諜報隠密部隊


「———それで、奴らは“バラトロ”ではなく第3の勢力だと?」


「———はい。それもこの世界で“ネロ様”しか扱えない“頂の魔法”を求める為、大勢の一般市民を手にかけています‥‥」


「一般市民を?一体その行為にどんな意味があるというのだ?」


「‥‥‥禁忌の魔法です。人を殺し、その者から魔力を奪い取り、己の糧とする魔法です。その対象は魔力量が多い人ほど奪う魔力も倍増し、力を増してしまいます」



———アザレア達がいなくなった後の高級レストランでは俺とファシーノ、そして久しぶりに会うデリカートが現在の学園都市の状況を報告する。


時刻は19時を回る頃、アザレア達が去ってから1時間程が経過していた。

どこからか連絡があった後、アザレア達の様子が少し慌ただしくなった事から俺は怪しみ、隠密諜報部隊の隊長であるデリカートに連絡を入れた。


そして月下香トゥべローザのトレードマークである、目尻だけを隠した仮面と黒い戦闘服を身に付けたデリカートがすぐさま駆け付け、俺たちに状況を伝えたまでが現状だ。


そして俺は先程まで食事していた卓上に視線を向けて、残っているデザートを手に取り頬張る。


(この“ケーキ”とやらはとても美味しい。生クリームとやらが濃厚でふわふわの生地との相性は悪魔的だ)


「‥‥‥随分と美味しそうに食べているわね‥‥それでどうするつもり?あの“幼馴染達”に任せるの?」


む?ケーキを美味しく食べていたらファシーノに睨まれてしまった。ファシーノが座っていた席の卓上を見るとデザートが残っている。どうやら食べるのを我慢していたのだろう、何の躊躇もなくケーキを頬張った俺には罪悪感が残ってしまった。


‥‥それよりもどうするか。デリカートからの報告を簡潔に解読すると“頂の魔法”を求める勢力が悪さをしている。魔力を手っ取り早く集める為には人を殺す事が簡単で、禁忌の魔法を使用して奪っている。



そして‥‥‥どうするんだ? 



俺の魔法が世界からは“頂の魔法”と呼ばれているが‥‥それを手にしてその勢力は何が目的なんだ?世界を破壊でもして理想郷でも創る気なのか‥‥?情報がまだまだ少ない


‥‥‥‥だがっ、罪のない人々を殺す行為をこの俺が見過ごすわけがない


殺された者達にも家族は必ずいる。悲しむ者が山ほどいる


そうだよな‥‥俺のような者を二度と出さない為に‥‥俺はっ‥‥‥



「———ああ、行くぞっ。デリカートは他の構成員を至急集めたら第三勢力が何処にいるのか探れ。俺も探すが、手分けしよう。見付け次第連絡をよこせ」


「——はいっ」


跪くデリカートにそう伝えると窓から差し掛かる月の影と一緒に消えていった。さすがは隠密のプロ、闇は十八番だな。


さて、俺たちも準備を始めるか‥‥アザレア達が無事だと良いが‥‥



◊◊◊



「———デリカート様っ!奴らを見つけました。報告によると同盟軍の部隊と対峙しているとの事‥‥どうなされますか‥‥?」



———私の部隊所属の部下が報告を伝えにやって来た。“彼女はとても優秀な私の部下。誇らしげに思う程に‥‥そして私も少しは大人になり、口調もファシーノ様に似せている。


子供っぽい口調は卒業したの、そっちの方がネロ様に気に入られると思ってね?


それに組織の中ではとても好評でびっくりしたの‥‥男性達からは毎日お花をもらう始末だし‥‥もうお部屋に収まりきれなくて困っている程‥‥ってそれどころではないわ!



「ええ、勿論行くに決まってます!ネロ様にその場所の位置を早急に!」



部下にそう伝え、私は報告のあった場所へと駆け出した。私は建物の屋上を次々に飛び、背後には数人の部下が付いて来る。 

まるで夜空に飛び回る星々のように、耳のピアスが光を反射し風に靡いた



「———あそこです!」


すると後ろを走る部隊の一人がある場所を示す。その場所へと目を向けると道には死体が転がり、血の海と飛び血が建物を染めていた‥‥けど、今の私には見慣れている光景だった


ネロ様の為に、私の唯一の居場所である組織の為に‥‥この手は多くの血で染まってしまった‥‥でも、それでも構わない


———私達のネロ様に仇なす者は私たちが葬るっ




私は拳を力強く握りしめて建物と建物の間の道に着地する。

無惨に転がる死体と血の海を真っ直ぐ歩いていく


「———っ!誰か戦っていますね。貴方達、行きますよ!」


「「「———ハッ!」」」


死体が転がる更に奥から聞こえる衝撃音‥‥‥もう誰かが戦闘を始めている様子‥‥‥急がなくちゃ!


