第三勢力 崇拝する者達
———アザレア視点です
◊◊◊
———休日の夜、時刻18時を回る頃。学園地区内に建設された巨大な施設‥‥‥
“同盟軍本部"にてある重要な会議が行われていた。人数は数十名と少なく、建物の規模と人員がとても不釣に見えてしまう。
しかし、この重要な会議に出席しているのは世界から集められた選りすぐりの魔法剣士であり、この場にいない魔法剣士は建物内に何千と滞在している。
そんな選りすぐりの彼らだけが一部屋に集まり、神妙な面持ちで会議を聞き、皆が見る視線の先には軍服を纏う中年男性が透明なボードに文字やらを書き込んでいた。
その面々の中には
「———では作戦は以上だっ!各班配置に着け!標的を確認次第捉えるもしくは、その場で抹殺せよっ——」
「「「———はっ」」」
その瞬間、数十人と居た会議室には誰一人として存在しなかった———
◊◊◊
「———気を引き締めて行きましょう‥‥‥アザレアさん達も準備はいい?」
「「「はいっ」」」
———ある黒髪の女性の合図に私たちは気合を入れると、瞬く間に移動を開始した。現在、私たちが向かっているのは学園都市の商業地区、高級街と言われる一角。学園地区内同盟軍本部から走る事約1時間の距離を移動していた。勿論強化魔法によって脚力を大幅に向上させている。そして今回は魔車を使わずに行動厳守との命を受けている。
そして、私達の先頭を風のように走る黒髪の彼女は人族国の王族、ヴァレンチーナ先輩。なぜ王族である彼女と私達がこうして同じく、ある“任務”を遂行しようとしているかと言うと‥‥‥
———私は、“同盟軍”極秘魔法部隊所属のアザレア
全種族の軍が同盟軍と名前が変わり、その同盟軍の少数精鋭である極秘魔法部隊。私達の所属するこの部隊は学園都市をあらゆる脅威から秘密裏に守護し、敵を抹殺する為の部隊。
選ばれた学園Sクラスの一握りと選ばれたSランクの軍人で構成され、常に6〜7人で行動を共に任務を遂行する。一介の学生がこの学園都市を陰から護り、その手で敵を屠るなんて考えもしないでしょうね‥‥‥
でも、それだけ学園のSクラスから選ばれた人は貴重な戦力と認められているという事でもあり、私達以外の班も学園都市中に分配しているわ。
それでも私達の“六人”が選ばれるとは思わなかったわね‥‥それに先頭を走るヴァレンチーナ先輩が極秘魔法部隊に所属していたなんて最初は凄く驚いたわ‥‥
まさか故郷の王族‥‥それも綺麗な黒髪で背が高くてお姫様のような存在が‥‥
血に染まる部隊に所属なんて誰も想像していないでしょう‥‥
そんなヴァレンチーナ先輩と班を組んで1ヶ月が経つ。私達は予め入学前にこの部隊に配属されてその最初の班長がこの人。初対面の頃はまさか王族だとは思わなかったけれど、これまでの経緯を聞いて感動してしまったわ‥‥
2年生にして学園序列2位の実力を持ち合わせるそんなヴァレンチーナ先輩はここ最近、一層剣を振るっている。理由を聞くと『とても面白い新入生が‥‥』って言っていて楽しそうだったわ
と話は置いといて‥‥今回何故私達が急遽呼ばれたかというと‥‥‥
「アザレアさん、それに皆さん‥‥今回の標的は二つの組織が絡んでいます。常に警戒を怠らないように」
そう、ヴァレンチーナ先輩の言う通り今回の任務は標的の確保、または抹殺。そして二つの組織の対立が勃発して、内片方の組織は一般市民を複数人も殺害している。いかなる理由があっても到底許される事のない人を殺める行為。なんの罪もない人々を殺害する凶悪な組織。そんな組織が現在この学園都市で逃げ回っている。なんとしても捕まえないといけない‥‥
「絶対に逃しはしないわ!」
風と共に走り、風と共に私の声は消えていった———
◊◊◊
「また‥‥‥戻ってきてしまったわね。レオンはもういないわよね」
時刻は19時。ヴァレンチーナ先輩率いる私達の班は商業地区の高級街に辿り着いた。つい数時間前まではレオンと一緒に高級レストランをご馳走になっていたのに‥‥もっと一緒に楽しみたかったけど、あの日常を守り抜くのが私の使命。
レオンを‥‥もう悲しまないようにすると決めたあの日から‥‥‥
私の意思は決して揺るがないわ!
—————ドォォォォン!!
そう‥‥誓いを再び思い起こさせたその時、高級街の近くで爆発音が響わたった。
「——!?これは‥‥‥皆さん急ぎましょう!」
「「「はい!」」」
魔法を放った衝撃波が私達の肌にまで届き、ヴァレンチーナ先輩の号令と共に音の鳴る方へと全力で駆けた。
高級街の近くということはレオンはまだそう遠くまで逃げていないはず‥‥もしかしたら‥‥ううん、考えるより一刻も早く向かわないと!
