救い


———私は男に連れられいつもの個室に入る


「———今日もいらしたのですね。”マイアーレ公爵様”」


「———当たり前ではないかっ!最高級のその容姿と肉体は全ての男が欲しがるからのぉ。しかし、それはワシの身体じゃっ!ゲヘヘっ」


「いつもお高い額を付けてくださりありがとうございます‥‥」


———屈辱‥‥‥私はこのマイアーレ公爵がとても憎いっ


今こうして笑顔で接待しているけど、そもそもこの娼婦街に来たのも全てはこいつの企て。こいつが私の家を‥‥‥大好きなお父様を全て奪ったっ!


今でも決して忘れることはない記憶‥‥‥



———数年前もともとこのマイアーレ公爵とは商会同士で争っていた


私の家柄は伯爵で地位もそれなりにあったけど公爵にはかなわない


しかし商会での利益では年々公爵に近づいていった


公爵はいくつかの鉱山を持っており金を注ぎ込むことによって成り立って行った


しかし公爵の野蛮で人を嘲笑う性格が年々露わになり利益も落ちて行った


そこに私の父親の商会が公爵の商会に迫り、追い抜いてしまった


このことが原因で公爵は度々嫌がらせをして来ていた

しかし私のお父様は物怖じせず堂々としていた


それに公爵は面白くなかったのでしょう‥‥


そして事件の日がやって来る


7年前の夜 屋敷が何者かに火をつけら、屋敷は全焼しお父様が還らぬ人になってしまう‥‥‥

調査隊が派遣されたけど、証拠は出てこなかった。けど確実にあいつの仕業なのはわかったっ‥‥‥


財産も富も名誉も伯爵の位も全て消され、私は娼婦に身を落とした




———それから7年。毎日泥水を啜りながら毎日必死に働いた


そしていつの日か『花魁』とまで呼ばれるようになり娼婦達にも慕われるようになった


私は身寄りの無い娼婦達の姉のような存在になり、辛く涙を流す子、精神が不安定な子、恋をした子。


様々な悩みや相談を受けて来た


皆は『私に救われた』と言っているけど、私はそこまでのことはしていないのに‥‥皆優しくて可愛い子


でも、私のポッカリと開いた心は塞がることはない‥‥


たった一つの願いすらも叶わず


私はお父様のような立派な商会を営むべく、これまで資産を集めて来た


しかし商会を一から営むのは莫大な資産が必要


他に方法はないかと考えていた時、獣武祭に目が突いた


獣武祭の優勝者は莫大なお金が約束されている


もし優勝すればお父様の再建がなせると思い2年前に初めて出場した


もちろん他の娼婦の子達に止められたけど


私の『たった一つの願い』を聞き入れてくれて送り出してくれた‥‥‥


戦ったことなど今まで一度も無かった。しかし闘技場に立つとなんだか体が熱くなり、心臓の鼓動が早くなり視界が白黒になった 


初めて黒豹族の血が騒ぎ出した———


すると周りの時間が遅くなったかのような感覚に襲われ、意識が朦朧とし相手を瞬殺していた。観客も誰もが驚愕していた。娼婦の女が勝利した瞬間、会場の歓声が最大限に高潮した


初出場の年は決勝まで上り詰めたけど、一人の女性に完膚なきまでに叩きのめされた。去年も同じ女性に敗れ今年は3度目。絶対に優勝しなければならない


彼女達を守るために‥‥


「———そういえば明日は獣武祭だったな?わかっておるな?もし今回で優勝できなければ私がお前を買うっ!もし断りでもしたら義妹達がどんな目に合うか知っておろう〜?ゲヘヘヘっ」


公爵は不適にその気持ちの悪い顔で笑う


「———はい。承知しております」


———私はいつになれば自由になれるのだろうか———


———いつになれば空の下を自由に歩けるのだろうか———



◊◊◊



———そして事を済ませ、満足した公爵と別れる


部屋を後にして娼婦宿に戻る最中、大勢の娼婦達がエントランスで待っていた


皆私の義妹達。この娼婦街の娼婦が半分以上ここに集まっていた


「姉さん!あんな奴の言う事聞かなくていいよ!!」


「そうです姉御!あんな豚の言う通りになるんだったら死を選ぶ!」


「そうです!お姉ちゃんは私たちのことなんて気にする必要なんてないです!」


「いつも私たちの悩みを聞いてくれて希望を持たせてくれて‥‥大好きな姉さんがあんな奴の道具にされるのは嫌です!」


大勢の義妹達が詰め寄って来るけど、静かに首を横に振る


「いいえ。大丈夫よ。私も貴方達と一緒にいて救われたのよ。みんな私の家族だもの家族を守るのが私の役目よ?だからみんな‥‥‥泣いちゃダメよ?」


義妹たちに本心を告げるとみんな泣き出してしまった‥‥‥


(あらあら。大変ね、折角のお化粧が台無しになってしまうわ)


涙を拭い、自分たちの部屋へ戻るよう促す


義妹達は最初引き下がらなかったけど、ついに諦めて部屋へと戻っていった


「私も少し疲れたわ‥‥明日は獣武祭。もう寝ましょう」


魔力灯を消し眠りに入る。そして再び夢からさめた時に戻る


彼女は眠れずに考えていた。


(彼は獣人では無かった。ならどこの種族なのかしら。もしかして明日の獣武祭に出場するのかしら‥‥)


少しの期待と淡い感情を秘めて彼女は目蓋を強引に閉じ、再び眠りに入る

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