私は血の海を走る。続いて私の部隊が後ろを走り、体制を整える。

足音をできるだけ殺しながら目標へと近づいていく。


そして暗闇の中、視界で捉えたのは‥‥‥全方位を囲んだ謎の集団と、全方位を囲まれた特殊な軍服を纏う数人の若い魔法剣士だった———



◊◊◊



「———くっ!なんて数っ?!応援が来るまで持ち堪えるのよ!」



———私達は今、窮地に立たされていた。全方位を囲まれて攻撃を仕掛けて来る集団に私たちは防戦一方。向かってくる魔法を、迫る剣を受け流すだけで精一杯の状態。攻撃の数という暴力が私たち七人を襲っていた


「なんて数の攻撃!これでは反撃の隙が見えないわ!あの男に近づければ!」


「‥‥アザレアの言う通りあの男以外は私達の格下‥‥だけれど、数で押し切る魔法に、向かって来る敵を受け流すだけで精一杯。周囲は建物が並び、これじゃあジリ貧ね‥‥」


カメリアもみんなも疲弊している。極力魔力を抑えて戦っているけど、このままでは私達の方が先に力尽きてしまう。一体どうすれば‥‥‥


「———っ!?‥‥‥なっなに?!」


戦いの最中、一瞬何かを感じた私はその方向に視線を向ける

応援‥‥?いいえ、これは仲間ではない感覚のもの

一般市民‥‥それも違う


では一体誰がそこにいるの———




「———貴方達が我ら主君を愚弄する集団?」




「「「——!!」」」


その時、私が向けた視線の奥から女性の声が響き渡る。

敵方は繰り出していた攻撃を中断し、声の聞こえた方角に体を向けた。


しかし、敵方は声の方向を見るなり怯えるようにして後ずさると一筋の道ができる。そして開かれた一筋の道の奥からは、ある集団がこちらにゆっくりと歩いて来る


「———ま、まさか!遂に‥‥遂に!この時をどれ程待ち続けたことか?!よくぞ、よくぞ‥‥‥‥!!」



無嶺の彩色アクロードのリーダーと思われる男が突如現れた集団に感銘している。一体、誰が現れたというのか‥‥‥闇の中で姿がはっきりと確認できない



「———待つ?何を言っているのか理解出来ません」



そう言いながら暗闇を歩いてくる女性。足音を聞くと複数人であるとわかる



「———まずは再会の挨拶と行こう!!———やれ!」



無嶺の彩色アクロードのリーダーが謎の彼女に攻撃を仕掛ける。私達と対峙していた人数を今度は彼女目掛けて襲わせた。そんな中優雅に歩いて来る“彼女”。徐々にその姿が暗闇からはっきりと確認される



「———デリカート様。ここは私一人にお任せください」



歩いて来る彼女の影から徐に現れた人物はそう告げると、自身の腰の剣を抜く

そして低い声で敵を睨み、襲いかかる数十人を前に剣を一度だけ振るった。



「———主君に仇なす愚か者よ。格の違いを知れ」



刹那、数十人の体が二つに分断され、地面に転がる死体と同じく無造作に転がった


「「「———!?」」」



瞬きを許さない一瞬の出来事。先程まで私達を苦しめた集団がたったの一振りで壊滅させられる様を見て、震え上がった。全身に雷が落ちたかのように私は衝撃を受ける


「なっなんて速さなの?!一体何者———っ!ま、まさか!」



———そう、気づかない方がおかしい‥‥先程見せられた彼女の神速の剣でも私達に衝撃を与え、畏怖すら感じてしまう程。


そんな彼女が敬意を示している先頭を優雅に歩くデリカートという女性は更に上位の存在


この威圧感と圧倒的な力を見せられて、分からないほど落ちぶれてはいない!


「はっはっは!!!さすが、さすがです!!やはり本物は格が違う!!一体どうやってそれほどの力を手に入れることができるのか!!是非とも知り得たい!我らが望む力を持つ月下香トゥべローザよ!!」

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