧に魔法という物を浴びせてやれっ」


男の合図と同時に後ろに控えていた数名が魔法を詠唱し始める。



「小僧‥‥さらばだ!‥‥‥炎槍天っ!」


すると、俺の上空に巨大な魔法陣が浮かび輝き始める。俺は上空を見ながら思う事があり、これは確か授業で習ったことがあるものだ。集団詠唱魔法だとかなんとか‥‥‥個の魔力だけではなく数人から数十人の魔力を掛け合わせることでより強力な上位魔法を扱えるだったかな。



まあ、この程度の魔法で俺をどうこうできはしないがな。蚊に刺された程度の痒み‥‥‥素手で充分過ぎる。


そうこう考えているうちに上空の魔法陣からは炎の槍が無数に落ちてきていた。まるで雨のように天から降り注ぐ炎槍は見ていても美しく、派手さがある。1人を殺すのに最大限の慈悲とやらは持ち合わせていないようだ。


しかし、まあ俺を中心に半径20mに降り注ぐ炎槍では逃げることは出来まいと思い込んでいるだろうなあの男は。逃げれるのは逃げれるがここは敢えて格の差を見せつけてやろう‥‥‥





———上空から迫り来る無数の炎槍。僅か0コンマの世界で繰り広げられる嵐。

大地に触れれば燃え上がり、草木を灰に変えていく。半径20mを炎の嵐が覆い、灼熱の大地に作り変える。いつまでも大地を燃やし、降り注ぐ炎槍。


そして、森に鳴り響く金属音


およそ数分間にも及ぶ裁きが続き、炎の内側は焦土と化した土や草木。

この光景を眺めていた男は害虫を排除したかのように、背を向け遺跡の内部へと入っていこうとしたその時‥‥‥



「———おい、どこへ行くつもりだ?遺跡の内部に何かあるのか?」


遺跡の方へと歩を進めるや否や声の聞こえた真後ろに男は振り返ると、炎の中で佇んでいる若い男に驚愕し声を荒上げる。



「———っ!?馬鹿な!何故生きている?!」


「何故?この状況を見れば分かるだろう、貧弱な魔法で俺を殺せるとでも?次はこちらの番だ‥‥逃げるなよ」


俺はそう宣告すると真っ直ぐ炎の中を歩く。学生服は多少焦げたものの体は無傷。あの程度の炎では火傷もできないな。


「クソっ‥‥!さっさと小僧を殺せ!」


炎の中から無傷で歩いてくる俺を凝視しては更に無数の魔法を放ってくる神の従者ディオ・バレット


しかし、その全てを蚊のようにはたき落とすと彼らは後ろへとたじろぎ体を震わせる。リーダー格の男は喉に詰まらせた声を無理やり吐き、歩いてくる俺に怯えていた。


「ばっ‥‥化け物が!貴様は本当に学生か?!最上級魔法を喰らって無傷など‥‥貴様は一体‥‥‥」


ほう‥‥あれは最上級魔法だったか。どうりで魔法陣がいつものより若干大きいはずだ。集団詠唱で最上級魔法か‥‥学園に入学してから新たな知識が増えるばかりだ。とても面白いではないか‥‥



俺は石段を登り、地に尻をついている奴らを今度はこちらが見下ろす番だ。


「俺が誰だろうと死んでいく奴に教えてどうする?俺を殺そうとしたんだ、殺されても文句はないだろ?」


「「「———ヒッ!た、助け‥‥」」」



————ボトッドサドサ



痛みすら感じない一瞬で数人の首を手刀で跳ねる。地面に首が落ち、体が横たわる。首のない体から血が遺跡の隙間に流れ込んでいく。

俺は血の付いた右手を払い、遺跡の奥へと進むため血の上を歩いていく。


死体を越え、光の入らない奥へと進んでいくと一筋の光り輝く道が現れる。


「どうやらこの先のようだな」


誘われているのか知らないが、進んでいくと今度は光る球体が無数に現れ、不規則に動く球体は生きているのか、まるで意思を持って動いているようにも見えた。


「さあ、この先に何があるのか見ものだな」


光る球体に誘われながら暗闇で光る道を頼りに、俺は前に進み続けた。



◊◊◊



「———これであらかた集めたわね!いい皆!ここから絶対に動いちゃダメよ!すぐ後ろに魔障壁が貼ってあるから触ったらタダじゃ済まないわ!気をつけてね!」


「「「は、はい!」」」



———場面は変わり、レオンが遺跡へと辿り着く数十分前の出来事。

アザレア達特待生は森を駆け回りながら一万人の一年生達を回収し、凡そ9割を集め終えていた。アザレア、カメリア、ベラの三人は同級生一年生の様子を確認し疲弊してる者には手当を施し、食料と水を分け与えていた。そんなときアザレアの同級生で同じ特待生のワルドスが声を掛ける。


「アザレア!そっちは大丈夫だったか!?」


「ええ、なんともないわワルドス。心配してくれてありがとう。それと大体、集めたわね」


「ああ、これで全員だと嬉しいがまだいるだろうな。コキンとテルが残っている学生を探している。そしてエリザとジルが別行動で魔力の発生地を捜索している。残りの特待生はここに残り負傷者の手当と魔獣を一掃するのが命だ」


「そう‥‥了解したわ」




———新たな命令をワルドスから告げられた。しかし、私の心配はそんな事よりも‥‥一番大事な事がある。何度も確認したけれど、ここに集まっている一年生の中にはいない人物。


そう、レオンの姿をいまだに見ていない。命令なんか無視して今すぐに捜索に行きたかった。けど、その気持ちを押し殺して今は負傷者の手当てを優先しなければならない‥‥


「どうして‥‥私は肝心な時に何もできないの‥‥」


こういう時の為に私は強くなったのに‥‥もうレオンを1人にしないって決めたのに‥‥強くなって守れるぐらいになったというのに‥‥どうして私は‥‥

自身の不甲斐なさを恨みたい‥‥


「テルとコキン‥‥必ず見つけて‥‥‥‥」



————グォォォォォ!!!



「‥‥な、何?!」


突然、森の奥底から魔獣の咆哮が雷のように響き渡った。


「な、ななんだこの声は?!」「お、俺たちは何もしていない!」「も、もう帰りたいぃ」


謎の咆哮に取り乱し、混乱する大勢の一年生達。必死に落ち着きを取り戻すよう促しても聞く耳を持たず、恐怖で体を震わせる。

私は負傷者の手当てをカメリア達に任せて前線で魔獣を見張っているワルドス達の元へ駆け寄る。


「アザレア!今の聞いたか!?」


「ええ!かなり深刻な状況ね。Aランク魔獣‥‥それかそのもっと上の何か‥‥」


森の奥からドスドスと大地を揺らしながら近づいてくる“何かに臨戦態勢をとるアザレア達特待生組。背後に一万人の同級生と負傷者、そして前方には迫り来る”何か。まさに一生一代の危機的状況にアザレア達は襲われていたのだった‥‥

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