◊◊◊
「———はあ‥‥はあ‥‥何んという事‥‥人がこんなにも‥‥」
「———ああ、これはひどいぜ‥‥なんだって罪の無い人々を‥‥!」
音の鳴る方へと全力できた私達は目の前の惨劇に目を見開いた。
高級街のある道が死体で埋め尽くされ、大量の血が地面に流れ、建物に飛び散っている。恐る恐る死体を確認するとこの方達は最後まで苦しみながら死んでいった様子‥‥何箇所も体を貫かれた跡、あまりにも酷い‥‥
「ヴァレンチーナ先輩!応援を呼びましょう!」
私はヴァレンチーナ先輩に応援を要請するよう声をかけるけど、ヴァレンチーナ先輩は奥の闇の中をじっと見つめていた。
「アザレアさん魔法具で各班に連絡を!至急この高級街に集まるよう要請を‥‥早く!」
「は、はい!」
あの落ち着きのあるヴァレンチーナ先輩が声を荒上げる程に事は一刻を争うと察した私たちは魔法具を取り出し各班に連絡を試みようとした。
しかし、ヴァレンチーナ先輩がじっと見つめていた闇の中から人影が姿を現すと私達に向かって魔法を放ってきた。
「「「———!!避けろ!」」」
「クっ———」
ワルドスの声で咄嗟に避けた私達は無傷で済んだ。体勢を立て直し魔法を放ってきた人物の方へと視線を戻し、臨戦態勢をとる
「貴方達!怪我は?!」
「大丈夫です!今は目の前に集中しましょう!」
私達が見据える闇の中、その闇から現れた者達はフードを深く被り素顔を見えないようにしていた。人数にして数十人、私達の方が人数振りの状況だけど今ベラが応援を要請している。一番近くにいる班で早くて十数分‥‥それまで私達が相手をしなくては‥‥
「———はっはっは!また随分と遅かったな同盟軍!その様子だと死体の道を踏んできたのか?なんと、なんと!遅い到着だ!?全く持って無能無能無能!!」
突然、暗闇の中からフードを被る一人の男が高らかに笑いながら私達の方へと歩よってくる。軍を侮辱する言葉が並べられ私達は怒りを露わに睨み返す
「貴様らか‥‥なんと酷い事を!何の為に罪のない人々を手にかけたのだ?!
答えろ!」
ヴァレンチーナ先輩の怒声が静寂に包まれた高級街に響き渡る。そんなヴァレンチーナ先輩の言葉を男は笑いながら返した
「はっはっは!‥‥‥なんのためと?そんなの決まっていよう‥‥“頂の魔法”を求めるため!貴様らも2年前その目で見たのだろう?どう感じた?恐怖したか? はっはっは!俺はな昂ぶったさ!この世にあれ程の魔法が存在したなんてな! ああ、今思い返してもあの魔法は”美しい”‥‥っ!」
男は夜の空を見上げながら大声で語りだした。そんな男に不気味さを感じた私は男を更に問い詰める
「一体‥‥それと人を殺める行為にどう関係があるというの?!許せないわ!」
「はっはっは!何を抜かす!貴様らも知っているはずだ!人を殺し、そいつから魔力を奪う禁忌の魔法を!奪った魔力を自身の魔力と融合させ、更なる境地へと踏み入るための魔法をな!」
「「「———な!!」」」
この男の発言に驚愕する私達。禁忌の魔法は知っていたけれどまさか‥‥そんな事に使われるなんて‥‥一体どれだけの人を殺めたと!
私は今すぐにでも剣を抜き、目の前で笑う男に斬りかかろうとする。しかし、それをヴァレンチーナ先輩に制止されてしまった
「何故止めるのです!?あの男は!人を‥‥なんの罪のない人を何十人と‥‥ 私が斬りますっ!」
「落ち着きなさい!たとえ貴方でも相手の力量差を見間違う程に落ちぶれていないはずです!冷静になりなさい!」
「———くっ!」
「———はっはっは!さすがは見る目がある。貴様が隊長か?ならば最初に部下からジワジワと苦しみながら殺すとしよう」
そう言った男は背後に潜ませていた集団を展開させると私達の周囲を囲い逃げ道を塞いだ
「なるほど‥‥‥生かして返さないという事ですか。舐められたものです。一つお聞きしますが、あなた方は一体何者です?」
私達の周囲が囲まれた状態でも決して隙を見せないヴァレンチーナ先輩。余裕の笑みを浮かべ敵の男に尋ねると、男は口角を上げ答えた。
「———我らは頂の魔法を求める者の集い‥‥
目の前の男は高らかに宣言しては自身の世界に浸っている。こんな男から”虚無の統括者”の名前が出るなんて思いもしなかったけど、この男もまた“彼”を崇拝する一人
しかし、私とこの男では全くもって異なる。近づくために人を殺すなんて行為は決してしない。この男は渇望するあまり人の領域を踏み外してしまった外道。この男がいる
けどまだ決定ではない‥‥バラトロの刺客か‥‥またはそれ以外か‥‥いいえ、考えても無駄。今は目の前の外道を始末するのが先決!!
「‥‥神の使いですか 随分と大層な者ですね。あなた方は此処で始末しますっ!」
「はっはっは!貴様らの魔力も我らの糧となるがいい———!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます